第6話 ゲーマーの俺が異世界に召喚されてみた
真田勇斗、十六歳。プロ級のゲーマー。
勇者として異世界に召喚される。やったー!
でも、なんか思ってたのと違う!?
求む! 異世界を救う勇者。
そう表題に書かれたメールを真田勇斗が受け取ったのは、徹夜プレイ明けの早朝であった。
イタズラ? いや、新作ゲームのプロモーションか?
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剣と魔法の世界。異世界のダンジョンで眠る魔王。それに挑む勇者。
ファンサガみたいだな、と勇斗は思った。
ファントム・サーガは、勇斗が十代の前半を費やしたゲームである。基本無料のスマホ向けのオンラインRPGであったが、PC版も存在していて、勇斗は主にPC版でプレイした。
ファンサガは、スキルシステムに独自性のあるゲームで、無限に近いキャラクタービルドができるのが特徴である。しかもそれが気軽に試せるのもあって、勇斗はビルドを考えて日々を過ごすことになった。
尖ったシステムを持つ反面、その世界観はありふれていた。王道と言い換えていいかもしれない。
ファンサガが終わって、もう二年になるんだな、と勇斗は懐かしく思う。
十六歳になった現在の勇斗の主戦場は、MOBAである。そこで好成績を残し続けている。プロチームからの誘いもあったほどである。
勇斗のMOBAプレイヤーとしての根幹にあるのは、ファンサガでの経験であった。ジャンルこそ違えど、システムの理解、独自性のあるビルド、ロールの立ち回り、その他もろもろ。それらはファンサガで培われたものだ。
久しぶりに、ファンタジーなRPG世界に浸るのもいいかもな。
勇斗はメールの文面を下にスクロールする。そこには、こうあった。
勇者として異世界を救いますか?
はい
いいえ
勇斗は、少し考えて、はいをクリックする。
それで、真田勇斗は勇者として異世界に召喚された。
夢みたいだ、と勇斗は思った。
ゲームのようなファンタジー世界に、勇者として召喚される。
中二病の妄想そのままの状況に、勇斗は興奮した。異世界ものアニメは大好きなのである。
ゲームっぽい世界きたー! 俺の時代きたー! と思った。
あれ? と思ったのは、チートもユニークスキルもないと聞かされたときである。
おや? と思ったのは、自身のステータスが見れなかったときである。
それでも勇斗は、世界を救えるという根拠のない自信を持っていた。なにせ、自分は勇者なのである。わざわざ異世界に召喚されたということは、それなりの価値があるはずだ。
そもそもゲーム的な世界なのである。ゲームの攻略に対しては、十全の自信があった。
勇斗を召喚したのは、ギルバート伯爵を名乗る青年貴族であった。
ベルモントの街にはダンジョンがあり、そこには封印された魔王が眠っている。ギルバート伯は、その魔王討伐に尽力している人物であるらしかった。
「どうして俺なんです?」
召喚された折、勇斗はギルバート伯にそう尋ねた。
ギルバート伯は答えた。
「神託によるものです」
「神託?」
「はい。勇者様の召喚にあたり、神殿で神に祈り託宣を賜ったのです。異世界にて、竜を右手に宿しものこそ、魔王を打倒しうる勇者なり、と」
「竜……」
呟いて、勇斗は右手を見る。右手の甲には、幼いころに負った火傷の跡がある。
「まあ、そう見えなくもない……かな?」
それが竜に見えるかはさておいて、神に選ばれた勇者というのは悪くなかった。
ギルバート伯の勧めるまま、勇斗はまず、冒険者ギルドの訓練所で基本的な戦闘技術を身に着けることになった。
その、戦技の訓練でのことである。
戦士ギルドから派遣されている教官が言った。
「まずは、基本的な戦技である、風衝波から学んでいきましょう」
戦技! そうそう、こういうのを待ってたんだよ! と勇斗のテンションが上がる。
「構えは、こうです」
言って、教官が剣を引き、突きの構えを取る。勇斗も見様見真似で、同じ構えを取る。
「ここから体内の気を剣先に集めていきます」
まって! と、そこで勇斗は戸惑った。
それ、どうやってやるんだよ!?
「突きを放つと同時に、剣先の気で空気を押します」
勇斗が戸惑っている間にも、教官は先を進める。
たしかに、何らかのエネルギーが教官の剣先に集まっているのは、勇斗にも分かった。
「風衝波!」
気合とともに教官の剣が突き出される。ボッ! と音がして、剣先の空気が大きく動く。前方に置かれた人形に、空気の塊がぶつかり、どすん! と大きな音を立てた。
「このように。突きで出すのが基本ですが、慣れれば他の形でも出すことができるようになります」
え? と勇斗は言った。何が起こったかわからなかった。
「あの……」
おずおずと尋ねた。
「思い浮かべるだけで技が出たりしないんすか?」
え? と教官は言った。
「出るわけないじゃないですか」
教官曰く、戦技というのは体内の気のコントロールが重要なものらしい。それどころか、気のコントロールができなければ、魔法を使うこともできないし、職業ごとの特技を使うこともできないそうである。
渋面を浮かべる勇斗に、教官は笑って言った。
「なあに。コツさえつかめれば、そんなに難しいことではありません。この国では、子供でもできます」
その、子供でもできることを身につけるのに、勇斗は一か月を要した。
このあたりから勇斗は、何か不穏な雰囲気を感じ始めていた。
玲子たちがこの世界に召喚される、一年前の出来事である。