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魔王、再び

俺は人気のない森に入る。永炎の指輪は効力を失い、割れる。イフリートの炎も消え、俺は唯の人間に戻る。


『バレてしまいましたね、現実世界で貴方にとって最悪の出来事が起こるでしょう』


現実ではないとはいえ、目の前で死なせる訳にはいかない。それに未来で起こる事なら結果は変えられる。そう悲観する必要はない。


俺は絶対にルナリアーナを助ける。


『ルナリアーナを想う気持ちは変わりましたか?』


努力家で優しく可憐な俺の知らない彼女。俺の前で見せてくれた天真爛漫で笑顔の絶えない彼女。俺に死地に送り続けてきた彼女も、今は愛している。


『正体はバレてしまいましたが、試練を乗り越えたので報酬をあげましょう』


『ツクヨの街へ向かって下さい』


『2日後に何故ルナリアーナが拐われたのか、そこで分かります』


ツクヨの街か、少し遠いな。



俺はツクヨの街へ着いた。家の屋上に座り、目をつぶって考える。


何度かルナリアーナが王城を出て数日間帰って来なかった事があったが、もしかしたら今回の件と関係しているのかもしれないな。


『起きてください、時間です』


「何処にルナリアーナはいるんだ」


『下です、ローブを着た小柄の人影が見えるはずです。その跡を追って下さい』


「あれは……ルナリアーナか、細い路地で一体何が起こるんだ」


『貴方にインビジブルをかけておきます。これで何があってもバレないでしょう』


「俺の追跡スキルレベルならルナリアーナにバレることはない」


『ルナリアーナにではなく、密会者にです』


「密会者がいるのか?」


ルナリアーナが止まった。レンガの壁に手を当ててぶつぶつと一人言を言っている。


壁は変形し人が一人通り抜けれる程の穴ができた。


ルナリアーナはその穴の中に入っていく。


「なんだあれは?」


『話している暇はありません、早く入って下さい!』


俺は全速力で走り元に戻ろうとしている穴に飛び込んだ。


俺は異物を吐き出すように穴から飛び出てきた。勢いが強すぎて尻餅をついてしまう。異空間からおしゃれなバーにやってきた俺はルナリアーナを探す。


ルナリアーナは目の前に立っていて、俺は不覚にもルナリアーナの尻を眺める立ち位置にいる。


俺は立ち上がり他に誰かいないか探す。


「あいつは……何故サタンがここにいるんだ!」


黄金のエルメに問いかける。


黄金のエルメは答えてくれない。


サタンはグラスの中に残っていたカクテルを飲み干し、グラスをバーテーブルに置いた。


グラスは激しく音を鳴らしヒビが入る。


ルナリアーナが驚きのあまりビクンと跳ね上がる。


「おはよう、ルナリアーナ。月明かりのない新月の日だ、約束を覚えているかい?」


サタンは立ち上がりルナリアーナの顎をくいっとやる。


「コイツ、ふざけた真似を!」


俺はサタンの顔面をぶん殴ろうとするが、透明になっていて、サタンの体を通り抜けてしまう。


「魔法を解いてくれ!」


返答がない


「ええ、覚えています。新月の日に魔王サタンと婚約する。それが契約の内容です」


「契約とはまるで、私と結ばれるのが嫌だとでも言いたげだな」


サタンは指で顎を強く持ち上げ更に上げさせる。


ルナリアーナはつま先を立てて耐えるが今にも後ろに倒れそうだ。


サタンはルナリアーナの腰に手を回して言う。


「貴様の気持ちなどどうでもいい、私の子孫さえ産んでくれればなあ!」


サタンは高笑いをする。



俺は地面を叩く。くそ!干渉出来ないなんて、俺の手がサタンの胸ぐらに届けば……


「さあ、誓いの口づけといこうではないか」


サタンが顔を近づける。

サタンの口づけを手で静止して、ルナリアーナは真剣な眼差しで言う。


「後2年待ってくれませんか」


サタンは激怒しルナリアーナの首を掴み壁へ向かって投げる。


