成宮遥は甘やかし4
放課後、夕飯を作りに来たいだと? なんでそうなる、意味がわからない。
そもそも家に招待するような間ではないし、知り合って数日も経っていないのだ。
しかも、相手は女の子。一人暮らしの家に顔見知り程度の女子を家に上げるつもりはない。
答えは一つのみ。
「お断りだ」
連絡先を交換しただけありがたいと思ってほしい。
それに俺が言うのもなんだが、物事には順序ってものがある。家に来るのはもう少し親密になってからだろ。親密になる気もないが。
「断られた」
「当たり前だ。理由がない」
「理由があればいいの?」
「あれば、な。絶対にないが」
こいつが家に来る理由など逆立ちしたってあるわけがない。
首をかしげ考えを巡らせているようだが、頭のいい成宮でも妙案は思い浮かばないようで、むすっと頬を膨らませた。
「行きたい」
「そんな顔しても無駄だ」
「むぅ」
普段クールな成宮の表情豊かな顔は可愛らしいが、それで頷くほど俺は簡単じゃない。
可愛いからって男が誰でも首を縦に振ると思うな。
あきらめていない様子の成宮は、むすっとした顔のまま俺を上目遣いで見上げている。
うるむ瞳、ふくれた頬ととがらせた唇。なんでこいつ、こんなに可愛いんだ。
生まれ持った美少女の魅力を存分に生かしてきやがる。
しかし、成宮も効き目がないと思ったらしく一つ息を吐いた。
「和也」
「なんで急に名前呼び」
「和也の、お家、行きたい」
「ダメだ。ってか成宮はどうして俺に執着してるんだ。絡まれてるのを助けただけだろ?」
「お礼だから」
「お礼なら弁当食った」
「まだ足りない」
「いや、足りてるから」
「そんなことない」
さすがに奉仕の精神が高すぎやしないか? ありがとう、だけでいいだろ。成宮と言えば、真面目な顔して俺を見るばかりで何も言ってはこない。
お礼なら、弁当だって作ってきてくれたわけだし、これ以上はオーバーだろ。
「とにかく、家に来るのはなし。あと、一応俺は不良なわけだし、余計な噂とか立てられたくなかったらこれ以上絡まない方がいい。俺はただ成宮をナンパから助けただけ。関係は終わり。……弁当、美味かった」
成宮を残し、屋上を後にする。もう会うことはない、やはり、俺と成宮ではすむ世界が違うのだ。成績優秀な成宮が、不良の俺と絡んで得することなどない。
振り返ることはない。だから、成宮がどんな顔をしていたのか知るよしもない。
放課後、夕方の半額弁当を買いに近所のスーパーに足を運ぶ。男の一人暮らしで自炊してる奴なんていない。調理して片づけして洗い物、一人分の飯を創るのはコスパが悪い。
一直線に総菜コーナーに向かおうとするが、その途中で予想もしない人物と顔を合わせた。
「成宮……」
「あ、和也」
ついて来た? いや、まさか。スーパーに来るまで誰にもつけられてはいなかったはず。しっかし、こいつは本当にマイペースだな。
成宮のカートを見ると、肉やら野菜やら、結構な量が入っている。
買い出し、か。まあ、近隣のスーパーなんて限られてるし偶然会うのもおかしくない。
特に話すこともないので総菜コーナーに向かおうとすると、制服の裾を掴まれた。
「なんだ?」
「夕飯、何食べるの?」
「スーパーの弁当だが」
「そう」
早くしないと半額弁当が売り切れるというのに、成宮は中々離してくれない。
それどころか、くい、くいと強く引っ張ってくる。
「栄養バランスが考えられてない」
「は?」
「栄養バランス、考えて食べてる?」
「食べてねえ、けど」
「やっぱり」
どうやら俺の食事状況を察したようで、成宮はくい、と口角を上げる。
「手作り、してあげる」
「いや、いいから」
「良くない。和也が栄養失調で死んじゃう」
「死なねえわ。……まあ、たまにスーパーの弁当物足りないけど」
「うんうん。作ってほしいの裏返し、だね」
「だから……」
「私のご飯、食べたくない?」
聞かれて、すぐに否定できない。
昼に食った弁当は美味かったし、もう一度食べられるなら願ったり叶ったりである。
俺の思考を読んだのか、成宮は天使のように微笑んだ。
「好きなの、作ってあげる」
そんなこと言われて、首を縦に振らない男子はいないと思った




