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成宮遥は甘やかし6

 夕飯を食べ終える頃には外はすっかり暗くなっており、時計は八時を指している。

 成宮の家庭環境は把握していないが、親に心配などされていないのだろうか?


 どちらにせよ、夜中に女一人を返すわけにはいかないから送っていくのだが。


 さすがに洗い物までやってもらうのは申し訳なく思い、慣れない手つきで洗い物を終ええると成宮は教科書とノートを開き自習している。


 成績を保つには、相応の努力が必要ということなのだろう。


「大変そうだな」

「え?」

「勉強とか、よ。俺だったらできない」

「勉強、嫌いじゃないから。後、成績を落としたら怒られる」

「誰に?」

「父と母。頑張らないといけない。頑張らないと、認めてくれない」


 ぽつり、と言う成宮の顔はどこか悲しげだ。

 両親との関係はわからないが厳格な親御さんなのだろう。


 成宮が学年一位の座を譲らないのは、誰にも見えないところで頑張ってるから。

 決して慢心しているわけではなさそうだ。そういう奴は、応援したくなる。


「あんま、無理すんなよ」

「うん」

「そろそろ帰れ、送ってくから」

「送らなくて大丈夫」

「いやいや、もう辺りも暗いし」

「問題ない。私の家はこの部屋の上」

「ああ、真上の部屋なら問題ないか。……って、真上!?」

「うん、一人で暮らしてる。言ってなかった?」


 初耳だぞ、しかも上の階の住人だなんて。しかも一人暮らし。

 二年になった今の今まで、成宮が同じアパートの住人だなんて知らなかった。


 活動時間帯は違うかもしれないが、一度くらい顔を合わせたって不思議ではないのに。


 なるほど、あのスーパーで買い物をしていたのもアパートから近いからか。

 予想外の事態に頭を抱える俺に対し、成宮は変わらずマイペースな様子だ。


「よろしく、真下の住人さん」

「どうも、真上の住人さん」


 最初から知っていたかのように鼻を鳴らす成宮に、顔の引きつりが止まらなかった。



 翌朝、サボり常習犯の俺は登校時間など気にせず寝ていたのだが、今日は怒涛のチャイム連打で起こされた。誰だよ、と扉を開けたのが最後。手際よく、部屋に成宮が侵入してくる。


「おはよう」


 寝ぼけながらではあるが、俺の部屋に制服姿の成宮が立っているのはよくわかった。


「朝ごはん、作ってきた」

「どうも」

「食べたら準備して、一緒に登校する」

「まじすか」

「まじです」


 そう言って成宮は、ボケっと突っ立っている俺の手を引き洗面所に連れて行くと濡れたタオルでご丁寧に顔を拭いてくれた。


「次は歯磨き。口開けて」


 成宮遥という少女は、よほど甘やかしたいらしい。朝に弱く反抗できない俺にやりたい放題でお世話してくる。しゃかしゃかと歯ブラシで口内をキレイにされていた。


 一昨日知り合ったばかりなのに、すでに成宮にダメ人間されていた。


「ぐちゅぐちゅしてー」


 渡されたコップに入った水を含み、吐き出す。

 そこまでされて、ようやく目が覚めた。


「って、なにしてんじゃい!」

「和也を甘やかしてる」

「なんでだ! もう甘やかさなくていいって、言っただろ」

「聞いてない」

「言った」

「聞いてない」

「……お前、な」


 どうにも引き下がってくれない成宮、そこまで執着する意味がわからない。


「なんでここまでする。まさか、俺のこと好きなのか?」

「好き? 恋愛感情での意味なら否定する」

「違うんかい。じゃあ、どうして」

「助けてくれたから」

「だから、それはもう……」

「よくない。だって、本当に怖かったから。和也が助けてくれなかったら、私……」


 今にも泣きそうなほどに瞳を潤ませる成宮に、耐性のない俺は急いで取り繕う。

 どうにも昔から女に弱い自分がいる。


「わかったから。でも、ほどほどにしてくれよ?」

「うん。じゃあ、サンドイッチ食べさせてあげる」

「ねえ、人の話聞いてる?」


 都合のいい聴覚をお持ちの成宮さんは、用意してきたサンドイッチを取り出すとリビングに手招きしてくる。俺は犬かよ。ため息を吐き向かうと「あーん」とサンドイッチを口元に運ばれた。


「食べて」

「はいはい」


 食いつくと成宮は「えへへ」と笑った。いちいち可愛いの反則だぞ。もう、硬派な不良を目指していたのがどうでもよくなるくらい、成宮が俺の性癖を改ざんしてくる。


 サンドイッチを食べ終えると、成宮は制服まで着させようとするので慌てて制した。

 まさか、こんな時間から学校に行くことになるなんて思いもしない。


 着替えを済ませて玄関に向かうと成宮はすでに準備万端と言った様子で待っていた。


「ほら、出来たぞ」

「偉い。偉い子にはよしよしする」


 よしよし? と思った頃には反応が遅れた。成宮は俺を胸元に抱き寄せると頭を撫でてきたのだ。

 頭部前方から伝わる、柔らかな胸部の感触。


 こいつ、無自覚におっぱいで俺を堕とそうとしてないか?

 策略なのか、天然なのか。成宮が恐ろしく思えた。


「よしよし」

「もういいから! 俺は子供じゃねえ!」

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