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第8話 ダンジョンに初めて挑戦してみた

召喚された勇者である勇斗が、初めてのダンジョン探索に挑む!

ていうか、入場税ってめっちゃ高くない!?

 勇斗は立場上、ギルバート伯と専属契約を結んだ形になっていた。

 この契約は、多くの冒険者と貴族の間で結ばれているもので、雇用する貴族の代理としてダンジョンを攻略するというものである。冒険者は代理という立場なので、ダンジョンにおける取得物や、攻略に関する名誉については、原則としてはすべて雇用主である貴族のものとなる。


 なぜ多くの冒険者が、そのような条件を受け入れてまで貴族と契約をするかと言えば、ダンジョンに入場する際に、高額な入場税が課されるからである。

 一人当たり聖金貨二十枚というその額は、首都に住む一般的な王国民の、一か月の生活費に相当するものらしい。


 その税を課しているのは、ダンジョンを管理しているベルモント侯爵である。彼は、この街ベルモントの領主でもある。

 ベルモント候によれば、有象無象の冒険者がみだりに命を散らすことのないよう、高額な入場税を課しているということであった。その言には一理あるものの、ただ暴利を貪っているだけだとの批判も同時にある。

 いずれにせよそれは、一介の冒険者ふぜいが気軽に払える額ではなかった。


 貴族は、入場税を含む冒険にかかる諸経費を負担し、契約に基づいた給金を支給する。それに加えて、インセンティブとして、ダンジョンからの取得物を冒険者のものとする契約になっている場合も多い。勇斗とギルバート伯の間に結ばれた契約もそうであった。


 ただし、ダンジョン攻略の名誉に関しては、雇用主の貴族のものとなる。逆に言えば、貴族が冒険者を雇用する理由は、それしかない。いわばこれは、ダンジョン攻略の形をした宮廷闘争なのであった。

 ギルバート伯は気鋭の若手貴族であるが、宮廷内の地歩固めに難渋していた。そこで目をつけたのが、冒険者によるダンジョン攻略である。勇斗には想像できないほどの額の私財を、それに費やしているとのことであった。


 勇斗は、連れの冒険者たちとともに、馬車の車中にあった。向かう先は、ベルモントの中心地である。


 ベルモントの中心には鉄でできたドーム状の建物がある。それには高位の結界術が施してあって、内側からはもちろん外側からも立ち入ることはできない。


 その建物こそが、ダンジョンである。


 出入りできるのは唯一、壁面に設えられた大門からである。大門には王国の衛兵が二人立っている。彼らの役割は境界の防衛でなく、ダンジョンへの立ち入りを許された冒険者のもつ割符の確認と、ベルモント候より委託された入場税の徴収である。


 大門に到着した一行が馬車を下りる。

 先頭に立つノルムが衛兵に軽く手をあげると、衛兵も手を上げて応える。ガルベスはそれに大きく手を振り、シャーリーと勇斗は小さく頭を下げた。


「ギルバート伯のところの冒険者たちだな」


 言われて、ノルムが頷いた。


 衛兵が勇斗を見て、問いかける。

「そっちは? 見ない顔だが」


 ノルムが答える。

「ああ。こいつはユート。こう見えて、ギルバート伯の召喚した勇者様だ」


「こいつがそうか! 噂には聞いていたが……」


「ど、どうも……」

 と勇斗は照れ笑いを浮かべた。


「……なんだかあんまり強そうに見えねえな」


「まあ、こいつも俺たちと同じ駆け出しだからな。これから冒険者らしくなっていくさ」

 そう、ノルムが勇斗を擁護した。


 ノルムたち三人は、駆け出しと言いながらも既に一年以上の活動実績のあるパーティである。ただ、主に王都周辺で活動していたため、ベルモントでのダンジョン探索の経験は少ない。彼らは勇斗と同じくギルバート伯に雇われた冒険者であり、今回のダンジョン行のサポート役でもあった。


