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番外編:元冒険者アリスと獣の国の姫 その③

おはようございます!


なんとか昨日中にあげる事が出来ましたので、更新再開となります。

どうぞよろしくお願いいたします。



あぁ、でもまた台風が来ている……。

「……いつから、主を鞍替えされたのですか? アリスさん」


 部屋に入って来るなり何とも言えない顔をしたアスタルスは、まるで意地悪でもする子供の様に肩をすくめて悪戯っぽく言う。

 

「たまたま依頼を受けましたので。私の雇い主はいつまでもさくらただ一人です」

「ふふ、言い切りましたね。でも安心しましたよ」

 

 相変わらず歳の割には妖艶でどこかこの世のものとは思えない色香を放つ少年は、その端正な顔に笑顔を貼り付けると颯爽と部屋を歩き豪華な椅子へと腰を落ち着かせる。

 私はその様子を見て、流石はこの国をこの年齢で背負う覚悟を決めただけの事はあるな、と感心する。

 恐らくふたりの客人が緊張している事を知っていたのだろう。馴染みの私の顔を見て軽口を交わすことで「気さくな王」というイメージを相手に埋め込もうとしているように感じる。

 その効果か、先程まで緊張に強張っていたベリラダとロレッタの顔は幾分か解れたものになっている。

 その手腕はまるで最初から私が居ることが台本に書かれていたかのように、芝居じみていながら極めて自然で違和感の欠片もない。


「お待たせしてしまって申し訳ありません、姫君。私は第36代シュバリオン王国・国王アスタルス=アーク=シュバリオン。この度は我が国へ友好の使徒としてお越しいただき大変うれしく思います」

「初めまして陛下、(わたくし)はベリラダ=リー=ファルスオークと申します。以後、是非名前と顔を覚えて頂ければと思います」

「えぇ、よろしくお願いします。……それで、そちらの少女は?」

「ロレッタと申します! ベリラダ姫付きのメイドをしております! お傍を離れない事も任務のひとつでありますのでどうかご容赦ください!」

「……なるほど。ではロレッタさんもよろしくお願いしますね」


 こうしてお互いに挨拶を交わし、ほどなくして《国家間友好条約》に関する話し合いが始まった。

 第三者である私が居ても良いものかと思ったけれど、雇い主がそう決めたのであればこれ以上は気にしないでただ警護に集中しよう。

 

『……アリス』

「うん。感じた。魔法だね? これは……なんだろう、こちらの様子を窺っている?」

『あぁ。それもかなりの手練れだ。結界の張られたこの会議室の内部を魔力で探っている。限られた細い細いなんとか結界を通り抜けられる程度の魔力で、よくもまぁ見事にこちらを探り当てるものだ』

「だけどやっぱり荒いね」

『その通りだ。逆に魔力探知の端を掴んでこちらから魔力を流しこんでやれ』

「こうかな?」


 壁に寄り掛かった私の背中を撫でる様にして漂っていた魔力が一瞬雷にしびれたかのように震えあがり掻き消える。

 何となくディスペンザーの言うがままにやったけど、これは下手すると相手死ぬんじゃないだろうか?

 いうなれば全神経を集中させて魔力を操作していた耳元で、いきなり大声を出して驚かせるようなものだ。いや、寧ろそれよりもダメージは遥かに大きいだろう。何せ、魔力で情報を得ようとする行為は頭の中に直接音が反響するのと同じなのだから。

 誰だかわからないけれど、きっと今頃のた打ち回っているか昏倒している事だろう。ごめんなさい。


「しかしそれでは我が国に利益が殆どないのではないですか?」

「その通りです……(わたくし)自身、このような条件で友好国として支援していただけるとは到底思えません」

「えぇ。今更『獣人族を戦力として』扱うなんて、それこそ戦争の火種を撒くようなものです」

「……言葉もありません」


 話し合いはほとんど進んでいない。どうやらベリラダ達獣人の国(ファルスオーク)は、技術支援の見返りに自分達を戦力として差し出すつもりらしい。

 だけどそれはもう「古い」のだ。今や各国は十分な領土とダンジョンという資源のお陰で戦争をする必要性がない。十分ではないが足りなくもない。

 野心、という意味で見れば国家統一などと想像する王もいるかもしれないけれど、それはもう不可能に近い。

 その理由の一つとして《冒険者ギルド》の存在がある。

 かのギルドにはそれこそ騎士団を相手にひとりで互角に戦えるレベルの《調査官》と呼ばれる冒険者が所属している。

 どこかの国で民族間の戦争が起これば鎮圧し、ダンジョンからモンスターが溢れれば制圧する。

 更にこの大陸にはダンジョンから持ち出された数々の武器や防具がある。

 確かに獣人は強靭だけど、この大陸ではその強靭さは装備で補える。わざわざ戦争の為に《獣人族》と手を組む必要性がないのだ。

 それでも戦争が起きないのは、各国が交わした魔法契約と戦争という過去の恐怖、そして冒険者ギルドというストッパーの存在のお陰だと言える。


「しかし、我々の国は貧しく作物もまともに育ちません。それどころか、戦争によって得てきた外貨も先の内戦で焼失し、今や風前の灯火なのです。差し出せるものと言えば……加工技術の失われた魔法鉱石しか……」


