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第十九話  匂いをたどる

あの調査から、数日がたった。

 いつも事務所。なんの飾り気もない一室で、ネコとシロは二人向かい合ってリビングに座っていた。


「そろそろ、犯人を捕まえに行くか。」


 そういったのは、ネコである。ここ数日、調査にネットでの検索。それに明け暮れ、大好物の刺身を食べられなくて不機嫌気味だ。きっと任務が完遂したら、回らないお寿司屋さんにでも行くのだろう。


 それほど、この任務には苦戦したらしい。


「いやあ、一個の企業ってのは確定したんすよね?……つまり、敵が多い。トップをつぶせるんすかね?」


「正直、証拠を叩き出せば終わる。だが、まだ証拠がないんだ。盗まれたものを見つけれればいいんだが、売られてる可能性もある。とりあえず、その会社に行くのは確定だ。」


 静の助言、そして、数日にもわたる調査。その資料を警察に出したら、ほぼ確定だ。だが、それをしないのはなぜか。


 証拠がないため、逮捕状をたたきつけない。容疑者としてとらえられても、数日拘束するだけになる可能性がある。それをネコは避けたかったのだ。


「とりあえず、準備しろ。お前はこれから、宅配業者だ。」

「うっわ。皮肉たっぷりっスね。ばれないっすか?」


 宅配業者を装って、空き巣をしてきた可能性がある企業にこちらの侵入方法も宅配業者とはなかなかいかれている。それをネコは完全にスルーした。


 大丈夫だろうと。


「はいはい、とっとと着替えろ。そこに用意してる。かつらと制服。それから、社員さんが頼んだピザ。」


「いやいや、用意良すぎないか、ネコちゃん。てかピザ?本来のピザ配達者はどうしたんだよ!?」


「そこは内緒だ。さっさといけ。苦情言われたくなければな。」


 シロは聞きたいような、スルーしたいような曖昧な顔を浮かべながらトボトボと着替えに向かう。いまから、ピザを配達するのかという実感。そして、ネコちゃんが何をしたんだという疑念。どちらにしろ、今夜はぐっすり寝られない。


 ピザ屋の制服に身をつつみ、派手な白髪を隠すためにと茶髪のかつらをつけた。鏡の前でニ・三度確認したのち、ネコちゃんの前に行く。


「それじゃ、行ってくる。」

「おう。イヤホンで現場着いたら指示するからよろしくな。」


 シロはこくりとうなずくと、帽子を深くかぶり玄関を出た。片手にはピザの箱を持ちながら。


 時刻は午前十時。天気は晴れのち曇り。今日もいい日になりそうだと、あの会社の社員はそう言うだろう。

 だが、残念だ。その会社に今から元殺し屋が行くのだから。




 シロは、ピザ配達を装うために久しぶりに赤いバイクに飛び乗っていた。そこはさすがに白色ではないようだ。


「ひゅ~。風が気持ちいね~、日差しは暑いけど~。」


 風になびくのは、茶髪。変装なんて彼にとって朝飯前だった。よそ見をしながら運転を続ける最中、ふと先ほどの違和感に思考回路が停止した。


「まって、ネコちゃんも偽サイト作ったのかな……しかも、ピンポイントに?うわ、相変わらずやるなあ。」


 シロは思う。絶対ネコを敵に回したくないなと。本物の猫のように袋のネズミになるまで追いかけまわされるのだ。ちょっとしたいたずらを添えて。


 そんな思いを胸にそれから数分ほどドライブをした。




 ようやく例の”エナジードリンク”を販売しているであろう、企業にたどり着いた。シロは上を見上げる。


「でっか。何階建てだよ。」


 彼がそういう通り、一階、二階。そんな一桁に収まる気配すらないビルがそこに佇んでいた。最上階は、ここからじゃあみることもままならない。


「うし、さっそくピザを届けるぞ。」


 ピザの入った箱を手に、中に入る。ネコの指示はない。まではシロの実力だ。


 ビルのなかはとてもきれいだった。せわしなく社員が動いているというわけでもなく、一階にいるのは受付と軽く掃除をしている清掃員だ。人口密度が低いのではない。このビルが大きすぎてスカスカなのだ。まだ人が入る余裕があるというわけだ。


 シロは借金を抱えている。だからこそ、こういう場所を見ると思う。


 その金を俺に横渡ししろと。


 そんな夢は絶対……おそらく、かなうことはないだろう。シロはため息をこらえながら、受付に向かった。


「すみません。ピザ屋ポチの敦と申します。ピザの宅配に来たので入ってもよろしいでしょうか?」


 ピザ屋ポチ。ネーミングセンスはないらしい。それから、自分の名前も敦と偽った。ふつうに、暑いからという発想だったとはここだけの秘密にしておこう。


 受付にいた、一人の女性が「少々お待ちくださいね。」というと、業務連絡をかけた。……数分後。「お待たせしました。」と一声をかけて、その注文者のいる階を説明してくれた。それから、一応外部の人だからとネームホルダーを渡されたようだ。シロはにこにこ柔らかな笑みを浮かべながら、首にかけた。


 来客という称号が授与された瞬間だ。


「ありがとうございます。」


 ていねいにお辞儀をして、エレベーターに向かう。迷いのない足取り。それから、余裕そうな笑み。どこからどう見ても、ピザを届けに来た青年だ。


 そんな彼がこれから何をするのかは、神のみぞ知る。

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