泉の試練
『私の名は黄金のエルメ、貴方は何を求めて黄金の泉に訪れたのですか?』
黄金の床からマグマのように黄金水が湧き上がり、ドレスを着た女性の形を形どっていく。
「さっさとこの黄金の壁に囲まれた空間から出せ」
「それはできません、現実世界に戻りたければ貴方に課せられる試練を乗り越えなさい。それではもう一度問います。貴方は何を求めて黄金の泉に訪れたのですか?」
「ここから出る事が叶わないなら、ルナリアーナが魔王サタンに拐われた理由を知りたい」
それにルナリアーナの事がもっと知りたいと心の中で思っている。
『いいでしょう、試練乗り越えれば貴方の願いを叶えましょう。ただし試練に失敗した場合、貴方の体は黄金に変わり私の体の一部となります』
「拒否権なんて無いんだから、早く試練を始めよう」
『次に試練の内容ですが、村落にいるモンスターの討伐です。具体的な内容は肌で感じ取って下さい』
『それでは今から貴方をルナリアーナの記憶の1ページに飛ばします。自分で見つけなさい、必ず求めるモノは記憶の中にあります』
表紙に「記憶」と書かれている本が俺の手に握られていることに気がつく。
『それが試練です、まず49ページを開きなさい』
俺は言われた通りに開くとページの中に体が吸い込まれていった。
俺はエルベス城に現れる。騎士の姿をしており集団の中に紛れている。
エルベス王が言う。
「バハムートを倒し歓喜しているところで悪いのだが、村落に魔物が現れた。討伐に誰か向かって欲しいのだが、立候補する人はいるか。報酬もたんまりとやろう」
誰も手を挙げない、それもそうだこれまで連戦続きで疲労が溜まっている。とても討伐に向かうメンタルではない。それにどうせ手を上げる人がいる。
ルナリアーナだ。真っ直ぐ手を伸ばし宣言する。
「アルバ様が行きたいと申しています」
恐ろしい女だ。
「私の耳には届かなかったがルナリアーナが言うなら真実だろう」
ルナリアーナを信用しすぎです王よ。
過去の俺は喉が潰れていて声が出せない。えずきながらも行きたくないことを目で王に伝えていた。
「アルバが苦しそうだが本当に大丈夫か?」
「問題ありません、ヘルメス様の最上位治癒魔法があればどのような傷でも全回復します」
俺はこの時、意識が朦朧としているせいで何を言っているのか聞き取れなかったが、予想以上に非道なことを言っている。
助けに行くのをやめてしまおうか。
「俺が知りたいのはルナリアーナの連れ攫われた理由だ、ルナリアーナの好感度を下げさせるような記憶を見せてくるな」
『関係しているから見せているんですけどね』
近衛騎士に変装して後ろを追おう。
『そうですね』
山脈を登っている途中である事に気づく。
ルナリアーナだけ馬に乗りながら山を登っているのが、後方から確認できた。
「俺は不思議に思っていたのだが、何故ルナリアーナだけ馬に乗って移動してるんだ」
『レディーファーストってやつですよ』
「戦えないのにわざわざ着いていく必要ないだろ、自分の身を大切にしろよ」
集落につき100人の騎士はモンスター討伐隊50人とルナリアーナ護衛隊50人に別れる事になった。
この時の事はよく覚えている。「何故護衛に人員を割かなければならないのか」と騎士団長に猛抗議をしていたな。
現に先頭で言い争いが起きている。
「私の護衛は1人で十分です、ご心配なく」
過去の俺が言う。
「誇り高き騎士達よ、俺に続け!」
そういうと風の速さで山を下って行った。
この時はルナリアーナの事が嫌いだったからな、ルナリアーナの安否など気にもしなかった。
『今は好きなんですか?』
「好きでも嫌いでもない」
『嫌いではなくなったのですね、どういう心の変化ですか』
