表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
晩照の章
144/167

〈7〉知らせ

 一時的な隠れ家としてウヴァロを選択したルナスたち。けれど、成り行きとして同行しているコーラルはウヴァロの面々を信じ切れてはいないようだった。それも無理からぬことではある。


「兄上、兄上は本当にここの人々が我らの居場所を漏らさずに匿ってくれると信じているのですか? ……我らはこの地を顧みなかった。ウヴァロの者たちが我らに味方するとは思えぬのです」


 そうつぶやいたコーラルに、ジャスパーは苦笑した。


「俺はジャスパー=ロームと申します。こうして軍の末席に身を置かせて頂いていますが、俺はウヴァロの者です。俺の故郷であるこの地が顧みられなかったのは少し前までのこと。今ではご覧の通り、この地は息を吹き返しています。王太子殿下が、我らに手を差し伸べて下さったのです。ですから、我らはあなた方を裏切りません」


 コーラルはハッとしてルナスを振り返る。ルナスもそっと笑った。


「私は手助けをしたに過ぎない。この地が生まれ変わったのは、商人スピネルの手腕であり、ここの住人たちの努力によるものだ」

「そう、なのですか……」


 憑き物でも落ちたかのような顔をして、コーラルはそれだけつぶやいた。黙り込んだコーラルの傍らでルナスはジャスパーに真剣な目を向けた。


「ジャスパー、私はスペッサルティンに対抗する兵力を集める。伝令を頼めるだろうか?」


 スピネルの指導により、ウヴァロの者たちは馬を扱えるようになった。各地へ援軍の要請をすることも可能である。


「はい、お任せ下さい」


 ジャスパーがひざまずくと、ルナスはうなずいて告げた。


「まずは前宰相ゼフィランサス――お祖父様のもとへ。こちらには面識のある君に向かってもらいたい。アンターンス家もだ。フォラステロ領にはヴァーレンティンが戻っているかも知れない。そちらにも連絡してほしい」

「はい」

「トリニタリオ領のトールド卿、それから伯父上の侯爵家も――」


 横からコーラルも口を出す。


「クリオロ領の母の実家にも頼めるだろうか」

「もちろんです」


 ジャスパーは力強く答える。


「ルナス様、コーラル様、親書をしたためて下さい。それをジャスパーたちに託しましょう」


 アルバの言葉に二人もうなずく。そうしてアルバはにこりと笑った。


「ロヴァンス家――うちの父と兄なら知らせる前に異変を察知してくれるとは思いますが、クリオロ領に行くついでがあるのなら、この場所だけ知らせてもらえると合流が早くなりますね」

「ああ、ロヴァンス卿とエルナがいてくれたなら心強い」


 ただ、とルナスは一瞬だけ表情を険しくした。


「もし伝達に向かった者が親書を持っている状態でスペッサルティン側の人間の手に落ちたなら、言い逃れはできぬだろう。危険を承知で、その覚悟を持ってもらわねばならない。それでも頼めるかい?」


 ジャスパーを始めとするウヴァロの面々は、その言葉に臆することなくジャスパーに続いてひざまずく。


「この命に換えても成し遂げます」


 誰かがそう答えた。けれど、ルナスはかぶりを振る。


「命の危機を感じたなら、ことを急がぬように。途中で連絡が途切れるよりは遅れた方がまだいい。その身の安全を考えれば知らせもより早く着くと、どうか命を守りながら進んでほしい」

「はい、お言葉をしかと胸に」


 

 そうして、ルナスとコーラルはそれぞれに親書をしたためた。スピネルが事務仕事のためにと用意してくれた紙やインクがあり、それが王族が使用するような最上級の物でないとしても表面上の体裁は整った。急であったために封蝋にする印は何もなかったけれど、近しい者であればそれが当人たちの筆跡であると気付けるだろう。


 それぞれに親書を託し、ルナスたちは伝達に出向く彼らを見送る。ウヴァロの子供たちや夫人は不安げにしているけれど、恩義を返す時が今なのだということも理解している。

 ざらつく風が吹く中、ルナスはまぶたを伏せて彼らの無事を祈った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