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11話

「ごめんなさーーーーいっ!」


 はて? 条件反射で謝っちゃったけど、私何か悪いことしたか?

 むむむ、と首を捻っていると、ガシッと腕を掴まれてギュッと抱きしめられた。

 ぎゅむぎゅむしてくるので、終いには息が苦しくなってくる。バタバタと抵抗してるうちにやっと拘束が外れ、大きく深呼吸した。

 私を殺す気かいなっ!


「どれだけ探したと思ってるんだ、しかもあの手紙は何だ。意味わからんぞ」


 手紙……ああ、ニコラスに渡してっていったやつかぁ。何か悲劇のヒロインっぽくしちゃったんだよねぇ。


 私が引き起こした騒動の責任を取って一人で身を隠すつもりです、探さないで下さい。私は団長に出会うべきではなかったのです。さようなら……とか何とか書いちゃてたなぁ。


 若干遠い目をしながら、そのまま視線を団長に移すと、何とも切ない顔をしている。


 ホントごめんなさい、迷惑かけるつもりもなかったから、スリに遭って帰れなくなったのも不可効力だし。


「お前が消えてから、泣き顔が俺の頭から離れないんだ。全く仕事が手に付かないし、どうしてくれるんだ。サーラ殿に尋ねても行方不明でテイラード家はそれどころではない、と追い返されるし、責任とれだのと食ってかかられるしで」


 テイラード家のことやら、私を取り巻く環境やらをひと通り説明をした後に、団長は後ろに控えている二人に指示だしを始める。この制服は第六のじゃなく近衛の制服だよね、今は王子としてここに来てるのか。一人は王宮関係者とテイラード家に、一人は各地方騎士団長とスレイ君宛に、それぞれ私が見つかったとの連絡を入れるように、と。

 私ひとり捜し出すのにそこまで手を回したの? ほぼ国のトップ連中じゃないか。小娘ひとりにあり得ないし。もしかして私ってちょっとした全国指名手配犯みたい……


「ああ、それからもう一つ」と言って、私の唇に無茶苦茶濃ーーいキスを落としといて、次には爆弾発言を皆さんの前で披露した。


「俺、ニコル・テイラード嬢と結婚することにしようと思うから、父上と母上に併せて報告入れてくれ」


 ほお、団長が結婚ねぇ……って? ニコル? 私か?


「ぎょえーーーーーーっ!」

「何だ、その悲鳴は。俺が相手だと不満か? たかが貴族や諸外国相手のパーティーが増える程度でさほど今と変わらないと思うぞ?」


 話しの展開ゴーイン過ぎだろがっ!

 私の結婚相手は、というよりまず初めにお付き合いする人は、お母様のゴーサインがないと無理だったはずだからっ!

 慌てて伝えたら、ニヤリと黒い笑いを浮かべて「ミレーユ様にはお前を見つけるのが条件で既に許可いただいている」だと。


 ヒュルルル〜。心の中を風が通り抜けていく。 

 ……お母様、私を団長に売ったわね。


 このオレ様男と私が結婚? 無理無理ムリムリ。

 あの一週間でそんなにイジメられっ子体質になってないし……でも、ちょっとはカッコいいとか素敵だとか思ってドキドキしたけど。

 正直言うとかなりラブポイント上がってたけど……


 嬉しいやら困ったやら恥ずかしいやらで、自分の感情がせめぎ合い、顔のパーツがいろんな形に変化していたようだ。


「おい、お前のその顔、少し落ち着かせろ、吹き出しそうになる。で、返事は?」


 厳しい口調で問われたので、思わず直立不動体勢のまま「よろしくお願いします」と言ってしまった。途端に向こうは笑顔になって、もう一度私を抱きしめ、優しいキスをひとつくれた。団長の笑顔は反則です、拒否できるワケないでしょうが。


「あのー……お取り込みの最中、申し訳ないんだけど……」


 ハッと気がついた。ここって診療所の真ん前だった……

 周りを見ると、老若男女、いろんな人たちが生暖かい目で見守ってくれている。

 ヤバい、二人だけの世界に居過ぎたみたい。


 顔を隠しながら公開キスシーンになったことをブツブツと団長に愚痴ったら「そのまま妊娠するワケでもないだろが」と呆れられてしまった。


 それを聞いたロレーヌさんとミラーさん、果ては、診療所前の皆さんまで腹を抱えて悶えまくる。実は、ロレーヌさんが面白がって、私の例の失敗談を来る人来る人にバラしまくってたらしいのだ。


「そうですよね、たかがキスくらいで妊娠なんかしませんよねっ!」


 と捨て台詞を吐いて、診療所に引っ込んだわよ。もうっ、私の気も知らないでーーっ!