「少し大人になっただけだ」
山を降りて集落に向かおうとした時、誰かに肩を叩かれた。
俺が後ろを振り向こうとすると黄金のエルメが咄嗟に止める。
{振り向かないで!ヘルムを降ろして顔を隠すのよ』
俺は言われた通りにヘルムを降ろして後ろを振り向く。
そこには馬に乗ったルナリアーナがいた。
俺は動揺したが冷静さを取り戻して問いかける。
「何用ですか、王女様」
「私の護衛をして貰えませんか」
「・・・わかりました」
『断りなさいよ!史実が変わったらどうするつもり?』
断ったら不敬罪で首が飛ぶ、従うしかないんだ。
「今から取り残された民達の救出に向かいます、着いてきなさい」
「村民の救出は俺に任せてください、ルナリアーナ様は護身を大事にして、今すぐエルベス王国まで引き返すべきです」
「アルバ様が奮起していらっしゃるのに、見ているだけなんて我慢なりません」
ルナリアーナは馬に鞭を打ち速度を上げる。
俺の足が棒きれになる前に村につかなくてはならない。
俺たちが集落に着くと、集落には2本の角を持つオークの死体が無数にあった。
どうやら討伐隊は先に集落を抜けてハイオークのいる方へと向かったようだ。
オークが2、3体集落の周りを徘徊している様子に目が止まった。
ルナリアーナが馬から降りようとするので、ルナリアーナの手を取り降りるのを補助する。
「逃げ遅れた民が居るはずです、助けに行きましょう」
「死ぬかもしれないんですよ、怖くないのですか?」
「騎士が守ってくれると信じています」
「わかりました、此処からは俺について来て下さい」
俺は取り残された人が居ないか辺りを見渡しながらオークへと近づいていく。
オークの背後を取り腰につけた剣を抜く。
一軒家と同じサイズのオークが家の窓を覗き込み、逃げ遅れた人間がいないか探しているようだ。
「炎刀・火花」
抜刀すると同時に刀身からは三原色の火花が飛び散る。
刀はオークの体を両断し、オークの肉片は色とりどりの花火に変わる。
「残党退治といきましょうか」
一体・二体と次々にオークを倒していく。
女の子を掴んでいるオークがいる、俺はそのオークの足を切り落とし女を抱えて助けだす。
女の子は震えた声で言う。
「家の中にお母さんがいるんです、助けて下さい」
「わかった、すぐに助ける」
俺とルナリアーナは家を覗くと逃げ遅れた村民達がお互いに肩を抱き合いながら小刻みに震えていた。
ルナリアーナは震えるおばあさんの手を取る。
「安全な場所まで案内します、さあ此方へ」
おばあさんに優しく話しかけるその姿はまるで天から舞い降りた天使のようだった。
二人で村民達を非難させ終えた。
「全員避難させましたし、エルベス王国まで帰りましょう」
「それはまだ出来ません」
「なぜ?」
「聞こえませんか、この地ならしが」
俺は地面に伝わる振動を感じ取る。
確かに100?いや200の足音が聞こえる。恐らく同胞を殺された報復に来ているのだろう。
足音の大きさからしてオークライダーだ。
このままだと10分もしない内に村落に到着する。
「オークライダーの大群をアルバ様の元へ向かわせる訳には行きません」
ルナリアーナは腰にかけていた小型のナイフを抜き両手で握りしめて言う。
「私も戦います」
俺はルナリアーナの勇ましく堂々とした姿を見てつい、ふっと笑ってしまう。
「わかりました、ルナリアーナ様一緒に戦いましょう。ですが貴方にオークの汚い体など指一本、触れさせませんけどね」
200体ものオークライダーが村全体に散らばれば殲滅するのに時間がかかる、俺たちがいる場所に敵を集めよう。
俺は常備しているローソクのように細長い惹きよせ香に火をつける。
