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第ニ十八話 オルニスと死神とテオス

 天から降って来た死神こと鈴音は、顔を見合わせて寂しげに笑い合うオルニス達を見る。


 道の反対側に彼らを見つけた時、服装といい装備といいどう見ても軍隊なので、戦闘のプロなのだろうと思い大人しくしていた。

 彼らがドローンを片付けてから、話を聞きに行けば良いと考えたのだ。

 しかし、どういうわけか一向に片付かない。

 何だか鈍臭いな、実際の軍隊とはこういうものなのだろうか、それとも新人の実戦訓練でも兼ねているのだろうか、そんな風に眺めていたら、ロボットが現れた。

 部隊に絶望の声が上がり、玉砕覚悟とも取れる命令も下った。

 そこで漸く鈴音も気付いた。『これ放っといたらアカンやつや』と。

 彼らの元へ行くには真っ直ぐ走るのが一番早いが、うっかり転んで建物に突っ込んだりすると不味いので、目標地点へ確実に降りられるようジャンプを選択した。


 そうしてロボット達を片付けたわけだが、助けた部隊の様子がどこかおかしい。

「どっかで見たような顔してこっち見とるなぁ」

 呟く鈴音には、自身を見る隊員達の目と、全開にした魂の光を見た時の鬼と綱木の目が重なって見えた。

 畏怖やら畏敬やらの念が宿った目、それはつまり、人以外の何かだと思われているとみてほぼ間違い無い。

 平常時の鈴音なら慌てて否定する所だが、激怒モード中は猫に関する事以外は殆どどうでもよくなるので、特に対処はしなかった。


 そうこうしている内に、この場に来ていた全てのドローンを落とした虎吉が、ぷりぷり怒りながら鈴音の胸に飛び込んで来る。

「俺は小さない言うてんのにホンマどいつもこいつも」

「だからゴメンってば。で、どうなのこれ。お土産にはならないの?」

 口を尖らせつつ謝った虹男が、地面に転がるドローンを指差し首を傾げた。

「鈴音、あれは神界でも動くんか?」

 虎吉の問い掛けに、鈴音は首を振る。

「無理やと思う。多分やけど、あのタワーに居る親玉と繋がりがある思うから」

「聞いた通りや、別のもん探すしかないな」

「えー、面倒臭いなあもう」

 ぶつくさと文句を垂れる虹男は放置して、鈴音はオルニス達へ近付いた。


「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが」

 声を掛けられたオルニス以下隊員達は、見事に全員が全員顔を強張らせ直立不動となる。

「うわぁ、またどっかで見たでコレ。マユリ様お元気やろか」

 一瞬遠い目をしてから、鈴音は腕の中の虎吉を皆に見せる。

「この非常に可愛い動物、もしくは、この大変可愛い動物に似た動物、を見た事はありますか?」

 聞かれた全員が二度三度と瞬きをし、質問の意図を読み解こうとするような顔をしてから、首を振った。

「見た事は無い、いう事で宜しいですか?」

 確認する鈴音に、冷や汗を掻きながら皆頷く。

「そっか、猫はおらんみたいやね虎ちゃん」

「ホンマやな。やっぱり鳥好きの神さんの世界やからか?その鳥も一羽も見掛けへんけど」

「ああ、言われてみたらそうやね。あの、鳥やら他の動物はどないなってます?ロボットに追われたりしてませんか?」

 再度考え込んでから、オルニスが緊張しつつ口を開いた。

「動物保護区が襲撃されたという情報は入っておりません」

「動物保護区いう所にみんなるんですか。こういう街中で、ペットとして飼うとかは無いんですか?」

 鈴音の質問に、オルニスは正解を探すように視線を彷徨わせる。

「ペットを飼えるような富裕層は、保護区のそばに居住しておりますので、このような場所に動物は居ないと思われます」

「へぇー、それやったら取り敢えず大丈夫かな?良かった良かった」

 虎吉と顔を見合わせて微笑む鈴音の様子に、オルニスも隊員も安堵の息を吐く。


「あ、そうや!」

 ホッとしたのも一瞬、何か思い出したらしい鈴音の声に、皆はまた硬直した。

「この世界を作った神様を信仰する宗教ってあります?」

 その問いに全員が『死神じゃなくて、もしかしてそっち!?』という顔をしたが、鈴音は気付かない。

「ご、ございます。教会もございますので、ご案内いたしましま、しましょうか」

「いえ、お気遣い無く。その宗教の最高指導者?神官?巫女?みたいな方は今……?」

 激怒モードの鈴音は『噛み噛みですやん』のツッコミもしない。さらりと流されたオルニスは咳払いでひと呼吸置いた。

「前法王の逝去に伴い、次期法王の選出中です。今しばらくお待ち下さい」

 何を待つんだろう、と鈴音は思ったが、口には出さなかった。

