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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
双糸の章
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〈5〉麗しき都

 レイヤーナ人は取り分け美しいものが好きで、衣服や装飾品の流行も目まぐるしく変わる。軍服ですらどこか華々しく洒脱であるし、建造物もそのシルエットを見るだけでも計算された美であった。ペルシのように無骨ではない。


 そんな美に関心の高い人々が住まう国で、ペルシの船はなんの趣もない船であったのだろう。どこか嘲笑めいた表情で身綺麗なレイヤーナの兵士がルナスたちを自国へ迎え入れる。

 けれど、降り立った国王の名代である王太子の麗姿に、兵たちは一瞬言葉を失っていた。見とれるほどに整った美貌の王子は、ペリドットのような瞳を兵長に向ける。兵長はようやく、先に船からもたらされた情報を再確認するように声を上げた。


「ペルシ王国王太子、ルナクレス=ゼフェン=ペルシ殿下。ようこそレイヤーナ王国へ。王城へご案内致します」

「ありがとう」


 声も美しく響く。スペッサルティンはこうしたレイヤーナ人の気質を考慮した上でルナスを名代としたのかも知れない。そして、それはとても効果的なように思う。リィアは兵士の様子を眺めつつそう感じた。

 ルナスはそうしたことをどこまで感じているのかわからないけれど、その顔に微笑はなかった。作り物のように美しく表情を浮かべずにいる。

 リィアたちも兵に促されるままに馬車へと乗り込み、王城へと案内されるのであった。


 

 道中、町の中はお祭り騒ぎだった。窓の隙間から垣間見ただけでもそれがわかる。ネストリュート王の誕生月である今月はずっとこの調子なのかも知れない。とは言っても、品格を重んじるレイヤーナの人々が酒に溺れて醜態をさらすようなことは稀のようではある。



 一行はそうして、揺れの少ない馬車から降り立つ。馬車の滑車が滑らかであったのか、街道が十分に舗装されていたのか。きっと、その両方なのだろう。

 眼前のその城はやはり美しく、白く、小高い丘の上に聳えていた。見上げれば小塔が多く天に伸びて、どこか幻想的であった。


 優美な城ではあるけれど、この城の主は兄王子を退けて王位に就いたネストリュート王である。穏やかさなど期待してはいけないのだろう。そう、リィアは正面に佇むルナスの背に目を向けながら拳を握り締めた。その心中を思い遣りながら。



 ネストリュート王の生誕を祝うためにここまでやって来たのだ。城は祝い事に浮き足立ちつつも、そこかしこに配備された兵がそのムードに水を差すようにも思われた。諸島の国々から賓客がやって来ているのだから無理もない。

 その中で一番の警戒対象となっているのがきっと、ルナスたちペルシ王国の人間であるのだろう。


 ルナスの名が高らかに読み上げられ、城内へといざなわれる。

 豪奢な飾り房が施されたビロードの垂れ幕。金糸を織り込んだ絨毯。窓を彩る芸術的なステンドグラス。圧倒されるほどに煌びやかな城内を、ルナスは気後れせぬように気を引き締めて歩く。デュークやアルバも主に恥をかかせてはいけないと思うのか、堂々としたものだった。レイルの心中はわからないけれど、平然として見える。リィアも目まぐるしさを感じつつも必死で歩くのだった。


 まず通される先は謁見の間であるのだろう。

 けれど、そこへすぐには通されなかった。まず、数人の人間が用意された椅子に座っているホールに辿り着いた。この先の扉が謁見の間であるのだろう。

 ただ、この時期のネストリュート王に謁見を求める者は多い。いかにルナスが王族であろうとも、最優先とは行かないということだ。


「しばしお待ち下さいませ」


 兵士は壁際に用意された高級感のある猫足の椅子を勧める。ルナスは兵士が離れた後、すぐにそこに座るでもなく室内の様子を眺めていた。そんな時、ふと眼鏡をかけた理知的な青年がルナスの方に顔を向けた。細身で神経質そうな印象の青年は、この場にいるのならばそれなりに重要人物であるのだと思われた。ただ、どこかの王族であるとは考え難いような民間人らしき様子でもある。

 それでも、その瞳は揺るがずルナスを見つめ、その身に背負う責任を感じさせた。


 隣に座るのは彼の夫人であるのだろう。どこか不安げに彼を見上げていた。

 その青年は立ち上がるとルナスの方へ歩み寄って来た。デュークが一瞬警戒をしたけれど、その細身の青年に戦闘など不向きにしか見えなかった。伴っているのも夫人だけで、護衛の一人もいない。

 青年はにこりともせずに口を開く。


「あなた様はペルシ王国ゆかりのお方でしょうか?」


 敵愾心は感じていないのか、ルナスは身構えることもなく首肯する。


「はい。ペルシ王国王太子、ルナクレス=ゼフェン=ペルシと申します」


 すると青年は小さく息をついた。


「やはりそうですか。諸島内の他の王族の方々とは面識がありますので、そうではないかと思いお声をかけさせて頂きました」


 その言葉に、ルナスはぴくりと反応する。この青年の正体がつかめなかったのだろう。


「失礼ですが、あなたは――」


 青年は眼鏡を押し上げ、そうして再び口を開いた。


「シェーブル共和国議長、ザルツ=フェンゼースと申します。どうかお見知りおき下さい、ルナクレス王太子殿下」 


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