「この私を舐めているのか!今だ、今すぐでなくてはならない」


サタンは息を荒げて、震える右手を抑える。


「ルナリアーナ!」


俺は名前を呼ぶことしかできない。


ルナリアーナは頭から出血し、足を震わせながらなんとか立ち上がった。


俺が知っている彼女はか弱い女性のはずだ。なのに何故そんな目ができる……


サタンを見る目には獅子が宿っている。狩りをする獰猛で果敢な雌ライオンのように、睨みつけている。


「私はエルベス王国に攻めいった時、君に一目惚れしたんだ。だから君の願いを叶えてやったんだ!龍血の王子アルバを殺さず、1年も待った!今度は2年も待てというのか。許さん許さんぞそんなことは」


「タダでとは言いません」


「君は対価を払うだけの物を持っているのか?」


「私が悪魔となり、アルバ様と契約を結びます。その内容は……」


ルナリアーナは固唾を飲み込む。


「アルバ様とエルベス王国の民の命を2年後の婚約式の日に奪います」


「竜血がそんな内容の契約を結ぶとは思えんがな、どうするつもりだ」


「婚約の儀を契約の儀の代わりにします、私が悪魔になれば可能です」


「いいんだな?悪魔になれば一生太陽は拝めないぞ」


「私にとって太陽はアルバ様です。彼が生きている限り、私の心は曇りません」


「いいだろう、2年待ってやる」


「ただし、約束の日にアルバの命を奪うのはこの俺だ。「死なせてくれ」と懇願するまで痛めつけてから殺してやる」


魔王サタンは顎に手を当てて楽しそうに笑みを浮かべながら言う。


「そうだな、契約の儀から3日、魔王城で待とう。3日の間にディナーの準備をして、新鮮な竜血の肉と貴様の眼球を添えて食卓に並べようではないか」


ルナリアーナは笑顔で言う。


「食卓に並んでいるのはきっとあなた、魔王ですよ」


サタンはルナリアーナの首を締める。


「生意気な女だ、今言った事も全て気分次第だという事を忘れるなよ」


サタンはルナリアーナの腕を折る。


悲鳴がバーを包み込んだ。


「安心しろ、悪魔になれば一瞬で治る」


サタンはルナリアーナに紫色の果実を食べさせると、首元を掴んでいた手を離す。ルナリアーナは地面に倒れ伏し必死に息を吸おうともがいている。


「ルナリアーナ、君の夢はなんだ」


「ア、アンバ様から口づけを貰うことです、それさえ叶えばこの身がどうなろうと構いません」


「夢を持てるのも後2年だけだ、必死に足掻くんだな」


「2年後の満月の夜、アルバ様は必ず魔王サタンを倒してくれます。あの人ならきっと……」


ルナリアーナはそう言うと気絶してしまった。


魔王サタンは一言言い残しその場を去る。


「楽しみにしているぞ、竜血」


偶然だとは思うが俺は魔王と目が合う、魔王はニヤリと笑い時空のはざまに姿を消した。


俺は気絶しているルナリアーナに近づく。


「君が何故、俺を死地に送り込んできたのかようやくわかったよ。俺に力をつけて欲しかったんだろ。」


俺は羽織っている服をルナリアーナに被せる。


「ルナリアーナの覚悟、俺にくれた時間、全て無駄にはしない。俺が魔王サタンを倒し、ルナリアーナを奪還する。君の笑顔がもう一度みたい」


『これにて試練を終えます』


黄金のエルメよ、世話を焼いてしまったな。君が居なかったら俺はこの試練を乗り越えられなかった。


『私自身のために協力したまでです。もし魔王サタンを倒す事ができたら私をこの泉から出してはくれませんか』


お安いご用さ、なんなら戻ってすぐに封印を解いてあげようか?


『笑ってしまいすいません、貴方には時間がない。私の封印を解いている暇はないですよ?』


そうか、3日のうちに魔王城に辿り着かなくてはならない。早く現実に戻ろう、今は何時だ?もう朝か?


意識が朦朧とし、膝から崩れ落ちる。


眠い……最後の気力を振り絞。決意をあらわにする。


「必ず助けだし笑顔を取り戻す」


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