 シャーリーが、首から下げた割符を衛兵に差し出した。衛兵も同じく、首に下げた割符を差し出し、二つを合わせる。

 割符は青い燐光を放つ。


 おお、と思わず勇斗は声を上げてから、ノルムに問いかける。

「あれは何をしてるんですか?」


「ああ、割符が本物かどうかチェックしてるのさ」


「割符?」


「ダンジョンの通行証みたいなもんだ。よくわかんねえけど、本物だと、ああやって光るらしい」

 ノルムも詳しいことはよくわからないようである。


 衛兵がひとつ頷いた。

「オッケーだ。お次は入場税をたのむ」


 ノルムが財布から、四人分の入場税である聖金貨八十枚を取り出して支払う。受け取った衛兵が軽く頷いて、厳かに言った。


「通ってよろしい」

 衛兵が門扉を開く。特に警戒することもないのはそこにも結界が張られているからで、門からダンジョン内の魔物が飛び出してくることはない。

「帰ったら門を叩け。頑張って来いよ!」


 ガルベスが先頭に立って大門をくぐる。ノルムとシャーリーが、ガルベスに続いた。

 勇斗は、おっかなびっくり、その後ろをついていく。


 皮膚に、水面をくぐるような、わずかな抵抗感を覚える。おそらく、結界を越えたのだろう。

 その先に、ダンジョンがあった。


 入ったばかりのそこで見えるのは、幅三メートルほどの通路でしかない。壁と言わず床や天井までも、四角く大きさを整えられた石が組み合わさってできた、石造りである。

 日の光が届かないにもかかわらず、周囲は白々と明るい。石に見えるそれらがうっすらと発光しているのである。

 その一点だけでも、建材がただの石でないことは明らかである。実際この壁はどのような手段であっても破壊することができないとのことだった。


 現在、勇斗たちがいるのは地階である。

 短い通路の先には、百平米ほどの少し広い空間がある。そして、その先にはまた通路があって、地下に続く階段がある。ダンジョンの地階にはそれだけしかないようだ。


「ちょっと緊張するよな?」

 とノルムが言うのに、勇斗は小さく頷いた。

 危険に対する警戒感と、未知に対する高揚がないまぜになったような感覚であった。

 そういった感覚があるのかないのか、戦士のガルベスはさっさと階段を下りていく。


 地階に魔物はいないらしい。理由はわからないが、これまでに一度も出現したことがないということである。

 勇斗たちも、ガルベスに続いて階段を下りていった。


 地下一階に降りてもほとんど景色は変わらない。石壁に囲まれた通路が四方に広がっている。ただそこは、地階とは比べ物にならないほどに広い。ダンジョンは巨大な迷路なのである。


 ノルムが懐から地図を取り出した。ギルバート伯より提供されたもので、巨大な迷路の細部まで描かれた詳細な地図である。ある種の魔道具であるようで、勇斗たちの現在位置には筆で打ったような赤い点がある。


 ダンジョンに挑む冒険者たちは複数の派閥に分かれている。契約した貴族の派閥がそのまま冒険者たちの派閥になるのである。地図は、その派閥の共有物であった。他派閥のものを入手することは非常に困難である。ダンジョンに関する情報は、当然ながら身内で秘匿される。


 この地図を手にできるだけでも、貴族と契約する価値は大きい。そう勇斗は思った。

 地形の把握は、ゲーム攻略における最初の一歩である。すでに勇斗は、各階の地図を頭の中に入れてある。あとは現実の地形を見て、それとすり合わせるだけである。

 ただ、ギルバート伯のもつ地図には、地下六階までしか記されていない。ギルバート伯の冒険者グループは、まだそこまでしか到達していないのだろう。


 さて、とリーダーで狩人のノルムが言った。

「今日の目的は、ユートが戦闘に慣れることだ。一応、地下二階への階段を目指しながら進んでいくが、やばそうだったら途中で引き上げる」

 勇斗が硬い表情で頷くのを見て、ノルムは続けた。

「言うまでもないが、ここからは魔物が出現する。とはいえ、地下一階の魔物なんて大したもんじゃない。初めての実戦とはいえ、ユートでもなんとかなると思う」


 戦士のガルベスが言った。

「大丈夫だって! いざとなったら俺が守ってやるから!」


「もしユートさんが怪我しても、私が治しますっ」

 僧侶のシャーリーもそう言って勇斗を励ます。


「が、がんばります……」

 そう言って、勇斗はぎこちない笑みを浮かべた。

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