「ルナリアーナ様、こちらをもっていて下さい」
ルナリアーナは笑みを浮かべ冗談を言う。
「私を囮にするつもりですか」
「手が塞がると戦えませんので、渡すしかないのです。」
「冗談ですよ堅物すぎですよ」
正体がバレないようにこの喋り方をしているだけで、いつもはもっとフランクさ。
黄金のエルメが俺に疑いの目を向けてくる。
『うーん、そうですかね』
暫くすると山から下ってきたオークライダー達は、香りを嗅いで俺たちがいる場所まで全速力で向かってくる。
惹きよせ香の効力は絶大だな。先頭集団さえ引きつけられれば後は勝手についてくる。
「もう香の火を消して大丈夫ですよ」
「わかりました」
ルナリアーナは腕を振り火を消す。
「背中は任せて前の敵に集中して下さいね」
「はい。背中は任せます」
心配だから後ろも気にしておこう。
鎧を身につけているオークは2つのツノを持つ牛に乗って、何件もの家の崩壊でできた木材の山を登り、重力を活かした上から下へほ強烈な一振りで襲いかかって来た。
俺は炎をまとった剣でオークライダーの一撃をパリィする。オークの腕を弾くと、無防備に赤色の肌をした首元を晒した。
俺はオークの首を掴み地面に叩きつけて、剣で喉を切り裂き殺す。
俺がオークを殺す様子を遠巻きに見ていたオークライダーの群れは激昂して隊列を崩し無闇やたらに襲いかかってくる。
怒りに任せたオーク程、戦いやすい相手はいない。
俺は迫り来るオークライダーを火花の散る刀で斬り倒しながら思考する。
いつも俺を戦に駆り立ててくるから忘れていたけど、昔から正義感が強くて優しい人だった。
『忘れるほどモンスター狩りはきついのですか?』
キツイなんてなんてもんじゃないさ、四肢は吹き飛ぶは腹はえぐられるはで、幾度となく死にかけてる。
酷い目に遭うような任務に駆り出してくるんだ、嫌いにもなるさ。
『ルナリアーナ様は昔から貴方に対して手厳しいお人だったんですか?』
昔は笑顔の可愛い天真爛漫な女の子だったよ。でもいつだろう、エルベス王国に魔族が攻めてきた時からか。異様に冷たくなったのを覚えている。
俺はルナリアーナの顔一杯に笑っている姿をまた見たいんだ。そんなルナリアーナが好きだったから。
『なるほど、それなら早くこの試練を終えて、サタンから奪還しなければなりませんね。サタンならルナリアーナ様から一生涯笑顔を奪うことも可能ですから』
黄金のエルメと思考を巡らせながら戦っていると、オークライダーが近づいてくるのに気がつかなった。
2本のツノを持つ牛に乗ったオークライダーが刀身の曲がった剣を振りかざす。
咄嗟に剣で受けようとした時、顔の横を短剣が風をきり通り過ぎ、オークの振りかざす剣が止まる。オークの心臓に短剣が突き刺さり体を硬直させたまま後ろに倒れていった。
「気を抜いてると死にますよ」
「助かっ…助かりました」
タメ口が出るところだった
「今のが最後の一体ですか?」
「どうやら未だいるみたいだ」
百を超えるオークライダーの死体がスライムのように動き出し一箇所に集まってくる。
一箇所に集まると地面に紫色の発光する魔法陣が発生した。
ドロドロに死体は溶けて新たな生命体を形どる。
「アンデットになってまで復讐しようとするなんて、凄まじい執念ですね」
骨だけで作られたその姿はまるで風神だ。
全長5メートルはあるな、これだけ大きかったら人が手のひらに収まる。
「風をまとう骨鬼だ」
全身の毛が逆立ち背中に冷汗が流れる。
俺は後ろを振り返り咄嗟に叫ぶ。
「逃げろ!」
下から金魚すくいをするかのように平手打ちされる。
俺とルナリアーナは天高く浮かんだ。そこに追い討ちをかけるように風を纏う骨鬼は両手で一つの拳をつくりルナリアーナに向かって振り下ろす。
