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ちょっちゅね、力がね。

36歳童貞無職。住所不定の不審な男。

俺の名は。

拳出(こぶしで)ナグル。

この、出オチみたいなクソみたいな名前。

足出(あしで)ケルゾウと漫才コンビ”フルボディ”を結成してそうな、クソみたいな名前。

お下劣で下等で、そして下品。

こんなクソみたいな名前を付ける親は当然蒸発、当たり前。祖父母も既に他界済。後はお決まりの親戚の家をたらい回しコース。学校ではイジメられハブられ、そして蹴られる。せめて拳で殴ってくれよ、そしたら笑い話になるから。


「その話、おもろいやん。その話、おもろいから異世界転生させたるわ。」


ある日、天から声が聞こえた。「その話、おもろいから異世界転生させたるわ」の意味が分からなかった。まず第一に天のくせに猛虎弁を使うような薄っぺらい人生を歩んできた奴に、クソみたいな人生を生きてきたことをおもろいと表現され、挙句の果てに異世界転生させる、と言われた意味が分からない。俺が昼間からコンビニの前の喫煙スペースでシケモクを漁っているほど意味が分からない。意味は分かるだろう。煙草を買う金も帰る家も頼る人もいないのだから。若い女が吸い終わったであろう香水の匂いが染み付いたシケモクを吸いながら俺は思った。


「異世界の方がマシかもしれん」


美人エルフの隣で香水の匂いを嗅ぎながら寝落ちしたり、実は女で男のフリをしていた女魔王に足で背中を踏まれて靴下の柔軟剤の香りを感じたり。


「どないする?行く?異世界行ってみる?」


この軽い感じのノリがすごい嫌いだ。でもこういうノリが軽いやつは大体美人を横に引き連れ女をとっかえひっかえとっかえひっかえ、シュッシュッポッポシュッシュッポッポ。


「え・・・」


気がつくと俺は三人の子どもたちが魔法使いの学校に向かうような列車に乗っていた。嫌な予感がする。列車の外を見るとそこには大きな漆黒のドラゴンが空を飛んでいて隣には緑色のドラゴン遠くには黄金のドラゴン。圧倒的な4Kのような景色に電気屋で見た4Kテレビのような感動を覚えながら俺は涙を流した。車掌は皮膚は緑色で絵に描いたような金色の眼鏡をかけた白髪のゴブリン。


「お客さん、チケットは。」


もちろんチケットなどないので無理やり降ろされる。乗客のエルフやオークにドワーフに江戸っ子。こちらを不思議そうに見ている。「いや江戸っ子はおかしくないか」と思いつつ、「江戸っ子は絶対違うだろ」とは思いつつ、俺は外に降ろされる。しばらく歩くと山の中に村があった。村の名は


「勇者村」


王道の展開だなとは思いつつも村に足を踏み入れる。勇者村ということはきっとあれがあるだろうと俺は心の底で感じていた。それっぽい洞窟があったのでもちろん中に入る。中は暗いが進むごとに横の松明に火がつく仕組み。センサー式なのかよみたいな村にしてはハイテクじゃないかみたいな意見も持ちつつ奥へと進む。


「あった」


洞窟の奥に似つかわしくない小屋みたいななんか。

入口のドアが開き中からパンチパーマで赤い眼鏡をかけた小柄なおじさんが出てきて言った。


「お兄さん、ちょっと、抜いてく?」


絶対怪しいじゃないかこんなの誰が行くんだよとは思いつつ中に入る。そこにはガチガチのコンクリートで固められた台座に刺さった勇者の剣と書かれた剣があった。


「どうする?抜くの?抜かないの?」


おじさんに煽られた俺は剣を抜こうとするが全然動かないというか全く動かないガチガチに固められている。俺は必死に力をかけて抜こうとするも全然動かない。息を整えて全身全霊で引っ張り上げようと大きく息を吸ったところでおじさんからストップがかかった。


「はい、もう終わりね」


全力を出しすぎて息が上がる。こんなに息を切らしたのは小学校の運動会ぶりかななんて思いながらもちょっと懐かしい感じもありつつ何とか息を整える。よく見ると、剣とコンクリートの間に接着剤のようなものが何重にもわたって塗られているのが見えた。


「ちょっちゅね、力がね」


おじさんは慣れた手つきで机の引き出しからパンフレットを出して俺に見せる。


「やっぱね、力をつけるにはボクシングが一番!」


そういう感じなのかと異世界でも結局俺に話しかけてくるのは俺に関わってくるのは勧誘系の方々なのかと落胆しつつも俺は一応パンフレットに目を通す。

いつの間にか書かされる書類と調整される訪問日程。


「じゃあ頑張ってね、これがグローブとクラブの名前ね」


俺は小屋から追い出される。小屋にもう一度入ろうとするも中から鍵をかけられてしまって入れないあのジジイやりやがったと思いながら解約とかクーリングオフとかは一切受け入れないスタイルなんだと思いながら俺は洞窟の外を出た。手渡された赤いグローブを俺は試しにつけてみたが全くしっくり来なかったので外そうとするも全然外せないので思わずパンフレットを読んでみると衝撃の言葉があった。


「このグローブは一度はめてしまうと魔王を倒すまで外れません。魔王に与えるダメージは999999999倍になります。その代わり、魔王以外に与えるダメージは999999999分の1になりますので、ここぞという時にお使いください」


9億9999万9999倍だとあり得ないだろそんなの魔王ワンバンじゃねぇかとは思いつつキリが良い10億倍じゃダメなのかなとは思いつつ、俺は冷静になって気づいてしまう。


「魔王以外に与えるダメージは9億9999万9999分の1」


俺は果たして生き残れるのだろうか?


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