第87話 いしのなかにいる!
隠しエリアで発見したものについて、勇斗たちは冒険者ギルドに相談する。
帰還の呪符で地上に戻った勇斗たちは、その足で冒険者ギルドへと向かった。
発見した魔晶石の鉱脈だけあっても勇斗たちの手に余るのに、合わせて見つかった三人の冒険者に至っては、どう対処するべきかすら見当もつかなかったのである。
勇斗たちに頼れる者は、ギルドマスター代理のギルガメッシュにおいて他なかった。
「まーた厄介ごとじゃあるまいな!?」
緊急の呼び出しを行った者が勇斗たちであると聞いて、ギルガメッシュは開口一番、そう口にした。
勇斗は苦笑する。
「まあ、厄介ごとではあるかもしれないっすね」
勇斗の答えに、ギルガメッシュは大きく舌打ちをした。
「で? 今回はなんだ?」
「これを見てください」
言って勇斗は、革袋から一塊の石を取り出して見せる。
「これは……魔晶石だな。どこでこれを?」
「ダンジョンの隠しエリアで見つけました。これはほんの一部です」
「一部って……全部でどれだけある?」
「高さが三から五メートル、幅が十メートル、奥行きが二十メートルってとこっすね」
「な……!?」
ギルガメッシュが絶句する。
やはり、とんでもない量であったらしい。
勇斗は尋ねた。
「確認なんすけど、これって、俺たちのものになりますか?」
「鉱脈は発見者のものになるのが通例だが……ダンジョンで見つかったってのは先例がねえな……」
「ダンジョンのお宝は、基本的にそれを見つけた冒険者のものっすよね?」
「まあそれはそうだが……」
「そんなら、やっぱり、鉱脈は俺たちのものってことになるんじゃないっすか?」
「なる……とは思う。すまん。この辺りは俺も詳しくない。ちょっとギルド内で検討させてくれ」
勇斗は頷いてそれを了承しつつ、話をつづけた。
「もうひとつ、こっちの発見のほうが、厄介ごとになるんすけど……」
「ちょ、ちょっと待て。まだなんかあんのか?」
あるんですよ、と勇斗は真剣な顔をして言った。
「ギルバート伯のところの若手パーティ。ノルム、シャーリー、ガルベスの三人組を覚えてますか?」
「ああ。覚えてる。ギルバート伯に雇われるくらいだ。将来性のある優秀なパーティだった。たしか、転移の罠で消えちまったんだよな。もう一年以上も前になるか……」
言いながら、はっとなり、ギルガメッシュは沈痛な表情を浮かべた。
「お前と一緒に潜ってるときだったんだよな……。仲間を失うのは辛かったろう」
勇斗は瞑目して首を縦に振って、それから開いた目を、ギルガメッシュに向けた。
「見つけました」
と勇斗は、静かに言った。
は? とギルガメッシュが素っ頓狂な声を上げる。
「見つけた!? 遺体をか?」
いいえ、と勇斗は首を振った。
「遺体じゃないかもしれないっす」
「そいつは、どういう意味だ?」
「彼らは、魔晶石の中にいるんすよ。時間が止まったように、転移した時のままの姿で」
「魔晶石に!?」
勇斗は頷いた。
「そして、いいですか? 彼らからは、ディテクト・ライフの生命反応が、わずかに感じられるんすよ! たぶん、生きてます。どういう理屈かはわかんないすけど、生きてるんですよ!」
「そんな、まさか……」
また、ギルガメッシュが絶句した。
「ギルガメッシュさんにお願いです。俺は、彼らを助けたい。金がかかるなら、かかってもいい。魔晶石の鉱脈から得られる金から支払います。どうにかお願いします」
勇斗は頭を下げた。
「どうにかって言われても……」
ギルガメッシュが困惑したような声を上げた。
顔をあげて、勇斗は言った。
「俺に、運営を紹介してください。どうにかできるとしたら、きっと、あの人たちだけだ」
腕組みして天井を仰ぐようにしていたギルガメッシュは、ややあって、少し時間をくれ、と言った。
「いしのなかにいる!?」
と玲子は言った。
「まんまウィザードリィじゃん!」
最古のRPGのひとつであるウィザードリィでは、転移の罠などで、壁のような移動不能の座標に転移してしまうと、いしのなかにいると表示され、パーティが全滅してしまう。死体の回収もできないので、装備のみならず、キャラクター含めて全ロストになる、最悪の全滅パターンであった。