 いや、あるじゃないか差し出せるものが。

 彼女達は思い違いをしている。この大陸にはダンジョンが存在するから、私達が様々な恵みを享受していると思っているんだ。

 けれど実際は魔法鉱石の数も種類も豊富ではなく、ドワフ国の鍛冶師は日夜頭を悩ませ試行錯誤を繰り返している。

 彼女達の持つ技術にしてもそうだ。今でこそ失われてしまったようだけど、()()()()()()()なんてこの大陸では誰も持っていない。

 それを多くはないとはいえ所持し、場合によっては研究対象として差し出すつもりがあると聞かされている。

 《魔法鉱石》とその技術、どちらも十分に価値のあるものだけど、先の思い違いのせいでその価値を正しく見ることができていないんだ。


「アスタルス様、よろしいですか?」

「アリスさん? 何か意見が?」

「はい。国家間の事にたかが冒険者が意見しても良い事かと思いましたが……」

「構いません、選択肢は多い方がいいですから」

「では……。魔法鉱石と獣人族の高速船、そのどちらもドワフ族に提供してはどうでしょう?」

「凄いですね、まったく同じ意見だ」

「更に――」

「うん、ドワフ国と協定を結びその技術をこちらにも提供してもらう事を条件に獣人族……いえ、ファルスオーク国との橋渡しを申し出る訳ですね」

「その通りです。ファルスオークはドワフ国に魔法鉱石と高速船の技術を差し出す代わりに、シュバリオンから様々な技術、生活物資を提供してもらえる。シュバリオンにはドワフ国からの技術提供と今までどの国も成しえなかった亜人国家との協定という大きな見返りがある」


 アスタルスは目を輝かせるとおもむろに立ち上がり机の上に用意された小さな金属の鐘を鳴らす。


「お呼びでしょうか?」


 するとどこから現れたのか、私の隣に突然ルドルフが現れた。


「うわっ!?」

「おっと、失礼しました。つい、アリスさんの技術に感銘を受け全力で気配を消しておりました」


 ルドルフはにこりと微笑むと深く頭を下げる。

 簡単に私の魔力感知を抜けてきておいてよく言うな、と少し悔しくなる。


「ルドルフ、すぐにドワフ国に私の名で書状を。そこに先程の条件を詳細にまとめて知らせてください」

「かしこまりました」

「ベリラダ姫、この大陸にやってきたのはあなた方が最初の一団という事でよろしいですか?」

「あ、はい」

「次の方々はいつ?」

「一週間後には」

「では文を一通書いていただきたいのです。内容は……そうですね、人族の街で原因不明の病が流行っているので上陸は少し待つように、と書き記してください」

「え、それはどういう――」

「技術提供を申し出ることのできる他の方々を足止めする為です。汚いようですが、直接ドワフ国に向かわれては我々はこの競争に乗り遅れてしまう。三国が利益を上げることのできる状況があるのに、それを妨害されては悔しいですからね。1週間もあればなんとかなるとは思いますが……念のためです」

「……わかりました!」

「ロレッタ!?」

「ベリラダ様! これはチャンスではありませんか!? 101番目と嘲られ続けてきたアタシ達の……私達が報われる時ではありませんか!?」


 ロレッタの口調は強く、それでいて心に訴えかける様に響く。

 まるでどちらがお姫様なのかわからない程の圧にベリラダも息をのんでいる。

 ただアスタルスだけは、ピンと立ち上がったロレッタの耳を見てどこか動揺した様子で落ち着きがない。


「……確かに。ロレッタの言う通りですね。(わたくし)がこの国へと送り出されたのは替えの利く身だから。ならば、(わたくし)は、替えの利かない唯一無二の功績を持って帰り国を見返したい」

「もしあなたの身に危険が迫れば私が全力で守りましょう。これはあなた方の大陸だけの話ではない。この大陸も、そして全世界の利益にもつながる事なのです」


 力強いアスタルスの言葉に頷くふたり。

 そんな世界が動くかもしれないという場面に直面しておきながら、私はアスタルスの強引な手腕にただただ驚くばかりだった。

 後続の一団がベリラダからの文を信用せずに港から出れば理由をつけて捕縛することも厭わないだろう。

 一見優しそうな外見に騙されるが、()()()()()()()はやはり我々とは背負うものが違うのだと痛感する。

 自国の為、民の為ならば手段を択ばない。その強引さが過去の戦争を招いたのだと思う反面、この強引さがなければ王は王たりえないのだとも感じる。

 あぁ、さくら。私はあなたの事を誤解していました。

 巻き込まれる時は否応なしに巻き込まれるものなんですね……。

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