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第30話 それってやばいかも!?

ダンジョンの地図魔法は、モンスターの設定なども行える、いわゆるレベルエディターの機能も持っていた。

モンスターもダンジョンの魔法で作っているの? という北條の質問に答えるフェリス。

玲子はそこで、とんでもない問題に気づいてしまう――。

 アンドリューが尋ねた。

「冒険者を増やすというと、どのようになさるおつもりですか?」


「まあ腹案はあるんだけど、まずはインゲームの改修かな」


「インゲームというのはつまり、ダンジョンのことでございますね」

 以前に玲子が説明したことを、アンドリューは覚えてくれていたようである。


「そう。水谷とフェリスさんが頑張ってくれたから、かなり手を入れていけそうなの」


 玲子は、マップ・ダンジョン、と唱えた。

 中空にダンジョンの地図が浮かんだ。


 北條が驚いて言った。

「え、玲子ちゃんもその魔法つかえるの?」


「ふふふ。こないだフェリスにやり方を教えてもらったのよ」


「ずるい! 俺もやりたい!」


 フェリスが人差し指を立てて、臨時講義を始める。

「そう難しいことではありませんぞ。まずは丹田を中心に気の流れを……」

「ふむふむ」


 玲子は慌てて二人を止める。

「教えるのは今度にして、とりあえず今は黙って聞いてもらってもいい? 話がずれちゃうから」

 そう言って、続ける。

「この地図魔法については、前回だとダンジョン内の情報が見れる魔法、って感じで話してたわよね?」

 北條が頷くのを見て、更に続ける。

「実はダンジョンの設定ツールでもあったの」


「設定ツール?」


「この魔法で、ダンジョンの壁の配置とか、罠の設定とか、モンスターの配置まで、一通りできるの。要は、レベルエディターになってるのよ!」

 ここで言うレベルとは、階層のことである。主に3Dゲームの開発において、レベルエディターは一般的に使われるツールである。


 玲子は地階のマップを開いて、壁を示す線をなぞった。線が消える。

「これで、壁が消えた」

 もう一度なぞると、線が現れる。

「これで、壁ができた」


「そうなの?」

 と北條が言った。


「ここからだとわからないけど、できてるらしいわ」

 言われてみれば、確かに実感がない。


 水谷が言った。

「蘇生用に新しく作ったセーフルームも、こうやって作っています」


「なるほど」


「あと、面白いのはね……」

 と言って玲子が、モンスターを示す丸のマーカーをタップする。

 横に文字が表示される。水谷によれば、出現する魔物の種類を示すものらしい。

 もう一度タップすると、それがリスト表示に切り替わった。

「こうやって、リストから出現モンスターを変更できるの! 文字が読めないから私はできないけど!」


 驚いて北條が尋ねた。

「モンスターって、ダンジョンが作ってるの? 魔法で?」


「それについては、わらわから説明いたそう」

 こほんと咳払いして、フェリスが言った。

「ダンジョンの魔物には、大きく分けて三つのものが存在しておるのじゃ」


 ひとつめ、と指を立てる。

「ダンジョンの魔法で作られた、魔法生物。これは、マナで作られた生物ゆえ、ダンジョン内でしか存在できぬ。したがって、彼らから何らかのアイテムを得ることはできぬ。地上に持ち帰ると消えてしまうでな」


「宝箱のアイテムと同じ理屈だね」

 と北條が頷いた。


 ふたつめ、とフェリスが二本目の指を立てる。

「召喚された魔物。これは、ダンジョンの魔法によって、いずこからか召喚された魔物じゃ。召喚された生物ゆえ、実体があるし、冒険者は毛皮や牙などといったアイテムを得ることができる。ダンジョンの多くの魔物が、これのようじゃ」


 北條が尋ねた。

「召喚って、すごく大変なんじゃないの?」


「それは、貴殿らのような人間を異世界から召喚する場合じゃ。魔物のように下等な存在であれば、それほどでもない」


「魔物も異世界から召喚しているのかな?」


「わからぬ。聖典で言うところの魔界からかもしれぬし、この世界のいずこからかもしれぬ」

 そう言って、フェリスが首を振る。

「いずれにせよ、マナの消費量はさほどでもないようじゃ」


「それで、三つめは?」

 と玲子が尋ねる。

 これまでのふたつは、水谷に説明されて既に知っていた。三つ目の存在は初耳である。


 三つめは、とフェリスが言った。

「魔族じゃ」


「魔族?」


「魔王の眷属たる者たちじゃ。彼らは、ダンジョンの魔法とは全く関係ない形で、ダンジョンに巣食っておる。先の戦争の際、魔王の率いる軍勢が、このダンジョン内に籠城した。彼らは未だ、封印された魔王を守るためダンジョン内に居座っておるし、魔王の復活をもくろんでおるのじゃ」


 アンドリューが言った。

「私といえど、魔王の軍勢をすべて駆逐できたわけではございません。残ったものも多くいるでしょう」


「でも、十年も前の話でしょう?」


「たかだか十年、でございます。奴らの寿命は、我々人間よりずっと長いのです」


 フェリスが言った。

「まあ、寿命の短いのも、おるにはおる」


「そうなの?」


「うむ。ゴブリンなどがそうじゃ。尤もゴブリンは正確には魔族ではなく、魔族が連れてきおった雑兵なのじゃが」


「え? ゴブリンって短命なの? 今でも地下一階にいるんじゃなかったっけ?」

 そういう話を、アルスから聞いたような気がする。


「魔族からはぐれて住み着いておるのじゃ。主にダンジョンの魔狼を狩って生きておるらしい。奴らは短命じゃが成長が早く、繁殖力が旺盛でたくさんの子を産む。今は何世代目になっておることやら」


 生まれて死ぬまで、ダンジョンで世代交代を繰り返して生きてきたということか。玲子は遠い目をする。

 気を取り直して尋ねた。

「三つ目の魔族については、ダンジョンの魔法ではどうすることもできないわけね?」


「うむ。放り出す方法はまだ見つかっておらぬ」


 水谷が横から割って入る。

「でも、存在自体は確認できています。地下九階以降に存在する、三角のマーカーがおそらくそれではないかと。そこにはまだ冒険者は到達していませんから。それがおそらく魔族です」


「まって。三角のマーカーって冒険者じゃなかったの?」


「厳密には冒険者ではなく、ダンジョンへの侵入者を示すマーカーなんだと思います。だから、ダンジョンとしては同じく侵入者である魔族もまた、三角のマーカーで表示されているんです」


 えっ! と玲子は叫んだ。

「なんてこと……。それはまずい。非常にまずいわ……」


「何がまずいんですか?」


「三角のマーカーは、冒険者を示すものじゃなかった……。それが、魔族の場合もあるんでしょ? ダンジョンの蘇生術は、そのマーカーを参照してるのよ……?」


 水谷が、あっ! と叫んだ。


 そのとき。

「大変です!」

 と叫びながら、会議室にアルスが飛び込んできた。


 間に合わなかったか、と玲子は舌打ちする。


「ベルモントの市街に、ゴブリンの集団が出現しました!」

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