淡と濃/gooseberry濃
姿見に映る自分の服装に、つい苦笑いを浮かべてしまった。
コーヒーメーカーが蒸気を吹き、香ばしい匂いが一際強く部屋に漂った。ショートタイプのコーヒーカップを取り出し、高い位置から注いだ。何滴か飛び散り、そこからもコーヒーの匂いがたつ。
甘すぎないチュニック風シャツは黒地に青で胸元と裾に小花が刺繍してある。開いた胸元からは見えてもいい、むしろ気温によっては脱いでしまうつもりの濃青のタンクトップ、それに、細身のブラックジーンズを履いて裾を大きく折り返した。
コーヒーを胃に流し込むと目が覚める。きゅう、と縮んでから苦いものを出す胃をさすり、宥める。
パンの一枚でも食べようと思っていたが、やはりやめておこう。
ストックしている玄米クッキーを一枚、コーヒーで流し込む。もう一杯注ぎ、再び、鏡の中の自分を見る。
今日は彼女に会いに行けそうにない、な。
久しぶりの休日に行く予定の場所は少し遠いモールにある大型の書店だけだ。だけど、おそらくモールの中の店をいくつか覗くことになる。今から出掛ければ帰ってくるのは夕方、彼女に会いに行くには遅い。
無意識に理由付けした自分が馬鹿らしくなり、コーヒーを一気に飲み干す。砂糖もミルクもない苦味と香ばしさの飲み物。
カップを頬にあてる。温かく気持ちいい。コーヒーは体を冷やすというけれど、冷え性の私をこうして温めてもくれる。
綿飴のようにふわふわのフリルに真っ白なレース、金平糖を散らしたみたいな刺繍、ストロベリーキャンディみたいな唇が紡ぐ言葉はミルフィーユのよう。バタークリームの指先にジェリー・ビーンズを埋め込んだみたいな爪。べっこう飴の瞳が私を見ると、刻んだチョコレートのまつげが瞬く。レモンティー色の髪は風に揺れ、砂糖の溶けた匂いが香る。
ごくり、と喉が鳴った。そんな自分が浅ましいと思った。コーヒーを飲んだ。
行かなければ。
カバンを手に取る。愛用の黒の大きなトートバック、中身は財布と手帳、それくらいだ。画集を買うつもりだから。言い訳のよう。
玄関で靴を選ぶ。編み上げのサンダル、白のそれが目に入った。何度も足を通してない、ほぼ新品のそれ。
黒もあったのに買ってしまった白。
履き込み、見下ろす。少しだけ彼女に会いに行けるかもしれない、と思った。あの喫茶店に彼女はきっといる。
流れに任せよう。いつものように言い聞かせ、家を出た。