第81話 第一回パーティ編成会議
冒険者デビューを決めた玲子たちは、パーティ構成について話し合う。
「それでは、第一回、パーティ編成会議を開催します!」
言ってから玲子は、盛大に拍手した。
つられたように、他のメンバーもぱらぱらとまばらな拍手を返す。
場所はいつもの、城の会議室である。
居並ぶメンバーも、いつもと変わらぬ運営メンバーであった。
ディレクターの玲子を筆頭に、デザイナーの北條、プログラマーの水谷の、転移組がいる。
そして、ベルモントの領主にして元勇者のアンドリュー、エルフの魔法使いフェリス、アンドリュー配下の男爵であるアルス、見習いデザイナーであり元冒険者のメルル。その四人が、異世界組の面々である。
さっとアンドリューが手を挙げた。
「はい、アンドリューさん」
と玲子が指名した。挙手して発言するという習慣は、度重なる会議で、異世界の者たちにも身についてきている。
アンドリューは言った。
「申し訳ありませんが、私は、パーティメンバーから除外いただけるとありがたく存じます」
「やっぱそうなるかぁ……」
玲子は嘆息する。
アンドリューは、ここベルモントの領主である。忙しさは、玲子たちの比でない。
「正直、このメンツで一番、戦闘に秀でているのはアンドリューなのよね……。いるといないとじゃ、安心感が段違いなんだけど……」
「申し訳ございません……」
アンドリューは頭を下げた。
気を取り直して、玲子は尋ねた。
「えっと……フェリスは大丈夫?」
「問題ない。ミズタニ殿がダンジョンに参られるのなら、わらわ一人、城に残る意味もなかろう」
「よかった。よろしくね」
フェリスは、勇者であったアンドリューの、元パーティメンバーであった。魔王の下に赴き、それを封印してのけた、偉大な魔法使いである。
「メルルも大丈夫かしら?」
「はい! 是非ともご一緒させてください!」
玲子が水を向けると、メルルはやる気満々で答えた。
彼女の戦闘力は未知数であるが、元冒険者が一緒というのは心強い。
ひとつ頷いてから、玲子はもう一人の異世界人を見やった。
「で、アルスは……どうする?」
「謹んで留守番を務めさせていただきましょう」
即答である。
戦闘において、アルスは一切頼りにならない。そのことは玲子も熟知している。
うん、と玲子は頷いた。
「まあ、アルスは最初から期待してないから問題なし」
玲子の言葉に、アルスは微妙な表情を浮かべた。
「ということは、私と北條と水谷、それにフェリスとメルルの、五人パーティね」
頷きながら玲子は言う。それから、二人に尋ねた。
「フェリスの職業は、魔法使いよね? メルルの職業は何になるのかしら?」
メルルは答えた。
「魔剣士です!」
「魔剣士!?」
「はい。魔剣を操りますので」
「魔剣ってなに!?」
メルルは胸を張った。
「そのままの意味です。私は魔剣――魔力を持った剣を所持していますので、それを使って戦います!」
玲子は口をあんぐりとしつつ、アンドリューに尋ねた。
「そういえば、クラス、職業って、どこかしらで決められてたりする? 冒険者ギルドが指定してるとか」
アンドリューは答える。
「いえ。基本的には自称ですので、なにを名乗っても構いません」
なるほど、と玲子は頷く。メルルの発想は、基本的に中二病なのであろう。
「魔剣士って、要するに、剣士ってことでいいのよね? じゃあ、メルルは前衛ってこと?」
「そうなりますが、魔剣士は魔剣士であって、剣士ではございません!」
メルルの抗議を無視して、玲子は水谷に尋ねる。
「水谷は、やっぱり魔法使いになるわよね? フェリスと被るけど」
水谷は頷く。
「まあ、そうなるでしょうね。詠唱での魔法回路構築も、いま練習しているところです」
「え!? すごい! やる気じゃない」
「そもそも、運動不足の身で、前衛は無理ゲーです……」
「それは私もそう……」
言って、玲子はため息をつく。
「だから、私はヒーラーでいこうと思う。なんたって聖女だし!」
北條が口をはさむ。
「玲子ちゃん、神聖魔法なんて使えるの?」
「使えない! てなわけで、基本的にはアイテム頼り。全回復ポーションをたんまり持ってくわ」
フェリスが言った。
「神聖魔法は専門ではないが、わらわが基本的なところはお教えしよう。むろん、すぐに使えるというものでもないが」
玲子は頷いた。
「で、北條なんだけど……」
水を向けられた北條が、うーむと唸った。
「やっぱり前衛やったほうがいい?」
「そうね。このままだと、メルル一人に頼ることになっちゃうし」
