第1話 「第二美術室」
初めての物語なのであまり期待しないでください。
僕は優等生だ。日頃からそう自負している。
そう言える理由は、目に見えた功績だけではない。僕自身の生き方が優等生だと物語っているのだ。
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僕は周りよりも少し頭がよく、テストでもいい点を取れる。自分で言うのもなんだが楠見恒介という名前は、この中学校で五本指には入るくらいの話題性があるだろう。
そんな僕は隠キャでコミュ障で、ひとりぼっち。まさに身の丈にあった生活をいつも過ごしている。だけれど、いじめだけは一度もされたことがないのだ。いじめっ子たちも僕じゃいじめ甲斐がないのだろうか。正直、そこのところはよくわからない───。だけど...まあ、人に左右されて、日々いじり、いじられて、ひたすら媚を売る生活に耐えるくらいならそれくらいが1番いいのだろう。知らんけど。
今日は夏休みが明けてちょうど二週間。ぼーっとしていると、あっという間に2時間目の数学も終わり、号令がかかるとそそくさと次の授業の準備を始めた。
今日の3時間目は体育、正直だるいとかめんどいとか思うけど、それでもやらない理由がない。僕はやりたくもない体育の時間を早く済ませたい一心でジャージを脱ぎ捨てた(捨ててはないが)。半袖半パンになった僕は気持ちを切り替えて、青色のはちまきを巻きながら体育館へ移動した。今日の体育はバスケ。正直に言わずとも嫌だ。めんどくさい。
3時間目が終わり、流れた汗をハンカチで拭う。次の授業は美術。僕はやることもないので体育館から直接第二美術室へ向かった。第二美術室は2階にあるのだが、今階段を登るのは少しきつい。だけれど第二美術室まで行けば───と普通は褒める流れなのだが、いいところなんてひとつもないのを思い出した。
夏の第二美術室は死ぬほど暑い。
4時間目は、特にいうこともなく理科。理科は結構好きな方だから僕からしたら一瞬のことだったが、以前理科の授業で実験に失敗したクラスがあったらしく、実験器具が足りないとのこと。だから今日は大人数で実験を行ったのだが。全員が思い通りに動いてくれるわけもなく、実験は思い通りに進まなかった。いつもは思い通りに捗っていた反面、今日のことはすごくストレス。僕は少しだけイラついた。危うく僕が実験器具をひとつダメにしちゃいそうなほどに。
ちなみにその日の実験は化学変化の実験で、他クラスが壊したという器具は、試験管らしい。どうやら破片も集めきれないほどひどく割れていたようで、理科室に入る際には先生から足元に気を付けてと言われた。
給食を食べて、ごちそうさまをする。椅子に座りこみ昼休みを勉強に費やす。
そして5,6時間目はひたすらに眠かった。昼飯の後に国語と保健体育とは本当にいかれてやがる。逆に眠らない方が失礼だというもんだ。まあ僕は、優等生であるため、寝ないようにノートを取り続けて、ひたすら能動的に手を動かした。黒板に何も書いていなくとも寝ないためには落書きも惜しまなかった。
数多の授業をのりこえ、やっと帰りのHR。さよならの号令と共に、僕は直帰する準備を整えた。いつもならそうやって誰よりも早く帰るのだが、今日は違った。先生に話があると言われて引き止められた。
「コウスケは、最近はどう?学校、楽しめてる?」
「まあ、人並みには。」
内容は主に世間話。特に変わった様子はない。
「それで、聞きたいことがあるんだけど…なんか最近学校でいじめが起きてるらしいんだ。コウスケがなんも関係ないことはわかってるんだけど、わかることだけでも教えてくれないか?」
「・・・・菅田先生、もしかしてそのいじめってヨウイチ君のことですか?」
’’ヨウイチ‘‘というのは、うちの学校では違うクラスの僕でも名前を知っているほど、悪い意味で有名な生徒。それで…僕が言うのもあれだけど、すこし地味な子だ。いじめの噂もよく聞く。だけど、違うクラスだし関係ないと思っていつも聞き流していた。
「まあそうだな。わかってるなら話が早い。なんか知ってることはないか?」
「うーん…僕は特になにも知らないです。協力できなくて申し訳ないです。」
「そうか…。別にそんな顔しなくたって全然大丈夫だよ。そんなの知らなくて当然だし。俺もほかの先生から、一応、お前んとこのクラスでも聞いてくれって言われただけだから。多分3組の川島先生がどうにかしてくれるよ。」
「はい…。それなら…よかったです。」
話が終わり、今日はいつもより一足遅く教室を出た。
先生との話の間、僕は膀胱から声が出そうなほどトイレを我慢していたので、速攻トイレへ向かった。昼は陽キャのたまり場になっているのに対して、下校前のトイレは人気がなく昼間とは違う顔をしていた。学校で疲れた後のトイレは僕をただただ落ち着かせた。
小便器との用事を済ませた僕は、手を洗い、ハンカチで手を’’拭おうとした’’。しかし、ハンカチが入っていたはずのポケットにはあるはずのものがなくなっていた。その時は仕方なくズボンで手を拭ったが、今日持ってきていたハンカチはお気に入りのハンカチだったことを思い出し、僕は慌てて鞄の中を探した。手を突っ込み手の感覚を頼りにして、まさに’’手探った’’。しかし鞄の中にハンカチはない。教室の中も探したが、ハンカチはどこにもなかった。