「うぃ、うぃざ? なんだ?」
ギルガメッシュが困惑したような表情を浮かべた。
「ごめんごめん。こっちの話」
両手をぱたぱたと振って、玲子は話を戻した。
「で、その魔晶石って中に、転移した冒険者がいるって? それって、本当に生きてるわけ?」
「正直なところ、わからん。ただ、ディテクト・ライフで生命反応は感知できるらしい」
ギルガメッシュの説明するところによると、ディテクト・ライフというのは、生命探知の魔法であるらしい。冒険者の中では、稀に、周辺警戒のために使うものがいるということである。
玲子は尋ねた。
「その、魔晶石の場所はわかる?」
「ああ。地下七階の西側。そこにある隠しエリアだって話だ」
あそこか、と声を上げたのは水谷である。
「水谷、わかるの?」
「ええ。地下七階の未踏破エリアですね。これまで何組か、地下七階を踏破したパーティはいますけど、隠しエリアは素通りしてました」
マップ・ダンジョン、と唱えて、水谷がダンジョンの地図を中空に生じさせる。
「ここ、隠し扉になってるでしょう? その先にまたいくつか隠し扉があって、隠しエリアに通じているんです」
「ああ、あそこね!」
玲子にも覚えがあった。やたら凝った隠し方がされていたエリアである。
いかにも何かありそうな場所ではあったが、より存在をアピールするために、近くにトイレを増設しておいた記憶がある。
モニター・ダンジョンを唱えて、水谷がカメラを召喚する。
「ここかな? いや、こっち?」
地図を幾度かタッチしたところで、ここだ、と声を上げた。
見れば、モニターに、赤黒い鉱石の結晶体が映し出されていた。
「これが魔晶石? 大きいわね……」
それは、ダンジョンの天井に届くほどの大きさである。
「なんだぁ!? こりゃあ!?」
ギルガメッシュが驚愕の声をあげた。
「これ、ダンジョンの中が見えてんのか!?」
「そうよ。すごいでしょ!」
玲子は胸を反らしてみせた。
「作ったのは水谷だけどね!」
「これがありゃあ、行方不明者の捜索とか、捜索隊出す必要ねえじゃねえか……」
ギルガメッシュの呟きに、玲子は膝を打つ。
「たしかに! そういう使い方もできるわね」
「そうすりゃ、あいつらも、もっと早く見つけてやれたかもしれねえな……」
「あいつらって?」
「そりゃあ、お前……」
ギルガメッシュが言いかけたところに、水谷が、ああっと声を上げた。
「これ!? これですか!?」
水谷が、魔晶石の鉱脈に沿って、ゆっくりとカメラを移動させていく。
そこに映っていたのは、魔晶石に閉じ込められた、三人の冒険者の姿であった。
確かに、いしのなかにいる。
彫像のように動かないが、まるで生きているようでもある。
「これが……」
と玲子は絶句した。
ギルガメッシュが言った。
「こいつらが、昔、転移して行方不明になった冒険者だ。ようやく見つかったと思ったら、こんな状況だったってわけだ」
「本当に生きてるの?」
「わからん。だが、さっきも言ったように、生命反応はあるらしい」
玲子は考え込み、ややあって、それで……と言った。
「この発見者が、彼らを助けるために運営と相談したい、って言ってるわけね」
「ああ。ユートって奴だな。若造で、冒険者としての技量も微妙だが、悪い奴じゃない」
「微妙? 地下七階で隠しエリアを見つけるほどの冒険者が?」
「そうなんだが、こいつは実力不足でギルバート伯んところをクビになったような奴なんだ。相方のアンジェロはそこそこやるが、それでも二人だけで、どうやって地下七階まで行ったもんだか、俺には想像もつかねえよ」
その言葉にピンとくるものがあった。
「……落とし穴ショートカット」
玲子の独り言に、水谷が反応した。
「あっ! そういえば、あれやってたの、二人組の若い冒険者でしたね」
「面白そうじゃない」
と玲子は笑った。
「ユート君だっけ? ちょっと、私も会ってみたくなったわ」
次回、ついに玲子と勇斗が邂逅する――かも!?
次回更新は3/18予定です。




