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第29話 死者蘇生を実装しました

玲子はダンジョンに新規実装した死者蘇生について説明する。

 死んだはずの冒険者が生き返った。

 全滅したはずのパーティが生還を果たした。


 それらの噂は、瞬く間に冒険者の間に広まった。


 もちろん、噂の真偽を身をもって確かめようとする者などいるはずもない。しかしながら、いくばくかの冒険者たちが、その噂の正しさを、不幸にも身をもって知ることになった。


 死後に訪れる部屋。そこで提示される選択肢。無料での帰還。有料での復活。

 生還者が増えるごとに、噂にはディティールが付け加えられていく。


 やがて冒険者たちは、その噂がまごうことなく真実であると確信するに至った。何故なら、噂が流れ始めて以降、ダンジョンでは一人の死亡者も出ていなかったのである。


 神殿は、これこそ神の与えたもうた奇蹟であると冒険者たちに訴えた。その結果、ベルモントにある神殿では、いくぶんか喜捨の額が増えたようである。

 しかしながらこれは、神の与えた奇蹟などではなかった。



 ベルモント城の会議室に一同が会している。


 アンドリューが言った。

「今回追加したコンティニュー機能の使用料で、月に聖金貨千枚ほどの追加収入がございました」


「千枚!?」

 玲子は驚いた。

「めっちゃ多くない!?」

 聖金貨千枚は、日本円にしておおよそ一千万円である。


「そうなのですか?」


「入場税五千枚の売上に対して二十%でしょ? いっても五%くらいかなーと思ってたのよ。嬉しい誤算だわ」


 水谷が尋ねる。

「コンティニューって、そんなもんなんですか?」


「そうね。ファンサガでは一%もいかなかったわ」


「意外だなぁ。色んなソシャゲに実装されてるのに」


「それは、課金機会を増やすためね。課金の導線を色んなところに仕込むのはとても重要なの」


「どうしてです?」


「一度でも課金したことがあるユーザーは、二度目の課金をする可能性が増えるから。ソシャゲが少額課金を色んなところに仕込むのはそれが理由よ」


 北條が言った。

「課金に対する意識のハードルを下げて、後からもっと高い課金をしてもらうってことだね」


「そういうこと」


「そういう意味だと、入場税を払っている冒険者たちは、課金のハードルが低いのかもしれないね。コンティニューに対しても金払いがいいのかも」


「コンティニューしないとダンジョンでの獲得物を没収っていうのも、課金圧になってると思うわ。ちょっと下品なやり方だけどね」


 しかし、と感嘆した様子でアンドリューが言った。

「まさか蘇生魔法を実践してしまわれるとは!」


 玲子は笑って、いいえー、と眼前で手を振る。

「あれ実は、蘇生してないのよ」


 は? とアンドリューは驚きの声をあげる。

「それは一体、どういうことですか?」


 玲子は言った。

「瀕死の冒険者を、死ぬ直前に全回復させているだけなのよ」


 アンドリューが首をかしげた。意味不明、といった表情をしている。


 玲子は、こほんと咳払いして、改めて説明を始めた。

「今回の蘇生術? って言っていいかしら? これは、ダンジョンの既存機能を三つ組み合わせる形で実装したの」


 ひとつめは、ダンジョンの地図魔法である。

 その中には、冒険者の状態を表示する機能がある。ダメージに応じて、緑から赤に変わるマーカーである。この機能を用いて、真っ赤になったマーカー、すなわち瀕死の冒険者を検出できるようにした。


 ふたつめが、テレポーターだ。

 瀕死の状態の冒険者を、即座にテレポーターによって転送する。その場でそれ以上のダメージを受けることを防ぐためである。

 転送先は、地階に新たに作った部屋、玲子たちがセーフルームと呼ぶ部屋である。扉は一つだけで、それはダンジョンの外に通じている。セーフルームは十部屋を用意していて、瀕死の冒険者が複数同時に出た場合でも、一人ずつ別々の部屋に転送できるようにした。


 三つめが回復の祭壇である。

 部屋に転送すると同時に、祭壇の力で瀕死の冒険者を全回復させる。

 これで、冒険者の主観としては、死後にダンジョンの一室で蘇生したかのように見えるのである。


「今回実現したかったのは、冒険者の死を避けること。コンティニュー機能はついでね。それで予想外に稼げたのは御の字だったわ」


 北條が尋ねた。

「冒険者が即死級のダメージを受けたらどうなるの?」


「推測だけど、ある程度なら大丈夫じゃないかと思う。この世界で死がどういう扱いかはわからないけれど、私たちの世界でも、肉体的な死と脳死のいずれが本当の死かは、厳密には定義できてないわよね?」


「まあ、それはそうだね」


「心臓をつぶされてもしばらく脳は生きているし、脳をつぶされても心臓はしばらく生きている。だから、どっちかが生きてるうちに回復できれば、なんとかなるんじゃないかしら?」


 北條が笑う。

「めちゃくちゃな理屈だね」


「今のところ蘇生の成功率は百%だから、なんとかなってるみたい。この世界には魔法があるし、魂とかそういうものが関係しているのかもしれないわ。わかんないけどね」


 というわけで、と玲子は続けた。

「バケツの穴はひとまず塞ぐことができた! これからは本格的にユーザーを増やしていくフェイズになるわね」

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