俺はルナリアーナに覆い被さるようにして拳を背中で受けた。
地面に急降下していく。転がるようにして衝撃をやわらげた。
アルバはルナリアーナをお姫様抱っこして言う。
「ルナリアーナ様怪我はないですか」
ルナリアーナは慌てた様子で言う。
「私は平気です、貴方こそ痛むところはありませんか?」
「頑丈な体なので傷一つ負っていません」
伝わらないと思うがヘルム越しに笑ってみせる。
「ルナリアーナ様は離れていて下さい」
「私も……いえ、わかりました」
力になりたいと思ってくれたんだろう。その気持ちだけで十分俺の力になる。
風をまとう骨鬼は風に乗り凄まじい速さで接近してくる。
避けようとするが足が言う事を聞かずその場で膝をついてしまう。先程の着地で足を痛めていたようだ。
風をまとう骨鬼はアルバを掴み、村にある時計台に向かって投げつける。
俺の体は時計台に打ちつけられ、指一歩動かす事が出来ず落下した。身にまとっていた鎧が粉々に砕ける。体のありとあらゆる骨が折れ立つこともできない。
俺は手にはめていた指輪を見る。その指輪には輝きを失った赤黒い宝石が2つと光輝く赤い宝石一つはまっている。
「骨鬼を倒すにはレジェンダリーアイテムを使うしかない」
「イフリートよ、俺に力を貸してくれ」
輝いていた宝のが輝きを失い、俺の体は炎に包まれた。
淡い赤色の炎が傷を癒やしてくれる。
完全に治癒が終わると、起き上がり、自身の変化に驚いた。
神と一体化した俺の肌は褐色になり、炎は俺の鎧となった。
髪は炎のように逆立ちゆらゆら揺れる。背中には炎でできた輪っかが二つついている。
『顔を隠す物がありません。顔を見られてはいけません、彼女の身を案ずるのであれば正体を隠しなさい』
わかっている……
骨鬼は俺に殴りかかってくる。迫りくる拳に今までであれば潰されていたかもしれない。だが今は違う。レジェンダリーアイテム永炎の指輪によって強化された俺の体ならこの拳を両断できる。
俺が繰り出す4連撃によって骨鬼の骨でできた腕は切り落とされた。
アンデットは痛みを感じない。なくなった左腕など気にせず、迷う事なくアルバに攻撃を仕掛ける。
「炎刀、火花」
俺は迫りくる拳など気にせず胴体に渾身の一刀。
骨鬼は綺麗に半分に割れて動かなくなった。
骨鬼は口を開けて首を高速で回し四方八方に光線を放つ、家は爆発し瓦礫が飛び散る。
骨鬼はまるで充電が切れたかのようにぐったり首を落とし動かなくなる。
ルナリアーナが爆発音を聞きつけて駆けつけてきた。
「ご無事ですか」
「まだきちゃだめだ!」
こに骨鬼は自身をバスケットボールほどの大きさに圧縮すると自爆した。
俺はルナリアーナに覆い被さり自爆から守る。
自爆を受けきった俺の背中の皮膚は溶けて筋肉や骨が剥き出しになった。がしかし圧倒的な治癒能力ですぐに治る。
「ルナリアーナ、怪我はないか」
「は、はい。アルバ様が何故ここに……え?」
ここに居るはずのないアルバに驚き、口元を手で隠し顔を赤らめている。
「人違いだ」
「そうですよね、ここにアルバ様が居るはずがありません」
俺は指先でルナリアーナの髪を耳にかける。見た所怪我はないな。正体がバレてしまった以上、長居は禁物だ。ここから去ろう。
俺はルナリアーナを下ろすと、背を向けて歩き出した。
「それなら、騎士のお名前はなんというのですか?」
アルバは一瞬後ろを見る。ルナリアーナは恋しそうにアルバの背中を見つめていた。
アルバは答えずに歩む足を止めない。
人肌が恋しいそうに自分の肩を抱き寄せて言う。
「貴方の炎は毛皮の毛布のように優しく温かかった」




