成宮遥は甘やかし5
誘いに乗っかり、俺は成宮と共に自宅アパートに帰っていた。一人暮らしの散らかり放題の家、ゴミが散乱していないだけましだが、決して女の子を招き入れるような部屋ではない。
「汚い」
「悪かったな」
「キッチンはキレイ」
「使ってねえからな」
部屋の隅に脱いだ服や読みかけの雑誌を押し込んだ。
手洗いを済ませると成宮は既に準備が出来ているようで、キッチンの扉を開け示して調味用や用具を確認していた。
「ちゃんと揃ってる」
「ああ、たまに親が送ってくる。使わねえのに」
「そう。でも、ありがたい。早速、調理開始」
腰に両手を当てる成宮はどこか得意げだ。
昼間の屋上の時もそうだが、大人っぽい見た目によらず意外に小動物らしい。クールな奴だと思っていたが、案外そうでもないのか?
夕飯のメニューは俺が好きなもの、つまりはオムライスを作ってくれるらしい。
子供っぽいと成宮に笑われたが、好きなものは好きなのだ。
「手伝う」
「そう? 座っていてもいいよ?」
「お言葉に甘えたいところだが、落ち着かないからな。なにすればいい?」
「じゃあ、玉ねぎを刻んで」
まな板の上に置かれた玉ねぎを成宮は指さす。
さて、手伝うとは言ったものの包丁なんて小学生の調理実習依頼持っていない。どうしたものか、と包丁を握ったまま突っ立っていると成宮が異変に気付いたらしい。
「切り方、わからない?」
「恥ずかしながら」
「ダメヤンキー」
「ば、馬鹿にすんな」
「してない、してない。いいよ、手伝う」
成宮は俺の背に胸を当てるように手を回すと、一緒に包丁を持って切り始めた。
母親が子供に対しやるような行為だが、俺も成宮も高校生。しかも、成宮の胸が玉ねぎを切る度に押し付けられる。
とてもじゃないが、集中できない。
むにっ、むにっと弾力のある柔らかい胸の感触が俺の理性を刺激する。
「意外に、でかい……」
「でかい?」
「い、いや、なんでも」
「そう? 和也、危ないから集中して」
無理がある、こんな凶器を背中に押し付けられてまともな顔が出来る男がいるなら連れて来てほしい。耐えろ、無になれ。……無理だ。
硬派なヤンキーを目指していた俺はどこへ行ったのか?
すっかり、おっぱいという名の柔いものに心を奪われていたせいか、気づけば切り終えていた玉ねぎをフライパンで炒めている。
成宮を見ると手際よく他の具材を切りそろえると炊きあがったお米をボウルに移していた。
「次はどうすればいい?」
「あとは私がやる。和也はテーブル拭いて」
「はいよ」
やり取りだけ聞けば夫婦だが、俺と成宮がまともに会話したのは昨日が初めて。翌日に家で夕飯を作ってくれるなんて誰が思っただろうか?
テーブルを拭き終え、冷蔵庫から飲み物を取り出すとタイミングよく皿に乗った二つのオムライスをもって成宮がやって来た。
「お待たせ」
「さんきゅな。お、めっちゃ美味そう」
「腕によりをかけた」
自慢げに胸を張る成宮は、撫でたくなるくらい可愛いがすんでのところで我慢する。
許可もなく女子に触れてはいけないとじいちゃんも言っていた。
「食べて、いいのか?」
「勿論、和也のために作った。食べさせてほしい?」
「そ、それはいい。いただきます」
気づけばすっかり成宮のペース、思わずうんと言いそうになった。
忘れるな、俺はヤンキー。オムライスだって、硬派に食べ……、んまぁい。
口内に広がるケチャップと卵の甘味。
チキンライスにはコーンとにんじん、玉ねぎが入っており、度9個か懐かしさを感じるような味付けにスプーンが止まらない。
下手すれば母親より美味いのではなかろうか?
あっという間に完食してしまう。
「美味かった!」
「わんぱく。でも、嬉しい」
学校では見たことのない、楽しそうな成宮。ずっと笑ってればいいのに。
「そんな風に、笑うんだな。学校でもそうすればいいのに」
「それは、は、恥ずかしい」
「恥ずかしい?」
「うん。人前で笑ったり、するの、苦手」
成宮は困った顔で微笑む。
もしかして、こいつ。
「もしかして、学校でクールに振る舞ってるのって、そういうのが苦手だからか?」
「そう。あれ? 皆気づいてない?」
「絶対、気づいてない」
まさか、冷姫の秘密がこんな形で明らかになるなんて。
クールな性格だと思っていたが、ただの恥ずかしがり屋だったとは、な。
「ん? じゃあ、どうして俺の前では笑ってるんだ?」
「わからない。不思議と和也の前では素直になれる」
成宮は微笑み、恥ずかしげもなく言う。
まったく、慣れるまで調子を狂わされそうだ。