「やっぱり、神様に近い立場の人が今ちょうど不在なんやね。ほんなら、あのタワーに突っ込んだんはなんで?私みたいなんがったん?」

 半眼で睨まれて、虹男はブンブンと手を振る。

「僕だけど僕じゃないから、わかんないよ!?」

「んー、そらそうか。すみません、もうひとつ教えて下さい。あのタワー、神様と間違われそうな何かが居るんですか?」

 その質問で皆は一気に青褪め、オルニスの頬には汗が伝い、手が小刻みに震え始めた。

「か、神、いやその、万能というか、なくてはならない存在というか」

「えーと、大丈夫ですか?顔色が……」

「っひ!も、申し訳御座いません!!テオスというスーパーコンピューターが、神の如き信頼を集めております!!そのテオスがあのタワーにおります、いや、あります!!」

 両膝を付いて胸の前で手を組み、頭を垂れるオルニスの慌て振りには驚くが、その答えには納得した。

「神様ばりに崇められとる機械が、あのタワーにあるねんて」

 そう告げる鈴音に虹男は首を傾げる。

「神っていうよりモンスターっぽかったけどなあ」

「そうや、一回見てんねんな虹男は」

「うん。なんか強そうだったよ?」

 強そうなスーパーコンピューターとは、と悩みかけたが、見れば判るのでとにかく行ってみる事にした。


「ちなみに、そのテオスがおかしなったから、街中がこんな事になったんですか?」

 神以外を神のように扱っていた事を咎めるでもない鈴音に、恐る恐る顔を上げたオルニスは頷く。

「はい。テオスに隕石らしき物が落ちたのです。復旧しようとエンジニア達が色々と試みているようですが、全て拒絶されているとか。そもそも、隕石らしき物が落ちて以降、テオスがあるフロアに近付く事さえ出来ないと聞きます」

「電源落としたらええとかいう、単純な話でも無く?」

「決行済みです。バックアップ用のバッテリーで動ける時間はとうに過ぎている筈なのですが……」

 そこは虹男の神力が作用しているのだろう、と鈴音は推測する。

 その時、オルニス達が装備している端末から、けたたましい警告音が鳴り響いた。

 皆一斉に確認し、愕然としている。

「なんてこった、殲滅用ロボットが起動した」

 きょとんとしている鈴音達に、オルニスが説明する。

「先程のロボットは制圧用で、まだマシな方というか、いや我々では勝てないのですが、あれで大人しい方なのです。それとは別に、一回り大きい殲滅用のロボットもありまして、こちらは政府発行の認証コードが確認出来る人と物以外の全てを破壊します。それが起動しました」

「へぇー、制圧と殲滅。さっき円柱みたいなロボットに襲われたんですが、あれは何ですか?」

「ももも申し訳御座いません……それは警備用ロボットです。規定の範囲を巡回して不審な者に対応します」

 言ってしまってから、鈴音達を不審者呼ばわりした事に気付きオルニスの顔色が青を通り越して白になる。

「お巡りさんロボや。ほなホンマはあんな凶暴ちゃうんや、きっと。虎ちゃん撃ったんも……」

 その場面を思い出し鈴音の目が一瞬怒りに染まるが、腕に抱く虎吉の温もりで直ぐに冷静さを取り戻した。

 それでも、気の毒なオルニスと部下達は恐怖のあまり、魂が肉体からサヨウナラする一歩手前まで行ってしまったが。

「全部、テオスとかいう奴が悪い。見た事無い動物やからて不審者扱いして即排除とか、絶ッッッ対許さん。よし、行こう」

 恐ろしい目でタワーを睨みつけてから、はたとオルニス達を見る。


「そうや、あなた方が隠れられる場所てありますか?」

 口から魂が抜け掛けていたオルニスは、我に返って首を振った。

「殲滅用ロボットを、少しでもこの避難所から遠ざけなければ。先程の制圧用ロボットの状態を見れば、殲滅用がこの避難所の認証コードをまともに読み取れるとも思えませんので。……いや待てよ、こちらに引き付けようにも現状の我々では認識されない……?」

 顔色はともかくとして、瞬時に引き締まった表情となったオルニスに、軍人とはこういうものか、と鈴音は感心する。

「そうや、あなたの声やったわ、さっき自分らは国民の盾やて言うてたん。ホンマに心から凄い覚悟や思うけど、もうええんちゃいます?」

「……え」

「さっきかて、よう頑張りましたやん。これ以上はその武器じゃ無理やわ。ね、どっか隠れといて下さい。タワー行くついでに、その殲滅用とかいう物騒なんも、全部消しとくんで」

 ポカンとしてしまったオルニス達の様子に、首を傾げた鈴音は何か不味かったかと考える。

「あ、そうか。消したらアカンのか!制圧とか殲滅とか、ロボットはこの国の大事な戦力や。全部消したら他の国から襲われてまうかもしらん。ほな、直せるか知らんけど、壊す程度にしときますね」