 午前の診療を終えて王都へ戻る準備をした。


 ここにお世話になった時はほぼ身包み剥がされた状態だったので、持ち物なんてほとんどない。代わりに、ロレーヌさんや診療所に来る人たちからのお土産で、荷物が溢れるくらいになった。


「また少し落ち着いたら、こちらに伺います。いろいろお世話になりました」

「道中気をつけてね。身包み剥がされないように」

「ふふふ、最強の護衛が付いてるので安心ですよ」


 簡単な挨拶を済ませ、馬首を王都に向け、帰路についた。



 ******



 サーラが屋敷から駆けてくる。私も馬を降りてサーラに抱きついた。迷惑かけたことを謝り、出迎えてくれた家族にも謝罪した。

 団長もウチの家族に簡単な挨拶をして、正式な結婚申し込みにくる旨を話し合っていたようだ。


「さて、ニコル・テイラード嬢」


 と改めて言われ、何事かと小首を傾げて団長に向かう。伝えられた内容は何とも苦笑いするようなことだった。


「君がニコラスとして勤務している時に、団長命令をひとつ無視していることを知っているか? 最終日にニコル・テイラードとして第六騎士団に出向くよう、伝えていたはずだ。明日で構わないので、命令を遂行するように」


 と言い残して去って行ってしまった。

 呆然と団長を見送るのが精一杯、旅の疲れもあったのだが、明日の団長の無茶振りが何になるのか、想像しただけで背筋に寒気が走って、今晩はうまく眠れそうにない。


 広間に降りていくと、お母様がソファで寛いでいるのを見かける。たくさん話したかったが、それは別日にしなさい、と諭されてしまった。少し躊躇って、実はうまく眠れない、と相談してみた。


 お母様はくすりと笑って、ゆっくりと私にこう言った。


「ニコル、隠していたけど、私は本当に魔法使いなのよ。明日はあなたにぴったりの新しい仕事が待ってるはずよ。さあ、これを飲んでぐっすり眠りなさい」


 不思議な香りのするお茶を差し出され、その後すぐに眠くなった。やっぱりお母様は魔法使いなのかしら、と考えながら……


 次の日の朝、スッキリした目覚めだった。

 お母様の魔法が効いているみたい。食堂にいくと、ニコラスは、第六騎士団の制服ではなく、近衛の制服を身につけていた。

 不思議に思って問うと、私が行方不明になって少ししたら近衛に戻されたらしい。実質一週間も仕事してない、とのことだった。

 イザドラ王女に関しては、団長が裏から手を回したようで、特に問題になることは起きていないらしい。

 よかったね、ニコラス。あなたにはやっぱり近衛のお仕事が向いてるみたいだもんね。


 さて、私は第六騎士団へ向かうとしますか。

 執務室に着いてびっくりした。汚い……せっかく私があれだけ綺麗にしてたのに。

 もうっ、と膨れながら書類を片付け始めると、団長が顔を出して挨拶してくれた。

 不満を漏らすと、スレイが汚したからあいつにやらせて構わない、と言われた。後で言っとこ。


「ところで、今日の要件なんだが……」


 と椅子に座ると机に肘をつき、両手を顔の前で組みながら話し始める。もしかしてこれって団長が照れてる時の仕草かな? 顔がはっきり見えないのに、声だけ通るからね。

 何だか可愛いとこもあるじゃん。

 にこにこ笑って話しを聞いていると妙な提案をされてしまった。


「今日から第六騎士団とは別の私設団を作ろうかと思ってね。団長は相変わらず俺なんだが、団員はお前だけだ。どうだ? これだとお前も働けるだろ、永久就職になるがな?」


 ああ、団長ってば、私が働けずに悔しがってたことを理解してくれてたんだ。嬉しくって、両手をギュッと握って何度も首を縦に振った。

 自然とお互い笑みがこぼれる。

 何てことだろう、やっぱりお母様ってば、魔法使いだわ。昨夜のうちに私の仕事当てちゃってたし。


「ああ、ひとつだけ団の規約があってな、守れるか?」

「何ですか? ひとつだけだったら絶対に平気です」

「そうか」


 団長はニヤリと相変わらず腹黒そうな顔で私に微笑み、こう言い渡した。


「俺の私設団は名前呼びが鉄則だ。俺の名前は『ジェイク』言ってみろ、ニコル」


 ひぃーーーーっ。

 そんな最初っから名前呼びなんて無理じゃんかーっ。

 ぐぬぬ……と言い渋って、何度か息継ぎを繰り返して絞り出すように言葉にした。


「ジェ……イ……クぅ……」

「んー、よく聞こえないんだが?」

「ジェイクっ!」


 カタン、と椅子から立ち上がり、ジェイクが私に向かって両手を広げた。


「ようこそ、本当の『第三王子のお守り騎士団』へ。これから専属で俺のお守りをよろしくな、ニコル?」





『第三王子のお守り騎士団』 完

このお話しはこれでおしまいです。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。

もし暇つぶしに、とお考えの方居ましたら、今朝アげたお話しにもお付き合いいただければ嬉しいです。

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