第85話 隠しエリアを探せ!
勇斗とアンジェロは、地下七階の探索を続ける。その目的は、おそらくこの階層にあるはずの、隠しエリアの発見にあった。
勇斗とアンジェロの二人は、テント内で広げた地図の前に座っていた。
地下七階に到達して、一週間が経過している。まばらではあるものの、地図は六割がたが埋まっていた。
地図を前にして、勇斗は宣言した。
「明日からは、隠しエリアの探索に切り替える」
笑みを浮かべて、アンジェロが応える。
「やっとだね! ってことは、目星はついてる?」
「とりあえず……」
言いながら、勇斗は地図を指し示す。
「ここと、ここと、ここあたりだな」
「ふうん。なんで?」
「最初のここな。行き止まりなんだが、周囲の同じような行き止まりと比較すると、奥に空間がありそうに見える」
「ほんとだ。確かに」
「次のここ。これは、四方が小部屋に囲まれているけども、その真ん中に、どこからも繋がっていない空間がある。周囲の部屋にはモンスターもいないし、いかにも怪しい」
「なるほど」
「で、ここ。長い長い一本道になってるんだが、その先が行き止まりで、宝箱もなにもない。その上、周辺の空間には、何もないように見える」
「あー、いかにも怪しいね」
アンジェロは、勇斗の言葉にひとつずつ頷いた。
「ユート的には、どこが本命?」
「地図も埋まってない状況で、本命も何もないんだが……」
勇斗は苦笑を返しつつ、言った。
「この三つだと、三番目のやつに期待したいな」
「それはどうして?」
「俺たちの探している隠しエリアは、地下七階の五%ぶんの広さがあるはずだ」
勇斗が地下七階に隠しエリアがあると考えている根拠は、他パーティによる地下七階の探索率にあった。その探索率が、九十五%。すなわち、残りの五%が隠しエリアに当たる。
「最初のやつと、二番目のやつは、いかにも怪しいが、広さが足りない。もし隠しエリアがあったとしても、俺たちの狙ってる本命じゃないと思う」
「なるほどね」
「もちろん、小さな隠しエリアが、ちまちまといくつもある可能性は否定できない。でも、それだと探索が面倒だから、広い隠しエリアがひとつであって欲しいってのが、俺の願望」
「それなら、今日の目的地は決まりだね」
アンジェロの言葉に、勇斗は頷いた。
「ああ。一本道の怪しいところを、徹底的に探すぞ」
長い長い通路を、勇斗たちはゆっくりと歩いていく。
前回の探索では、この通路にモンスターは出現しなかった。その点も、勇斗がこの通路に隠し部屋があると疑う根拠になっている。ゲームでは、よくあるシチュエーションだからである。もっとも、この世界はゲームではない。そのようなお約束が通じるかどうかはわからない。
前回モンスターがいなかったからと言って、警戒をしないわけにはいかなかった。なにせ、勇斗たちは弱く、地下七階のモンスターに太刀打ちできる戦闘力はないのである。
ディテクト・ライフ、ディテクト・マジックの反応に注意しつつ、勇斗は進んだ。
時折、ディテクト・シークレット――隠されたものを探知する魔法である――を、壁に向けてかけていく。
その繰り返しである。
ディテクト・シークレットの探知範囲は、さほど広くない。勇斗の技量では、五メートルといったところであろう。しかも、一回発動するごとに、魔石一個分のマナを消費する。著しく燃費の悪い魔法である。
魔石の在庫は潤沢にある。それでも、百個ほどしか勇斗は用意していない。
なので、一定距離ごとに手当たり次第、魔法をかけるわけにはいかない。目を凝らして、壁面の微妙な汚れなど、周囲と差異が感じられる場所に絞って、ディテクト・シークレットをかけていく。
十度ほど繰り返したころ、その努力は遂に実を結んだ。
壁面に隠された扉――シークレットドアが出現したのである。
「や、やった! ユート! シークレットドアだよ!」
アンジェロが上ずった声で叫んだ。
「すげえ! やっぱり、ここで間違いなかったんだ!」
勇斗の心臓が早鐘を打つ。
この先に何があるのか――?
ノブに手をかけ、勇斗はごくりとつばを飲み込んだ。
「開けるぞ?」
「うん! いこう!」
がちゃり。
開けた先には――。
見覚えのあるオブジェクトが、いくつか鎮座していた。
「えっ……?」
アンジェロが絶句して立ちすくむ。勇斗も同様である。
そこにあったのは、男性用の便器であった。
「なんでトイレが隠れてんだよ!」
勇斗は思わず叫んだ。
「隠されたトイレとか意味ねーだろ! 漏らすぞ、このやろう!」
「えーと……」
と、アンジェロは頬を掻きつつ尋ねた。
「寄ってく?」
「別に今はもよおしてねえから! ていうか別に、そこらで立ちションすればいいだろ!」
「立ちションはどうかと思うな……」
顔をしかめつつ、アンジェロは言った。
潔癖なのか、アンジェロは勇斗の立ちションを非常に嫌がる。本人も絶対にしないし、トイレでも個室を使用する。
「ていうか、やっと見つけた隠し部屋が、トイレって! どうなってんだよ!」
と、勇斗はぷりぷり怒った。
実のところ、このトイレは、玲子たちが魔法で設置した際に、誤って入り口のドアをシークレットドアに設定してしまったものである。
勇斗はふと気付いた。
「このトイレって、運営が設置したものだよな?」
「え? そうかな?」
「だって、便器とか、他のトイレと同じデザインだろ?」
「ほんとだ。たしかに」
「トイレは、ダンジョンに最初からあったものじゃない。運営が作ったもんだ。そのトイレが、長い行き止まりのある通路の途中に、作られている……?」
勇斗は考え込み、ぶつぶつと呟き始めた。
「なんで、こんなところにトイレがある? それもシークレットドアで? いや、ドアは何らかの設定ミスかもしれない。でも、なんでこの場所に?」
「ユート、どうしたの?」
「確かに周辺にトイレはないが、わざわざこんな不便な場所に置く必要はないはずだ。この先には行き止まりしかないんだから……」
そこで勇斗は、はっとして顔をあげた。
アンジェロが首をひねる。
「どうかした?」
「アンジェロ、俺たちは間違っちゃいなかった」
「どういうこと?」
アンジェロの問いに、勇斗はにやりと笑みを返す。
各階の踏破率は、冒険者が提出した地図を、運営が確認して発表される。ということは、運営は、各階の正確な地図を持っているということである。
そのような地図を持っている運営が、この場所にトイレを設置した――それはつまり、この先に探索すべきエリアが、それもそれなりの広さで探索し甲斐のあるエリアがあると、運営は言っていることになる。
「間違いない。この先に、隠しエリアがある」
勇斗は、そう断言した。
次回更新は3/4(水)予定です。




