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1:遍七刻の軍人①

SFホラー映画のノリを取り入れた作品となっております。

怖さの中に笑いあり。

ホラーは舞台であり、キャラクターがメインとなっております。

少しでも笑っていただけると嬉しいです。

 段丘台地の訓練地は、何段にも重なる段丘が広がり、巨大なクラックが縦横に走る。

 林がクラックの縁に沿って不自然に生え、中には立ち枯れているこの場所は、訓練用に作られた地雷原だ。


 そこを、十代半ばで構成された三十人の新人軍人が全速力で駆け抜けている。


(まだ足取りが危ない)


 ぱきぱきと低い音が響くたび、フェヴァは厳しい眼差しで新人を見つめる。


 彼は十八歳の少年だ。しかし達観したような顔つきのため、実年齢よりも大人びている。


 短く整えた赤茶色の前髪が左側から割れて額を見せているため、眉から黒い瞳の下にかけて、二筋の古い刃物傷がよく見えた。


 体つきは細身だが筋肉質で、立ち姿に揺れがない。

 コンバットスーツを胸元まできっちり留め、最小限の装備をつけている。


 階級は中尉。任務以外は新人訓練を行うことが日課であった。


(あと七周追加させようか)


 そう考えながら、フェヴァは彼らを観察する。


 脆いクラックが足を絡めとり、踏むたびに低い音が響く。

 運が悪ければ足が吹っ飛ぶため、新人たちの表情と動きが固い。



(タリオが踏みそうだ。地雷を踏まず走り抜けると良いんだが)


 集団からかなり遅れて走っているタリオが、クラックに足を取られた。

 大股で踏み込み転倒を免れるものの、足先にある地面のくぼみからぱっと、火花が上がる。


 地雷を踏み抜いてしまったかとフェヴァは焦った。


 地面から火球が飛び出し、漆黒の空へ向かって昇っていくと――


 ヒュー……パァン!


 空をキャンバスにして、赤と桃色の火花が丸く広がった。


(……ん? 花火)


 どこからどう見ても牡丹花火だ。

 これには全員が動きを止め、呆然と見上げる。


(地雷を踏んだわけではないのか……)


 フェヴァは安堵の息を吐くも、きらきら輝きながら花火が消えた直後、彼の目に怒りが灯る。


(地雷を花火玉に改造したやつは誰だ……って、一人しかいない)