───いや、違う。第二美術室だ。
僕は思い出した。クソほど暑い美術室の中で汗をぬぐいながら作品に込めた思いを。ハンカチの行方を思い出した僕は、下校時間もギリギリだったため、無鉄砲に急ぎ足で第二美術室へ向かった。
第二美術室に着き、急いでいながらも礼儀を重んじ、僕はドアをノックした。
コンコンッ
「失礼します。忘れ物をしてしまったため、取りにきまし…た。先生はいらっしゃいますか?」
人気がない。先生がいないことを察すると、僕は自分の座っていた席の付近へずかずかと足を運び。視線を椅子の下に向けようと首を下に傾けた。
その時、一瞬だったけれど窓の外に人影を見た。その日の夕日は普段より主張が強く、窓からくる逆光には目をやいた。逆光に包まれて顔も見えなくなっていたその人影は背丈が大きいかも小さいかもわからない。ただ先生にしてはあまりにも幼く、中学生にしては少し重く儚い背格好をしていた。
逆光によって映し出されたその人影はまるで昔飼っていた子犬のようだった。今にも壊れてしまいそうな弱さがあり、首に結ばれていたリードは異端ながらも特徴を捉えていた。そのリードは、リードにしては少し太く、簡単には切れそうにない。まさに強い絆を表しているようだった。だからそのリードはその人影が逃げ出さないように美術室のベランダの手すりにつながっているのだろうか。僕は少し後ろへ足を戻した。今ならまだ、人が死ぬ場面を見ないで済むと思ったから。
・・・・その人影に結ばれていたモノは、リードなんかではなかった。紛れもなく、自殺に使われるような’’ロープ’’であった。
───はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
あまりにも急で、今までもこれからも関わることのないような場面を前にして、気づくと僕は汗をかいていた。その汗はもうハンカチでは拭えないほどだった。一生懸命頭を回転させて、(多分)彼を死なせちゃまずいと思った。
バスケの時にはうまく動かせた両足も、今では石像のように硬く、大きな意思で僕を前に進ませまいとしていた。
「あのー!」
震えた声は窓の隙間から彼に届いたようだ。彼はこちらをじろりと見つめて、悲しそうな目を見せた。僕は驚いた。その顔は、死にたくない…では、なかったのだ。首元には無数のあざ、もう何回も死のうとして失敗したのだろうか。はたまた…誰かに何度も彼の死の試みを止められていたのだろうか。
もう生きるのが苦しい。だから今すぐ死なせてくれ。ただ、その叫びを声にしないで表した。そのように僕には見えた。彼はもう、死ぬ覚悟を持っていた。今にも死のうとしていた。死なないでなんて言葉で止まるほどの覚悟ではないように思えた。
だからこそわからなかった。その時、そのまま何も言わずに’’見殺し’’にするべきか、取り繕った言葉で必死に’’止める’’べきか。
「ちょっと待って!・・・君が誰だか知らないけど、お、俺は君の気持ちがわからないから、無責任に考え直せなんて言わない。だから今だけ話を聞いて。」
───はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
「思い残しは本当にない?なんというか…その…。ほら、ちゃんと両親に挨拶とかしてきた?どうせ学校に行く前の’’行ってきます’’が最後の言葉なんじゃない?それは少し寂しいよ。多分。」
「どうせなら、’’さようなら’’とか’’今までありがとう’’とか言った方がいいんじゃない?もしそんなこと言っても止められるだけなら手紙でもいい。・・・そうだ。せめて遺書とかさ。色々と…あるじゃん。」
───苦しい。取り繕った言葉が、表情が。
「書いてないなら、俺が一緒に考えてあげるからさ、かこうよ遺書。」
僕は、無責任に彼を止めはしなかった。だけど僕の前で死なないでほしいと思ったから、「遺書をかこう」だなんて変なこと言って、彼を少しでも引き留めた。
意外にも彼はそれを承諾した。何も言わず、こちらに頷いて。
彼の気持ちがわからない。正直わかりたくもない。
「・・・名前…聞いてもいい?ほら、遺書を書くなら名前をまず書けるようにしないと。」
あんな提案を承諾されたことをいいことに僕は少し調子に乗っていた。自分でも何を言っているのかわからない。彼からすればただただ奇妙な野郎だ。
名前を聞くと彼は少し躊躇しているようだった。何か言いたくなさそうな顔。僕もそこまで強欲じゃない。言えないようならそれでいい。
「まあ、言いたくないならいいけ───」
「───いいよ…名前…教える。」
彼はこちらに少し笑みを見せて、そうやって、いいよと答えた。急に気持ちが変わるとは。ますます彼の感情が読めなくなった。
「じゃあ聞かせて、君の名前を。」
僕はこの時、やっぱり名前を聞けてよかったと、ただ安心した。そして───
「ヨウイチ。」
「金瀬葉一。」
───僕は今日という1日に不思議な運命を感じた。彼の正体はまさに’’ヨウイチ’’、その人だった。
初めての物語にしては我ながらにいいでき。と思いますが、さすがの僕でもそこまでの自負はできないので、改善点や、気持ちが悪い点などがありましたら率直に伝えてください。