「前衛は俺も自信ないなぁ。魔物とガチで戦うわけでしょ? さすがに恐怖感があるよね」
「まあ、そうなんだけど……」
あのさ、と北條は言った。
「冒険者になるって聞いてから、ずっと、なりたい職業考えてたんだけど……。言ってみていい?」
「へえ。いいわ、言ってみて!」
北條は言った。
「遊び人!」
「却下!」
玲子は即答する。
北條が唇を尖らせた。
「えー! いいじゃん!」
「いやいや。絶対に賢者に転職できそうもない遊び人をパーティに入れる意味ある!?」
「どっちにしたって俺、なんにもできないと思うけど?」
「フェンシングやってたんでしょ?」
「やってたけどさー。大学のサークルだよ? 集まって遊ぶのがメインって感じだったし……」
言いながら、ふと思いついたように、北條が尋ねた。
「ていうか、玲子ちゃんは、なんか部活とかやってなかったの?」
「私? 一応、高校で弓道やってたけど……」
「お。じゃあ、弓が使える感じ?」
「どうかしら? 和弓と洋弓ってかなり違うのよね。前に見た感じだと、こっちの弓はたぶん洋弓に近いから」
「そうなの? 同じ弓でもいろいろあるんだ?」
「和弓はいろいろ特殊すぎるらしいわ。まあ、洋弓もやってやれないことはないとは思うけど」
「じゃあ、後衛から弓で攻撃しつつ、ヒーラーやるってのはどう?」
「それ、いいわね! 回復してないときは暇だし!」
「ただ、フレンドリーファイアだけは注意してね!」
フレンドリーファイアとは、誤って味方を攻撃してしまうことである。
北條の指摘に苦笑しつつ、玲子は尋ねる。
「で、北條はどうする? 前衛が無理ってなると、あとは罠解除系かしら。盗賊とか」
「それはそれで難しそうだし、危険も大きそう。ていうか、今から身に着けられる技術なのかな?」
アンドリューが言った。
「皆さま一度、冒険者ギルドの初心者講習を受けてみられるのはいかがでしょう?」
「初心者講習なんてのがあるの?」
「はい。ベルモントの場合は初心者の数自体があまり多くなく、滅多に開催されておりませんが。ダンジョンがありますので、熟練の冒険者がほとんどなのです」
「初心者講習って、どんなことをやるの?」
「座学と実技で、冒険者の基礎を学べます。ご希望でしたら、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊といった、一般的な職業について、一通り学ぶことも可能です」
「俺、それがいいな」
と北條が言った。
「いろいろやってみて決めたいよね」
水谷は言った。
「いろいろじゃなくて、専門的に学ぶこともできますか? 僕は、魔法使いとしての戦闘方法を学びたいんですけど」
「もちろん、それも可能です」
玲子は言った。
「じゃあ私は、僧侶コースかな」
「タチバナ様の場合は聖女であらせられますので、神殿に頼めば、かなり高度な神聖魔術でも教えていただけると思いますが……いかがしましょう?」
少しだけ考えてから、玲子は首を振った。
「いえ。初心者講習っていうのがどういうのか見ておきたいし、冒険者ギルドでお願いしたいわ」
「承知しました」
とアンドリューは頷く。
「ところで、講習期間って、どのくらいかかるの?」
「基本的には、一週間です」
「一週間……」
玲子は考えこむ。
一刻も早く、次の階層を実装しなければならないのである。それにはレベルデザインが必須になるとはいえ、準備に一週間を費やしてもいいものだろうか――?
玲子は小さくため息をついた。
「まあ、焦っても仕方がないか」
ゲーム開発に近道はない。やることをやって、積み重ねていくしかないのである。
そして、時には来た道を戻ることも厭わない。そうやってしか、ゲームは完成しないのである。
「それじゃあ、初心者講習をお願いします。参加するのは、私と、北條と、水谷ね」
「本当に冒険者やるんだねぇ……」
「僕、ちょっとだけワクワクしてます」
アルスが言った。
「装備品はいかがしますか?」
「とりあえず、私は僧侶系の装備と、あとサブウエポンに弓が欲しいかな。なるべく軽くて小さいやつで。水谷は、魔法使い系よね? 杖とかかしら。北條は……」
「俺は、何やるか決まってからでいいや」
アルスは頷いた。
「それでは、皆さんは初心者講習を頑張ってきてください。終わるまでに、いい感じの装備を用意してお待ちしてます!」
すみません。前回から時間が空いてしまいました。
今回から第三部「レベルデザイン篇」の開幕です!
次回更新は9/5(金)の予定です。




