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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
晩照の章
143/167

〈6〉城壁内部

 ルナスたちと別れたレイルは、人目に触れないようにするりと物陰に隠れた。

 まず、どう動くべきか。


 スペッサルティンが王位の簒奪を願うなら、王位継承権を持つルナスやコーラルの身は危ぶまれる。王都から一人離されて蟄居しているベリルは急に殺害されることはないだろう。

 そして、女児であるパールは別だ。他の使い道を考えて生かされる可能性が高い。ルナスの妃となるべくやって来たネストリュート王の妹姫、ティルレットも同様である。むしろ、彼女だけは絶対に害することがないと言える。この地で最も安全であるのは彼女だ。


 けれど、リィアは――。

 一兵士に過ぎない彼女はその限りではない。

 見付かれば、血眼になっても見付けられない王太子をおびき出すための餌として使われるだろう。だから、その前にリィアのことも助けに行かなければならない。ルナスならば罠と知りつつもリィアを助けに向かうのではないかと危惧される。


 それでは駄目なのだ。

 ルナスには生き延びて、根源であるスペッサルティンを押えてもらわねばならない。ここで彼の手に落ちてもらっては、この国の未来は潰える。

 だからこそ、リィアが鍵となるのだ。


 そう理解しつつも、レイルの足はリィアがいると思わしきパールの居住棟ではない方に向かっていた。

 リィアの重要性を理解しつつも、それでもレイルにはもうひとつ優先せねばならないことがあった。


 ルナスと約束し、託された。

 信じろともっともらしきことを口にしたのは、ああでも言わねばルナスは引かないと思うから仕方がなかった。こればかりは――。


 レイルにとってもそれは苦渋の選択であった。リィアを見捨てるわけではない。

 ただ、レイルも信じることにしたのだ。

 自分の用件が片付くまで、リィアは持ちこたえてくれると。そうしたらすぐに駆け付ける。

 どうかそれまでは無事でいてと願うことしかできなかった。


 自らの背負うものの重み。それは自らの勝手ではどうにもならない、連綿と受け継がれたもの。


 レイルは突然の凶事に逃げ惑う人々と、それらを追う人々の中に紛れながら奥へと進む。

 スペッサルティンの側に付いた兵たちも、使用人のように戦闘力のない人間を殺傷することはなかった。拘束しているところを見ると、ことが済むまではどこかに閉じ込めておくつもりだろう。彼らには彼らの正義に従って動いている。レイルにとってはくだらないと言えるけれど、確かな大義名分がそこにはあるのだ。

 だからこそ、厄介なのである。


 兵士同士の戦闘も要所要所では繰り広げられていた。どちらが優勢であろうとも、そのひとつひとつにレイルが構っているゆとりはなかった。

 スペッサルティンがこの時を選んで挙兵したのは、王を守る兵が自らの計画に賛同した者たちの番になったためではないだろうか。例えば、とてもスペッサルティンに加担しそうもないアイオラやヴァーレンティン、ロヴァンスたちは自らの領地や地方へ足を運んでいる。急いで駆け付けたところで間に合うかはわからない。


 王の身は、すでにスペッサルティンの手のうちであるのだろうか。

 それとも、ルナスへの気休めのために言った言葉通り、気概のある連中が粘っているだろうか。

 あの頼りない王は、それでもまだ王であるのだ。

 スペッサルティンに敵うはずもない、凡庸な人間でしかない王ではあるけれど、それでも国のためにと生きて来たのだ。

 最後にあの王ができることは、容易に死なぬこと。

 それのみであるとレイルは思うのだった。


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