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馬車の中の種明かしと平坦な溺愛

いよいよ最終話、カミル視点での「極上ネタばらし」編です。

ノンストレスな奇跡の裏側に隠された、彼の暗躍(と溺愛)をお楽しみください!




 婚約破棄の夜会から、三日後。


 カミル様のエスコートによる「気分転換のお出かけ」は、控えめに言って最高だった。



 王宮からの呼び出し(という名の無茶振り)に怯えることもなく、山積みの決裁書類を前にため息をつくこともない。


 ただ綺麗な街並みを歩き、話題のカフェで美味しいスイーツを楽しみ、彼と他愛もない会話をして笑い合う。


 ……あぁ、人間らしい生活って素晴らしい!



「ふふっ。よっぽど楽しかったみたいだな、セリア」


 夕暮れ時。侯爵家の豪奢な馬車に揺られながら、向かいの席に座るカミル様が目を細めて笑った。


「ええ、とっても。王太子の執務代行という重圧が消えたら、肩が羽のように軽いですわ。……今頃、王宮の執務室はどうなっているのかしら」


「ヴァンディル公爵家の優秀な官僚たちも一斉に引き上げさせたからな。あの馬鹿王子、書類の雪崩に埋もれて泣きべそかいてるんじゃないか?」


 カミル様が意地悪く口角を上げる。


 私も思わず「自業自得ですわね」と笑ってしまった。国王陛下が帰国されるまであと数日。あのポンコツ殿下と男爵令嬢の頭の上に雷が落ちるのも時間の問題だ。



「でも、本当に運が良かったです。まさかあのタイミングで、王家の『絶対的抑止システム』が都合よく発動してくれるなんて。建国以来の奇跡ですわね」


 私がしみじみとそう言うと。


 カミル様は「くくっ」と肩を揺らし、やがて声を上げて笑い出した。


「え……? カミル様?」


「あはは、ごめん。お前があまりにも純粋に『奇跡だ』って信じてるから、可愛くてさ」


「……どういう意味ですか?」


 カミル様はスッと立ち上がり、なんと私の隣に移動して腰を下ろした。


 馬車が揺れるたび、彼の腕が触れそうな距離。ふわりと、彼から澄んだ水のような爽やかな香りが漂ってくる。



「いいか、セリア。あの古の魔法システムは『王族が公の場で、適正な精査もせず不当な罪で者を断罪する』っていう、あり得ないほどの愚行を犯さないと発動しないんだ。普通、そんな歴史的な馬鹿はいない」


「……まあ、確かに」


「だから、ただ待ってるだけじゃダメなんだよ。俺たちが『確実にお前を解放する』ためには、あの馬鹿を歴史的な馬鹿に仕上げて、完璧な舞台を用意する必要があった」


「……俺たち?」


 嫌な予感がして首を傾げると、カミル様は事もなげにとんでもないことを言い放った。



「国王夫妻の予定をイジって、このタイミングで国から追い出したのはお義父さん(公爵)だ。ストッパーがいなきゃ、あの馬鹿は絶対に調子に乗るからな」


「……は?」


「で、俺とお前のお兄様で、姿を変える魔法を使って『王太子の側近』になりすました」


「……はい?」


「『殿下ァ! 大夜会で断罪すれば逃げ道も塞げて確実に婚約破棄できますよ! 真実の愛です!』って耳元で唆したら、あの馬鹿『お前たち、分かっているな!』ってノリノリでさ。笑いを堪えるのが本当に大変だったよ」


 待って。待って待って。


 つまりあの夜会の「フライング断罪」は、私の家族と幼馴染が焚きつけた結果だったの!?


「あ、極めつけはあれだ。おしゃべりな証拠品の最後」


「エナジードリンク……」


「そう。俺がさらに胡散臭い商人に化けて、裏路地でクレアに接触してさ。『一滴で相手がドロドロに溶ける幻の猛毒デスヨ(裏声)』って高値で売りつけてやったんだ。成分も確かめずにホクホク顔で買っていきやがって、マジでチョロすぎて涙が出そうだった」


「あ、あの裏声の商人、カミル様だったんですか!?」


 私は驚愕のあまり、完璧令嬢の仮面も忘れて大声を上げてしまった。


 エナジードリンク(高額)。偽の側近。両親の不在。


 奇跡なんかじゃない。私がノンストレスで助かったあの爆笑の夜会は、すべて私の身内が裏で盤面を完全にコントロールし、馬鹿な王子を自爆させるために仕組んだ『特大のざまぁ』だったのだ!



「なんで……そこまで……」


「なんでって。お前がこれ以上、あんな馬鹿の尻拭いをして使い潰されるのを、俺たちが黙って見てるわけないだろ」


 カミル様のひんやりとした大きな手が、私の頬をそっと包み込んだ。


 いつも飄々としている彼の水色の瞳に、今は隠しきれないほどの熱と、圧倒的なまでの独占欲が揺らめいている。


「俺はさ、人生ってのは最終的に『平坦フラット』に終わるのが一番美しいと思ってるんだ。高い山に登れば、それだけ深い谷に落ちるリスクがある。……だから、あのアホ王子は自業自得の谷底に落ちた」


 彼の顔が、吐息がかかるほど近づいてくる。


「でも、お前は違う。お前はあいつのせいで、働き詰めっていう理不尽な山を登らされ続けたんだ。……だからここからは、俺が責任を持って帳尻を合わせてやる」


「カミル、様……」


「これからは俺の隣で、何もしない、退屈で平坦な日々を過ごせばいい。波立たない、穏やかな水面みたいな人生を……俺がお前にあげるよ」


 それは、私の人生をすべて丸ごと守り抜くという、過保護で、絶対的な愛の誓いだった。


 完璧令嬢としての緊張の糸が、音を立てて解けていく。


「……裏でそんなことまでして私を甘やかすなんて。カミル様は、本当に過保護で……意地悪です」

「あはは、最高の褒め言葉をもらったな」


 私が顔を真っ赤にしてうつむくと、彼は愛おしそうに笑い、私の唇にふわりと優しいキスを落とした。


 数日後。帰国した国王陛下が激怒し、古の魔法のシステムを発動させたユリウス殿下は幽閉に、クレアさんは修道院へ送られることになるのだが、それはまた別の話。



 理不尽な冤罪未遂から始まった私の波乱万丈な物語は、有能すぎる家族と、最高に過保護な彼からの愛に満たされ、波立たない穏やかな凪のような日々へと辿り着いたのだった。




(おわり)




最後までお読みいただき、ありがとうございました!

カミルたち身内陣営の有能すぎる暗躍(物理)、いかがでしたでしょうか?


本作を読んで「面白かった!」「声出して笑ってスッキリした!」「カミル最高!」と少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひページ一番下の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にして評価していただけますと、作者にとってこれ以上ない喜びです!


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