淡と濃/raspberry濃
可愛い時計とバックを見つけた。
ベージュのベルトに文字盤はワインレッドに囲まれている。止め金は紺の腕時計。
正面の棚下段にある綿バックはワインレッドの生地にベージュで模様がついている。
その日もその日でノースリーブの黒に黒のスキニー、濃紺のカーディガンを着ていた。ビジネス、というよりトラベルバックはもちろん黒。かろうじてベルトはモスグリーン。
姿見に写すとバックとの相性は良さそうだ。彼女のところにいくのに、つい黒で固めていた私は、少しでも明るくするために時計とバックを買った。
待ち合わせの場所で彼女は眠っていた。
日傘をさし軽く俯いている。考え事をしているようにも見えるが、彼女はこれで寝ているのだ。
家で眠ることの出来ない彼女はこうして外で眠る。一日一時間ほど眠れればかろうじて生きてはいけるらしい。
向かいに座り眺める。白のスカートに白桃色のブラウス、淡い黄色のカーディガン。目の前の紅茶は既に冷め、食べかけだろうラズベリーパイに添えられた溶けたバニラアイス。
ウェイターがメニューをそっと差し出す。彼女が眠っていることに対する気遣いか、メニューを指し示すと目線で頷き、会釈をして立ち去った。
彼女が目覚めたのは運ばれたアイスコーヒーの氷が鳴ったからだった。
日傘が揺れ、ゆっくりと首をもたげる。冷めた紅茶に口付け、カップを空ける。片手を上げた彼女にウェイターが気付き、歩み寄って来る。熱い紅茶が追加される。
ラズベリーは眠くなるわ。
言い訳がましいことばにわたしは苦笑いを浮かべる。
ベリー系は好きなのだけど。
メロンとトマトも?
あら、トマトもベリーだったの?
新たに運ばれた紅茶に砂糖を落としたスプーンが回る。黄金の輪が浮かび、湯気がふっと揺らぐ。
ブラックのアイスコーヒーはグラス半分ほど残り、氷は半分ほど溶けている。ガムシロップとミルクで味を足す。
ストローで吸い込むと生温さと冷たさが一緒にやってくる。
トマトもベリーよ。
ふうん、知らなかった。でもトマトは苦手なの。
くるくるとストローを回す。小さな渦巻きが出来るが黄金色の輪はない。
そのバックと時計、お揃い?
うん。
なんだかトマトみたいな色ね。
そうね、
ラズベリーパイを口に運ぶ彼女を見つめ、わたしは胸に落ちた何かをコーヒーのせいにした。