 指でツンと突付く仕草をする鈴音に、オルニスはただ黙って頷いた。

「で、どこに隠れます?この避難所ですか?」

「いえ、あの、既に死んでいる我々に、隠れる必要があるのでしょうか」

 今度は鈴音がポカンとする。そのまま虎吉を見、虹男を見て、瞬きを繰り返した。

「この人ら死んどったん?私、幽霊と喋ってんの?」

「んなわけあるかい!」

「生きてるよ?肉体の中に魂がある状態を、生きてる、って言わないんだったら違うけどさ」

 鈴音と虹男の会話に、オルニス達の目が点になる。

「生きて……いる?え?で、ではあなた方は?神様では?あれ?」

「神様だよ?」

「私はちゃいます。虎ちゃんはほぼ神様」

 胸を張る虹男と、虎吉がそうだと抱え直しながら示す鈴音。


 明らかに混乱し始めたオルニス達を見て、構っていたら時間が掛かると踏んだ鈴音は声を張り上げた。

「はい!!そういうわけなんで!!大人しく指示に従って、隠れて下さい!!早よせんとロボット来ますよ、ホンマに死んでまいますよー!!」

 その声で我に返ったオルニス達は、大慌てで背後の建物の扉を開け、武器の類を運び入れる。それを見て鈴音は大きく頷いた。

「よっしゃ、行こか」

 周囲にドローンもロボットも居ない事を確認してから、タワーを見やる。

「ああああの!!神様と、神様ではなくとも神様のようなお方!!ありがとうございました!!」

 部下達を避難所へ入れてから、振り向いたオルニスは全力で最敬礼する。

 それを見て微笑んだ鈴音は、軽く頷いてからタワーへと駆け出した。


「……消えた」

 別に鈴音も虹男も瞬間移動したわけではないのだが、オルニスにはそう見えた。

 自身もまた避難所へ入り、しっかりと扉を閉めてから改めて部下達と顔を見合わせる。

「あの方々はテオスの所へ向かわれたよ。……ふふ、情けない事に、震えが止まらん」

 笑いながら手を見せるオルニスに、部下達も同様の仕草をして笑った。

「小隊長は凄いっすよ」

「そうですよ、会話してましたよ」

「俺ぁてっきり死神だと思って」

「俺も俺も!質問の答え間違えたら地獄に落とされるんだとばかり」

「そうそうそう!!」

「でもあの男と獣の方が神で、お嬢ちゃんは部下か何かなんだな」

「お嬢ちゃんとかオマエ、失礼だぞ殺されるぞ」

「一瞬キレかけてた時なかった?俺あん時もう死んでるのに、もっかい死ぬんだって思った」

「わかるぞー。あ、でも、よく頑張ったって褒めてくれたな」

「それ!武器が弱いから無理だって、すげー解ってくれてんじゃん」

「いい人だよなー、あ、人じゃなくて神か、違ぇわ神でもねえわ、何なんだろう?」


 大騒ぎの隊員達に、オルニスはやれやれと息を吐く。

 武器のせいにしてくれたのは、彼女の気遣いだろうと察していた。自分達の練度が低い事は誰よりも理解している。

 しかしあの場面でそれを指摘するのは、本気で他人の為に命を捨てる覚悟をした者に対し、あんまりだと思う。

 彼女もそう思ったから、ああいう言い方をしてくれたのだろう。

 そう、彼らは弱くない。

 追い詰められてなお、一人として逃げ出さなかった彼らは、まともな訓練をし適切な武器さえ与えれば、最強の部隊になることは間違い無いのだ。

 命を救われておきながら、まだそんな事を言うのかと叱られるだろうか。

 けれどその時は、これが軍人というものなのです、と許しを乞うしかないだろう。


 この悪夢のような事態が終わったら、命を懸けて政府と交渉し訓練費をもぎ取ってみせる。

 いやその前にまず街の復興だ。

 なるべく被害が少なければいいが、テオスは失う事になるのだろうなと、タワーがある方角の天井を見上げる。

 コンピューターによるサポートの無い生活が、一体どれ程不便かなど想像もつかないが、ロボットに銃口を向けられたり、怒りを顕にする神のような存在と向き合うよりは、遥かに遥かにマシだろうと思い、オルニスは小さく笑った。

お読み下さってありがとうございます!

今年最後の投稿です。


年内に鈴音を就職させる筈が、まさかのまだ無職!!

まあお話の中ではまだ4月だし人界時間で3日しか経ってないし……。

え、リアル4月が来そう?そんな馬鹿な、ははは。はははは……。


来年も自己満足なお話を好き勝手に書きますが、

もしよろしければ、引き続き読んで頂けると嬉しいです。


それでは皆様、お身体にお気を付けて!

良いお歳をー!

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