第四十話 番犬は役目を果たす
一人になったという実感で、シロは一時動揺してしまった。だが、恩人でもあるネコを取り戻すべく、立ち直る。
シロは改めて部屋を見て回った。何もない、殺風景な部屋だ。だが、何かしらあるのだろう、自分が気づかないだけでと歩き出す。
「ネコちゃんなら、絶対すぐ気づくはず……てか、ネコちゃんなんで倒れたんだ。油断したのかな。俺のせい?」
ぐるぐると、その場をシロは回る回る。焦りが、集中力を削っていた。それでもあきらめることはない。
しばらくさまよっていた。時計がないはずなのに、カチカチと時が進んでいるのを実感している。何もしないと、あっという間に時間が過ぎていく。
そして、ふと気づく。シロの足はぴたりと止まった。
――本当に何もないとしたら?
部屋に必ず謎があるという規則はどこから植え付けられた?空き部屋がある可能性はないのか。そう思ったシロは意外と、その可能性が高いのではないかと予想し始める。
「これって、ルールは謎を解くって言ってたっすけど。もうクリア判定じゃないんすかね。」
そもそもこの館は二人で協力して脱出?いや出ることが目的だ。片方がいなくなったことを想定したルールは特になかったはずだ。
シロはそれを思いついたとたん即、行動に移す。何もしないでうろちょろするのはなんとなくもったいないと思ったのだろう。
軽やかだが、やや焦っている足取りでシロは玄関に向かった。誰もいない。初めてこの館に来た時と同様に。
「罠っすかね。いや、ネコちゃんが触られた以上。何も文句は言えないはずっす。」
そして何のためらいもなく、玄関を出た。
時刻は何時頃だろうか。まだ、夕焼けに放っていないもののっ太陽が傾いているのがわかる。
玄関先には一人の男性が。……知っている。この男をいやというほど知っている。
ヴァルだ。
こちらを見て大層驚いた表情をしている。
「おや。なぜ出てきたんだい?」
「なんでって。脱出したっすよ?どうっすか?」
目をキラキラさせて、シロはヴァルにいいか悪いか尋ねていた。
ヴァルはその様子にあきれて、肩を落とす。自分は敵だというのに、シロはどうして期待しているのか。ネコは一応攫われているんだぞと。
それでも、実は結果は決まっていた。
シロは……
「おみごと。シロ君。脱出成功だ。」
「おお!!」
シロは手を天にあげて喜んだ。
クリアできたという事実。そして、ネコがいなくとも何かをかんがえ行動できたという成長に。
「それで?ネコちゃんは?」
「あー。ネコならあのテントで寝ている。迎えに行ってくれ。……それにしても、よく気付いたな。最後の部屋に何もないということを。」
シロはその言葉には答えず、全力でネコのいる部屋へ走り出した。
「ネコちゃん!!」
がばっとテントの入り口をくぐると、ベッドに寝かされているネコがいた。まだ、目を覚ましてはいないようだ。シロは泣きそうになりながらそばに行く。
「ネコちゃぁん……寝てるだけっすか?そうっすよね?ね?」
特別な薬を入れられたのか、ただの睡眠薬なのか。だが、これはシロにとってもかなり珍しい状態だった。
ネコは基本シロの前でも寝ない。同じ建物の中にいるが、部屋に忍び込んでも声をかけてくる。「なにかってにはいってんの?」とか。「ふざけんな、でてけ。」とか。
だから、こんなにぐっすりと寝ているネコの寝顔は案外珍しい。
「バス乗ってる時も思ったっすけど、ネコちゃんの寝顔ってかわいいな~。」
にへらっと満足そうに微笑み、近くに座り込む。相当深くまで眠っているらしい。シロがいたずらでつんつんと頬をつついても眠っていた。
そんな彼らのもとに、再びヴァルがやってくる。
「はあ、残念だ。君たちの出会い、そしてそのあとの話を少しだけ聞けると思ったのに。」
「いやっすよ。これは俺だけの特権っす。それに、俺も知らないんで。ネコちゃんだけの秘密っすね。」
「へえ、それは意外だね。」
ヴァルは本当に驚いているのか、腕を組んで何かを考えているようだった。彼が何かを予想したとて、ネコが話すとは到底思えない。
まあ、彼もそれは理解しているだろうと、シロはつんつんと頬をつつくといういたずらをやめなかった。
ヴァルにみられながら、ネコをつつくシロ。本当に元裏の住人の行動だろうか。
数分後。ネコの目が開いた。
「ん……ここはどこだ。」
ネコが目をこすりながら体を起こすと、なんだか足が重い。視線をずらすと、シロが顔を伏せて眠っていた。まったく、危機感のないやつだ。
ネコは状況が理解できず、ひとまずシロを起こすことにする。
「おい。おい、シロ。起きろ。」
肩を揺らすと、シロが「んん……」と声を漏らした。まだ夢のなからしい。ネコはなんだかむかつき、更に揺らした。
「おーきーろー」
「ん?ネコちゃん……」
シロが目をこすりながら顔を上げ、ネコの金色の目とぱっちり合う。
「ネコちゃん!?」
がばっと意識が覚醒したのか、シロは立ち上がった。あまりの驚きように、ネコは怖気づく。
「おう……ネコだが。ここはどこだ。結局あの遊びはどうなった。」
「よかったぁ……ここはテントっす。あのゲーム俺らの価値っすよ。」
「はあ?」
ネコは眉をひそめた。あのゲーム、途中から自分抜きだった。シロだけに解ける謎でも用意されていたのだろうか。あるいは、もともと何かを計画していたのか。
何もわからない。
それが何とも腹が立つ。
「で?最後の問いは何だったんだよ。」
「それがっすね。問題は何もないっていう答えっす!」
「は?」
ネコはシロの言葉に耳を疑った。
何もないのが答え?
つまり、シロが館から出た時点で成功だったのか?
なんとも信じられない話である。というか、ヴァルはシロが出ないと思っていたのか?その場で何かしようと焦ると思っていたのだろうか。……それは盲点だなとネコはひそかに思う。
「……そうなのか。」
「そうなんすよ。えらいでしょ!ほめてよ!」
しっぽがあるなら、ぶんぶんと振っているかのようにシロはネコのベッドに近づいて頭を差し出した。なでろ。そういう事だろう。
ネコは呆れながらも、手を伸ばして白い髪に指を通す。シロは気持ちがいいのか、落ち着くのか目を細めた。
「やったぁ。久々のネコちゃんだ。」
「はあ、一日も経ってないぞ。……まあ、確かにずいぶん久しぶりだった気がするな。」
依頼で離れることはある。
買い物に一人がいくこともある。
だが、一つだけ確かなことがある。
寝るときはいつも一つ屋根の下で。別の部屋だとしても、同じ食事をとっておなじルーティンを過ごす。
これが、今の彼等なのだ。
続編は書く予定です。ですが、一旦第一章完結です!ここまで見てくださりありがとうございました!




