淡と濃/raspberry淡
頭に霞がかかりいつも眠っているようだ。夢だろうと今だろうと区別はない。オーブンが生地を焼き上げる。砂糖の焦げる匂い、飴細工の蜘蛛の糸、空気を閉じ込めた生クリーム。極彩色と淡色の混じり合う甘い世界にわたしはいるのだから。
循環する閉鎖、繰り返す時間、秒針に追われ一心不乱にシフォンケーキを焼き続けたわたしを引き上げのは彼女だった。黒づくめの服を着、黒髪黒目自己主張の強いパーツ、可笑しなことに鞄も携帯電話も手帳も手帳に付けたペンまで黒、わたしは思わず言った。
黒は、引きづられるのよ。
彼女は暖かな色合いを身につけるようになった。モノトーン好きは譲れないのか色味が少ないのは否めない。わたしは触発されるように淡く色をたくさん身につけた。
ラスクの切れ端を貰い昼食にする。ポットからたっぷりのミルクティーを注ぐと一気に空けた。短く切りそろえた爪にラスクにまぶした砂糖粒が詰まる。舌先で嘗めとり二杯目のミルクティーを注ぐ。
わたしはパスタも米も食べられない。醤油も味噌もケチャップも何もかもが駄目だ。果物に小麦粉にバターに牛乳に砂糖に。お菓子しかわたしは食べない。お菓子の形になれば何でも食べられる。和菓子もあげまんじゅうもラスクも。
夢のような世界、お菓子の家にいるような、誰もが羨む、わたしは生クリームを泡立て続ける。卵白を泡立て続ける。必要のない空気を閉じ込め続ける。そして夢を作る。
彼女はそんな世界を憎んでいた。
わたしは昼間少しだけ眠る。目が覚めると彼女がいた。どこで嗅ぎつけるのか、いつも不思議に思う。
ホットチョコレートとココアは何が違うのかしら。
カカオバターの含有量よ。
可笑しなほど彼女はお菓子について知っていた。口にできないくせに。わたしの前では食べるが、本当はお菓子が好きではない。わたしはそれを知っているし、彼女もわたしが気づいていることを知っている。
ラズベリーパイは如何?
ごめんなさい、昼食を食べてきたばかりなの。
こんな時間に、
ええ、仕事が押していて。あなたは遠慮せず食べて。ここのパイは軽くて美味しいそうよ。
そう、
わたしはラズベリーパイにバニラアイス、チョコレートスフレを頼んだ。
運ばれてきたお菓子を見つめ、彼女はコーヒーを意味なくかき混ぜる。砂糖もミルクも減っていない。エスプレッソを追加し、残りのコーヒーを空けた。
フォークはラズベリーパイに優しく刺さり、舌先に一緒にすくったバニラアイスが残る。彼女はわたしを見て小さく笑った。割ったスフレからチョコレートが溶け出す。
わたしの胸に落ちたのはチョコレートの香りだ。喉奥が冷えたのはバニラアイスの、口に残る酸っぱさはラズベリーのせいだ。そう思った。




