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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
喪失の章
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〈12〉無邪気な策略

 その後で通された応接間に、ルナスたちはいた。


「リィア、ゆっくりできたかい?」


 ルナスはにこりと麗しく微笑む。リィアは笑い返そうとするのに、上手く行かなかった。


「はい、ありがとうございます」


 そんな言葉だけ言っても、この顔では要らぬ心配をかけてしまう。そうは思うのに、どうしても笑うことができなかった。

 ルナスはやはり表情を曇らせ、気遣うような瞳をリィアに向ける。それを感じ取ったゼフィランサスがルナスに声をかける。


「では、殿下、今日はもうお休みになられますか? 部屋を用意させましたので」

「ありがとうございます、お祖父様」


 ルナスは祖父へと顔を向ける。ゼフィランサスは少し寂しげな目をしていた。


「明日には発たれるのでしょう?」

「ええ。私としてはもっとゆっくりお祖父様とお話したいものですが、あまり城を空けるのは危険ですから」


 そこでふとゼフィランサスはリィアを一瞥し、それからルナスに言った。


「彼女はアンターンスの家の方がよいかと思いまして、そちらに頼みました。セラフィナが喜びますし」


 ゼフィランサスは、そのひと晩でリィアがフィーナにほだされるように願っているのではないかと思う。思いやりからだとわかっていても、リィアは複雑である。

 ルナスの夢を共に追いかけるのは、女の身ではそんなにも困難なことなのかと。


「そうですね」


 と、ルナスも答える。けれど、それから不意に立ち上がると、リィアの前に立ち、じっと目を見つめてくるのだった。


「ルナス様?」 


 リィアが戸惑いがちに言うと、ルナスは柔らかな視線を向けるのだった。


「もし旅で疲れが出ているなら正直に言ってくれ。無理などしないように」


 一兵士の体調にまで心を砕いてくれる。そんな優しい気質だからこそ、ゼフィランサスは心配なのだ。

 彼の言い分は、きっと正しい。


「私は大丈夫ですよ」


 と、リィアは笑った。今度こそ、上手く笑えたはずだと思う。


 

     ※ ※ ※



「ねーえ、あなた。どう思う?」


 フィーナはソファーに腰かけて本を読んでいた夫に後ろから腕を回す。シオンは幼妻の言動に微笑んだ。


「どうって?」


 短く訊ね返すと、フィーナはシオンの正面に回り込んだ。そして、ソファーの隣に座って顔を覗き込んで来る。


「リィア姉さまのこと」


 フィーナが軍になど入った姉のことを案じているのはわかる。シオンにとっても義姉ではあるのだから、心配でないはずはない。ただ、彼女は軍においては王太子付きの護衛であり、陸軍軍曹のシオンとはほぼ接点がなかった。気にかけるとは言っても、何かをできるはずもない。義父のヴァーレンティンですらそうなのだ。


「うん、思ったよりは勤めやすそうだったな。殿下はもとより、ラーズ大尉やロヴァンス中尉も女性だからと見下すような感じでもなかったし」


 その回答は、フィーナの及第点には到達できなかったようだ。少し拗ねたような顔付きになる。


「そうじゃなくて!」

「え?」

「姉さまには誰が合うかってこと」

「ええ?」


 シオンは困惑して目を瞬かせた。


「誰って言われてもなぁ……」


 選択肢はそう多くもない。ラーズ大尉かロヴァンス中尉かのどちらかだろう。

 ロヴァンス中尉は海軍中将を父に、少佐を兄に持つ名門の人間である。今武術大会の覇者でもあり、実力も申し分ない。それに、容姿も整っている。

 これだけ並べ立てると非の打ち所などないようだが、実際はそうでもない。

 彼は気ままで、扱いにくいのだと聞く。その奔放さにあの頑なな義姉リィアが合わせられるとは思えないのである。


 ここは消去法でいって、ラーズ大尉の方がまだいいかと思われた。

 仮にもそんなロヴァンス中尉を従えているのだから、それなりに人品優れているのだろう、と。


「私はラーズ大尉の方がいいかと思うけど」


 すると、フィーナはぱっと顔を輝かせた。そうして、シオンにギュッと抱き付く。


「嬉しい! わたしもそう思っていたの。わたしたち、やっぱり考えることは同じね」


 選んだ理由は多分同じではない。けれど、フィーナが嬉しそうなのでそこは黙っておいた。

 少しだけ体を離すと、フィーナは言った。


「でも、世話を焼かないと姉さまは絶対にあのままよ。だからね、わたしとあなたでちょっとだけ手を貸してあげたいの」

「手を貸すって?」


 上手く行けばいいのだが、失敗した時が恐ろしい。だから、あまり炊き付けるようなことはしたくないとシオンは思うのだが、結局のところ愛しいフィーナには逆らえる気がしないのである。

 フィーナはキラキラと輝く瞳で嬉しそうに計画を語るのであった。


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