 タリオが驚いて動きを止める中、おそらく元凶であろう少年――コォラが、決して遅くない速度で迫って来た。その手には手榴弾が握りしめられている。


「いくぞー!」


 安全ピンを抜くと、キャッチボールを求めるがごとく、タリオに手榴弾を投げつけた。


 剛速球で飛んできて、タリオは悲鳴を上げながら逃げる。


 ドォン。


 手榴弾は地面に当たる直前で破裂した。


 訓練用の非殺傷モデルであるため、爆風はあっても破片はない。

 破片はないが、爆風で細かい石が巻き込まれ、四方八方に散らばった。


 タリオは悲鳴を上げて逃げ回るが、コォラはニタニタしながら爆風を突っ切っていく。


「ほらほら、俺が追いついたらどうなるか分かってるよなー!」


 あちこちに訓練用の手榴弾を投げ、新人たちの周囲に小規模な爆発を起こした。

 彼らは悲鳴を上げながら、コォラに追い抜かれないよう全力で走り抜けた。


「キシシ、気合が入ったじゃん」


 新人たちの背中を眺めて、コォラは満足そうに唇をゆがめてから、フェヴァのもとに駆け寄る。


「フェヴァ! 見たか俺の花火!」


 人懐っこそうな笑みを浮かべて立ち止まると、金髪にメッシュの赤がふわふわと揺れる。


 丸みのある顔に、柔らかい眉、まつ毛が長く、真紅の瞳はキラキラと輝いていた。だがその奥には冷静で容赦のない感情が潜んでいる。


 背が低く小柄のため、守ってあげたくなる印象を抱かせるが、見た目で彼を判断してはいけない。


 コォラは十七歳でありながら、新人育成部隊『風射隊』の隊長を務めており、点島司令区の軍人で一、二を争う実力者であり、超問題児でもあった。


 フェヴァは冷たい眼差しで見下ろす。


「上目遣いをする意味は?」


 二人が横に並ぶと十五センチほど差があるため、コォラが見上げるのは仕方ないのであるが、彼は明らかに狙って、可愛い表情を作っている。


「魅了」


「ふざけんな」


 フェヴァが毒づく。


「おいおい、眉間に皺が寄ってるぜ」


 コォラは悪い笑みを浮かべると、胸ポケットから手鏡を取り出す。


 明らかにポケットよりも大きいサイズだが、いつものことなのでフェヴァは指摘しない。

 むしろ、鏡面で顔を映している理由のほうを問いただしたかった。


「理由は?」


「鏡で見てみろよ、その老け顔を」


 年齢よりも年上にみられることを気にしていたので、フェヴァの眉間にしわが寄る。


「どこが老け顔だ! お前より一つ上なだけだろ!」


「おっさん」


「黙れコォラ。花火はいつ仕掛けた。手榴弾をどこからかっぱらい、どこに隠し持っていた?」


「あー。いいじゃん別に。これで追いかけないだけマシだろ」


 コォラはコンバットスーツのベルトにぶら下げている刀を、手でゆっくりと撫でた。



 この刀は『場違いな工芸品(オーパーツ)』であり、多次元世界からもたらされた武器である。

 彫刻の様に継ぎ目が一切なく、柄から刃先まで一つの素材で作られている。


 暗灰色に赤い筋が脈のように走っている刃の表面は、冷えたマグマの地層を彷彿とさせる。

 柄はつるりとしているが、コォラが握ると、指に吸い付くように馴染んだ。


 文献で調べたところ、武士の刀に酷似していたため『刀』と呼ばれ、コォラにしか扱えない武器であった。



 フェヴァは眉間に皺を寄せて見下ろす。


「当たり前だ。それを振り回していたら、流石に力づくで止めていた。俺が聞きたいのは、いつ地雷に花火玉を仕込んだのか、だ」


「あー。ここに入れていて、フェヴァが見ていない間にすり替えた」


 コォラは手鏡を出した胸ポケットを叩いた。


 彼が衣服を着用すると、そのポケットが異空間収納スペースとなる。

 これは『クロスコード(わけのわからない能力)』と呼ばれ、理由は判明していない。


 フェヴァが苦虫を潰したような顔になり「二度とやるな」と念を押した。

 コォラは頭の上で腕を組みながら「多分な」と笑った。


 そうやって軽口を言っている間に、三十人の新人が戻って来た。全員五体満足である。


 二時間――三十キロの全力疾走なだけあって、汗だくで足がふらついているが、表情からまだ余裕があることが窺えた。


(産まれたての小鹿のような動きだが……もう少し距離を伸ばしてもいいな。次から二倍にしよう)


 フェヴァが次の訓練の計画を考えていると、新人たちは隊長の前に整列した。


「はい注目!」


 コォラが姿勢を正して、鋭い眼光を新人たちに向ける。

 それを横目で見ていたフェヴァは、思わず遠い目をする。


(忘れてしまいそうだが、コォラが隊長で隊の責任者だ。副隊長の俺が全部やっているから……隊長が誰だったか忘れそうだな)


「余興は楽しかったか? 脱落せず走り切るだけじゃ、物足りないかもしれねぇーな」


 コォラの邪悪な笑顔をみた新人たちは、嫌な予感がして顔色を変える。


(嫌な言い方だ。今から本番があると思うじゃないか……。そういえば、クリーチャーの行動目的を調べる実験で、特定の音に反応する個体を集めていた……ような。まさか、それがこの近くに?)


 フェヴァが嫌疑の目を向ける。


 視線に気づいたコォラは、顔だけ振り返ってフェヴァにウィンクした。


 ろくでもないことが起こると、フェヴァの直感が囁く。


(いや、まさかな……流石にそんなタイミングのいいことが起こるわけがない。ましてや、研究者が軍人に特定の音を教えるわけもない)


「よーし。この訓練は終了だな!」


 コォラは手をパンパンと叩いた。



 その音が、段丘台地に大きく響く。


 音が消えると、コォラはキョロキョロと周囲を見渡して、林に視線を止めた。

 それに倣うように、全員がその方向を凝視する。


「……おい、手を叩くのは何か意味あるのか?」


 フェヴァが聞き返すと、コォラは肩をすくめて首を横に振る。


「意味がない?」


 怪訝そうな表情になったフェヴァを見た新人たちは、思わず笑いが漏れた。


「ふふふ。何か来ると思わせておく。隊長のジョークかな」


「ひやひやした」


 半年ほど顔を合わせているとコォラの破天荒にも慣れてきたようで、このくらいの挙動不審では質問すら飛ばなくなっていた。


「……で、含んだ言い方をしていたが、今日の訓練は終了、でいいのか?」


 フェヴァが確認すると、コォラがにやりと笑う。


 その瞬間、フェヴァの背筋がゾッとした。

 すぐに新人たちに号令をかける。


「コォラが何か仕掛けた! 全員、戦闘準備!」


読んで頂き有難うございました。

次回は更新です。

物語が好みでしたら☆応援して頂けると嬉しいです。

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