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第32話 仕様バグじゃん!

ゴブリン出現の原因は、蘇生術のバグにあった。

運営としては障害告知をしなければならないが、玲子にはひとつの懸念が――。

 要するに、三角マーカーの解釈が間違っていたのである。


 ダンジョンの蘇生術を構築するにあたって、玲子と水谷は、それを冒険者であると考えていた。

 しかし三角マーカーは、実際にはダンジョンへの侵入者を示すマーカーであった。


 ゴブリンは魔族によってダンジョンに連れてこられた。従って、ゴブリンは侵入者としての扱いであり、それを示すマーカーは三角である。それが瀕死に陥った時、ダンジョンの蘇生術が発動してしまったのだ。


「やっちまったわー!」

 大門で起こった騒動の顛末を聞いて、玲子は頭を抱えた。

「なんでこのタイミングでゴブリンの大規模討伐なんかやる奴がいるのよ!?」


 嘆く玲子に北條が言った。

「最悪なことは最悪な時に最悪の形で起こるものだよねー」


「マーフィーの法則ってわけ?」

 言って、玲子は大きなため息をつく。


 アンドリューが言った。

「タチバナ様。申し訳ありませんが、ギルドマスター代理のギルガメッシュから、事態の説明を求められています」


「それはそうよね……」

 と玲子は再び頭を抱えた。


 ギルガメッシュに説明するのは特に構わない。ギルガメッシュは、ダンジョンの管理者が玲子たちであることを知っているからである。

 問題は、冒険者にどう説明するか。

 ダンジョンの管理者。その存在を、彼らにそのまま明かすことはできない。

 何故なら――。


「アンドリュー。この際、はっきりさせておきましょう」


「なんでしょう?」


「あなたは、冒険者の味方ではないわね?」


 その一言で、アンドリューから、いつもの柔和な雰囲気が消えた。

「なにを仰っておられるのです?」


「私たちはレベルエディターで、ダンジョンの構造をいじれるようになった。なのに、あなたは一度も、ダンジョンを簡単に攻略できるようにしてくれ、とは言わなかったわ。そうすれば、冒険者が魔王を倒すのが楽になるにも関わらずね」


「それは、ゴブリンのことで忙殺されておりましたので……」


「じゃあ、ダンジョンを簡単に攻略できるようにしちゃっても、いいのね?」


「それは……」

 アンドリューが黙り込む。


「冒険者に簡単に攻略されては困る、ということね?」


「……左様でございます」


「わかったわ」

 と玲子は言って、ため息をついた。

「ということは、ダンジョンの管理者という存在を、そのまま冒険者に明かすわけにはいかないわね」


 はい、とアンドリューは頷いた。


「どういうこと?」

 と北條は尋ねた。


「ダンジョンの管理者というものがいるとわかったら、冒険者も同じ疑問を抱くはずよ。なんでダンジョン攻略を楽にしてくれないんだ? 魔王を倒したかったらそうすべきだ、ってね」


「なるほど。言われてみればそうか」


「今回の障害について、冒険者に説明するためには、私たちの立場を明確にする必要があるのよ。私たちの存在を明かすか明かさないか。明かすとしたら、どういう嘘をつくべきか」


「嘘?」


「私たちは、ダンジョンを自由に作り変えられる者です、って言うわけにはいかないからね。存在を明かすんだったら、冒険者に何らかの嘘をつく必要がある」


「どうするの?」


「存在は明かしたい。運営がいるということを、冒険者に知ってもらいたい。そうでないとユーザーとのコミュニケーションが難しくなるわ」


「じゃあ、嘘をつくわけだね」


「ええ。私たちはアンドリューの下で、ダンジョン攻略の支援を行っている者だということにする」


「今回の蘇生術も、支援ではあるもんね」


「ただ今回は、その蘇生術にバグがあった。だから私たちの名前で、状況について説明する必要があるし、なんらかの補償をしなくちゃいけない」


「どうするの? 詫び石でも配る?」

 と北條が笑って言った。


「石があったら配りたいところだけどね」

 と玲子は苦笑を浮かべる。

「今回については金銭で補償するしかないわ。街に損害を与えている以上ね」


 アンドリュー、と玲子は呼びかける。

「今回の件で避難した住民に、見舞金を配ります。それと、ゴブリンを撃退した冒険者たちに、ギルドを通じて報奨金を出す必要があるわね。いくらくらいが妥当かしら?」


「そうですな……。あとで計算してお知らせしましょう」


「それから、ギルガメッシュさんから、しばらくゴブリン討伐をしないように冒険者に通達をしてもらいます。ゴブリンを倒すと街に出てきてしまうことを、ちゃんと説明した上でね。それに対する補償として、不具合の修正が終わるまでは、冒険者の入場税を聖金貨二十枚とします」


 以上、と玲子は言う。

「これで問題ないかしら?」


「結構でしょう。その線でギルガメッシュと交渉いたします」


「私も同席するわ。私たちの不手際で迷惑をかけてしまって、申し訳ないわね」


「いえ。皆様をお呼びしたのは私ですので、責任の一端は私にもございます」

 アンドリューが頭を下げた。


 それと、と玲子は言った。

「アンドリューさんの立場についても、いずれ聞かせてほしいところだわ。どうしてダンジョンを冒険者に簡単に攻略させたくないのか。そして、どうしてダンジョンでお金を稼ぐ必要があるのか、なんかをね」


 承知いたしました、とアンドリューは微笑んだ。

「いずれ、すべてをお話しいたしましょう」



 次の日、冒険者ギルドの掲示板に布告が出された。

 そこには今回のゴブリン騒動について、原因の説明と陳謝、今後の対応について書かれていた。

 末尾には、ダンジョン攻略支援運営局の記名がされている。


 通称「運営」の存在が、以降、冒険者に周知されることになったのである。

次回更新は4/30です。(祝日はお休みです)

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