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第85話 神殿騎士パーティのダンジョン行

聖騎士ヒョードルの率いる神殿騎士たちは、ダンジョンの攻略を開始する。

 冒険者たちはそうでもないが、彼らのパトロンたる貴族たちは、非常に排他的である。


 ダンジョン探索自体が、派閥闘争的な色を持つ以上、仕方のないこととはいえ、自陣営に属さない者に対しては、情報を秘匿する。


 したがって、ヒョードルたち神殿パーティの入手できたダンジョンの地図は、地下五階までのものでしかなかった。地下五階は、既に多くの冒険者が到達している階層で、情報の価値として低いものである。


 それでも、ダンジョンに初めて挑むヒョードルたちにとっては、非常に有用であった。


 十分な戦闘力をもった神殿騎士たちにとって、地下五階までの魔物は障害とならない。その地図のおかげで、彼らはおよそ一週間で、地下六階まで到達したのである。


「今ので最後ですか?」

 ハルバードの先端についた血を拭いながら、ヒョードルは言った。


 バトルハンマーを担いだジェニーが無言で頷く。女性にしては大柄な彼女は、滅多に口を開くことがない。


 ヒョードルは、彼女の向こうに転がった三つの死体を見る。その死体は、双頭の犬である。


 オルトロスというその魔物は、神話世界で伝えられるものであった。少なくとも、ヒョードルは初めて見る魔物である。


 地下六階で遭遇する魔物は、総じてそのようなものが多かった。地上ではほとんど見ることの無い、強力な魔物ばかりである。


 このダンジョンでは、深層に進めば進むほど、魔物が強力になっていく。そのように、ヒョードルは聞いている。


 今はまだ、ヒョードルたち神殿騎士のパーティは、実力で魔物を上回っている。しかし、地下六階でこれでは……。


 ヒョードルは、ぎり、と歯噛みする。

 魔王の元に到達するまでに、どれだけの時間がかかってしまうのか。


「ヒョードル様!」

 と、パーティで回復役を担う僧侶のホルダーが声をかける。


「どうしました?」


 ヒョードルはパーティのリーダーで、聖騎士である。立場としては、パーティの中で最も上であるが、年齢は皆より年若であるので、パーティメンバーの彼らには常に敬語で接する。


 おずおずとホルダーは言った。

「このオルトロスも、その……捨て置くのですか?」


 ヒョードルは快活に答えた。

「はい。我々には、魔物の素材を集めている暇などありません」


 冒険者たちは、倒した魔物の素材を剥ぎ取りするそうである。街で換金するためである。


 ホルダーは言った。

「しかし、聞いたところによれば、オルトロスの牙などは、一匹分が金貨一枚を下らないとか……」


 金貨一枚は、清貧を旨とする神殿の者であれば、三日は生活できる額である。


「目的を見失ってはいけません」

 と、ヒョードルは諭した。

「我々の目的は、魔王の打倒です。それ以外は無用のものと心得なさい」


「しかし、これを換金できれば、孤児院の運営費用に……」


 神殿騎士の出自の多くは、孤児院である。

 孤児院の運営は、多くが喜捨で賄われている。その運営は決して楽なものではない。子供たちは常に腹を空かせている。


 ヒョードルがそうであるように、ホルダーもまた、孤児院の出身である。

 ホルダーの気持ちは、ヒョードルにもわかる。魔物素材を売って、彼らにパンと一杯のスープを。そう考えてしまうのだろう。


 しかし――。

「素材の剥ぎ取りには時間がかかります。その技能をもたない我々では、更にかかってしまうでしょう。その時間が惜しいのです」


 ホルダーは黙り込む。


 ヒョードルは言った。

「魔王の復活は近いのです。聖女様が顕れたのも、その予兆でしょう。聖女様は、乱れた世に顕れるもの。すなわち、乱世はすぐそこまで来ている。我々は、一刻も早く魔王を打倒せねばならないのです」


 は、と短く答えて、ホルダーは膝をつき、深く首を垂れる。


 それに鷹揚に頷くと、ヒョードルは皆に言った。

「参りましょう。地下六階などでぐずぐずしている暇はない」


 冒険者などに後れを取るわけにはいかない、とヒョードルは思う。

 何故なら、魔王は、自分が斃さなければならないからだ。


 神殿からそれを期待されているというのも理由の一つではある。

 しかし、ヒョードルはもっと私的な理由から、仇である魔王とその眷属を滅ぼさなければならないのであった。


 神殿騎士は、冒険者ではない。

 目的からして違う。


 冒険者の目的は、ダンジョン探索を通じて、稼ぐことである。


 倒した魔物を剥ぎ取って、素材を回収する。未踏領域を探して、お宝を求める。当然ながら、そういった行動をとることになる。むろん、それには相応の時間を取られる。

 彼らにとって、魔王の打倒は、言ってしまえば、稼ぐついでに、できたらいいな、という願望程度のものである。どちらかと言えば、冒険という行為そのものが、冒険者たちの目的である。


 しかし、神殿騎士の目的は――聖騎士ヒョードルの目的は違う。

 魔王の打倒、それのみであった。


 聖騎士ヒョードルの率いる神殿騎士パーティは、たったの一か月で、地下七階まで到達した。

 その間、彼らは、一度たりとも地上に戻ることはなかったのである。

またまた遅くなりまして申し訳ありません…。

次回更新は10/27予定です。

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