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♰Mental Sick Girls!! ♰  作者: せせらせら
星の降る地獄で
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 ♰


 家を出て高校につくと、クラスには誰もいなかった。ガランとしたクラスに座り、ぼんやりと朝焼けが照らす街を見下ろす。聖スピカは丘にある学校だ。ちょっと他の建物よりも高く新しい女学校なので、女子生徒のあこがれの的にもなっている。窓ガラスも新しく、初心な少女の頬のような太陽の光を存分に教室に投げ込んでいた。


「......」


「わ、いっちばんのりー!」


 冷えた朝の神聖な空気を打ち破る煩わしい声が教室に響いた。

 一番乗りでもあるまい。私がいるのだから、二番目のはずなのに。


「あ、星宮じゃん、やっぴー」


 その女生徒は軽薄な声で馴れ馴れしく私に話しかけてきた。

 五十嵐天希。それが彼女の名前だ。マイペースで変わり者の彼女は今日も全身に傷をつけて登校してくる。クラスでも腫れもの扱いの彼女は、人の思うことなど二の次三の次で、自分が言いたいことを言い、やりたいことをやったらそのまますたすた去ってしまう。そのくせやることなすことが理解できない奇奇怪怪としたものばかりだから、入学してほどなく変人の称号をほしいままにしていた。


「あれ?聞こえてない感じ?やっほーってば、星宮。あれ、星宮って唖だっけ?黙んなよ」


 人を唖よわばりした。全くひどいものだ。笑顔でニコニコと近寄る彼女に、なんて答えるべきか分からず小声で返事をする。


「......おはよ」


「あ?うん、おはよ。星宮っていっつも早いよね。暇なの?うち、全然星宮より早く来れたことないんだけど」


「......家、近いから」


「あー徒歩圏だっけ?ん?あ、違うの?てことは自転車か電車?どっちにしても早すぎんでしょ」


 矢継ぎ早に質問を投げられて辟易する。どうせ五十嵐は暇をつぶすためだけに私に話しかけているのだろうが、それでもいい迷惑だ。


「つかマジで來沢うざーい、課題多すぎって感じじゃない?マジでうざい。こっちも暇じゃねえっつーのよ」


「あー......うん......」


 話が二転三転して終着点が見えない。登下校の話から部活の話、そして顧問ということになって担任の悪口をべらべらと頼まれてもないのにしゃべり始めた。鬱陶しいのは自分だといつ気が付くのだろう。


「忙しいで思い出したわ、そういや星宮ってバイトしてるっけ?」


「一応......」


「え、どこでバイトしてんの?うちいくからさぁ」


 頼んでねえっつーの。来るな。帰れ。 

 いっそのことそう言ってやろうかとも思った。だけど弱気で陰気な私にはできない。絶対に。


「鮮保のセブン......。地下鉄付近のあの」


「あーあそこか。行ったことねえなー。てか鮮保自体あんま近寄らないしなー。やっぱやめとこ」


 能天気だ。そして無性に腹立たしい。行くといった矢先に行かないと言う無礼さ。


「って、あー!くるみん!ええ、おっはー!え、でさぁ......」


 と、一人でイラついていたら五十嵐が、がやがやと登校してくる生徒が増えた廊下の中に友人を見つけたのか、話途中で私を置いてけぼりにしてそっちに走って行ってしまった。あんなやつでも友達ができるならなんで私はできないんだろう。いや、そもそもあれが友人と言えるのか?だって今、くるみんと呼ばれたあの子、嫌そうに顔をしかめてたのだから。




「......さよーならぁ......」


 終礼の合図が教室を埋める。がやがやと華の女子高校生たちが放課後に何をするかを話していた。

 私にはそんな相手はいない。そんな相手は必要ない。勿論あれば嬉しいけど、どうせ私のような人は誰にも望まれずに死ぬのが決まっているのだから、友達がいようといるまいと結局は大して変わらないのだ。

 私は黙ってリュックを背負い、さっさと帰ることにした。

 五十嵐がじっと見つめていることに気が付かないまま。


 帰り道も、一人だ。中学校の時も友人がいなかったから、同じ中学校だった人を見かけても話しかけてくる物好きはいない。精々目を合わせるか、それ以外はまず私のことを覚えてすらいないだろう。列車に吸い込まれて揺らされる。全てが受動態の私に積極性なんてものはない。流され、流され、流された先の岩にぶつかって大量出血するのが目に見えている。頑張って足掻いたところで、褒めてくれる人なんていないし、ましてや認めてくれる人なんていない。私を受け止めてくれるのはあの質素な冷たい部屋と冷え切ったベッドだけだ。


 『ねえママ見て、私ね今日ね、幼稚園でね......』


 『うるさい!その顔面で話しかけてくんな!』

 気持ち悪いんだよ!


 頬がじくじくと痛む。目は潤む。なのに、泣いているのは母の方だった。


 『私は......あんたを愛せないんだ......』

 本当に、ごめん......。


 申し訳なさそうに、でも触れるのも見るのも嫌だというように私から背を向ける母。

 後に知ったが、母は父に強姦されて私を生んだという。いわゆる、デキ婚。なのに、私は残酷なまでに父に似ていたために母は私を見る事さえできなかった。

 可哀想なのはどっちなのか。

 ごめん......ごめん......ごめん......愛せなくて、ごめん......。


 『次は、鮮保、鮮保―......』


「!」

 

列車のアナウンスが私を引き戻した。最寄りの駅名に反応して目を瞬く。ぞろぞろと降りていく乗客に紛れて私も逃げるように列車を下りた。


「......」

 ごめん。

 いいよ。わたしがわるいから。このかおでうまれてごめんね。

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