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セイバーンから始まる流通革命 中編

おはようございます。

諸事情が諸事情により中止となりましたので更新させていただきました!


どうぞよろしくお願いいたします!

「荷物を、運ぶだけのお店?」

「そうだよ! 今商品を売る時ってさ、基本的に商人が自分で運んでいるでしょう?」

「うん」

「けれど、例えば《次元蜥蜴の鞄》と《早駆け馬》があれば誰でも商品の輸送ができる、つまり商人はお店に持ち込んで届くのを待つだけでいいんだよ」

「うーん……確かにそれは楽だけど、本当に商品が届くのか不安だし他の人に任せるのはなぁ」

「そう言われると……けれど、例えば魔法の契約書を作って契約するのはどうかな?」

「あ、なるほど。お店と従業員で契約を結んで意図的な紛失には罰を課せばいいのかぁ」

「次元蜥蜴の鞄に入れてれば壊れやすい物でも運べるし、早駆け馬だったらもしかしたら傷みの早い食べ物なんかも運べるかもしれない。けど早駆け馬はセイバーンでしか手に入らないから、だったらセイバーンに居る商人が作ったらどうかなって」


 あんずは腕を組んで考えを纏めている。

 そこへフィリップとアンナが近づいてくる。


「あの、お話の途中にすみません。実は彼女のお父さんがセイバーンの《早駆け馬》の販売と育成をしていまして……もしかしたらお力になれるかもしれません」

「え、本当?」

「はい! 私の家はセイバーンでも古くから《早駆け馬》を扱う老舗なんです。実はメリオンに納品した後に一度里帰りして早駆け馬を買おうかって話になってたんです。ですからむしろサクラさんのお陰で助かったと言いましょうか……」

「もしかして、アンナはロストホース商会の娘さんなの?」

「はい。すみません、自分の仕事にはあまり家の影響を受けたくなかったので内緒にしてしまって……」

「え、本当? 私ここまで連れてきちゃって怒られたりしない?」

「とんでもない! 逆に私達からお礼しなければいけませんわ!」


 ヴェルクじゃないけどなんという偶然なんだろう。

 このまま交渉に行こうかという話になったけれど流石にもう日も暮れ始めたしその話は明日という事にしておく。

 今日はアンナ達が実家に泊まるのでその時に軽く話だけでもしてくれるらしいし。


「お嬢様、お食事の用意が出来ました。それと旦那様と奥様も帰られましたよ」

「ありがとう。すぐに向かうわ」


 私とあんずが明日の事を話し合っていると執事のバーストンが呼びに来てくれる。

 正直、貴族の食事がどんなものなのか少しだけ不安はあるけれど、あんず曰くナイフとフォークもあるけどウチは比較的融通が利くとの事だった。

 融通が利くの意味がいまいちわからないけれど、味が分からない程緊張する必要はなさそうだ。


「お父様、お母様、こちらが以前お話した私の商人仲間、さくらさんです」

「初めまして、さくらと申します」


 食卓へと到着するとそこには既にあんずの両親が座って待っていた。

 

「ようこそセイバーンへ。私はあんずの父で城で剣術指南役をしているヴィクター=マールストルだ。あんずから話は聞いているよ」

「私はあんずの母のマリーナ=マールストルです。あんずのお友達に会えて嬉しいわ」


 ふたりはわざわざ立ち上がると傍まで来て挨拶をしてくれる。

 ヴィクターは大柄という程ではないけれど、しっかりと鍛えられたからだと身のこなしから相当の腕前を予想させる。少しオールバック気味に整えられた灰色の髪がとても印象的だ。

 マリーナはおっとりとした雰囲気を感じさせながらも私を見る眼はヴィクターよりもずっと鋭い。しかしそれが嫌な印象を与えないのは敵意や悪意と言った視線ではない事が理由じゃないかな?

 多分娘の友達、という事でどんな人物なのかを気にしているのだろう。


「では食事にしようか」

「かしこまりました」


 ヴィクターに促されるまま席に着くと豪華な食事が次々に運び込まれてくる。

 鳥の丸焼きなんて雑談室のテレビでしか見たことがないよ。

 

「ところで、さくらさんも商人をされているとの事ですけど、どこかにお勤めに?」


 美味しい食事に舌鼓を打っているとマリーナが尋ねてくる。

 彼女としては聞きたくて仕方がなかったのだろう。


「いえ、私はお店を開いています。そこまで大きくはありませんが従業員2名と私でなんとか食べていけるくらいですね」

「まぁ! もうお店を持たれているの? 凄いわね、さぞや商才があるのねぇ」

「いえ、運が良かっただけです」

「いやいや、運も重要だ。実力主義の剣の世界にさえ時に運が味方する事があるのだから」

「あ、そうだわお父様。運と言えば……少し相談があるのだけど」

「何かあったのか?」

「実は、彼女の案で新しい事業の提案をロストホース商会に持っていこうと思うのだけどお父様の意見も聞きたくて」

「どれ、内容を聞いてみようか」


 あんずと私はヴィクターに「宅配事業」についての案を相談する。

 最初は少し難しい顔をしていたけれど、将来的にどれだけこの事業が国の為になるのかと説明すると納得したように頷いてくれる。


「確かにそうだな。現状、早駆け馬は我が国の特産、他国には少数しかおろしていない以上はその事業を行うにあたっては少なくともこちらに分がある。成功するにしろ失敗にしろまずは試してみない事には判断できんだろう。それに年々護衛の報酬も上がっている事を考えれば、早駆け馬の特性を考えるとうってつけではあるだろう。大口の商会を抱え込むことに成功すればその利益はバカにならんし、何よりも流通という面においてこの軍国であるセイバーンにも新しい収益が見込めるというもの……バカには出来んな」

「私もそう思うわ。時期的に考えて最近見つかった《次元蜥蜴の鞄》を最大限活用できるし、今のうちに大手商会を囲い込んでおけば他に類似事業が出てきたとしても《早駆け馬》の分、こちらに有利になる。速度は料金だけでは対抗できないと思うの」


 いやぁ凄いねこの親子。

 私も入院中に色々な物を頼んでいたから「運送業」がないこの世界ならいけるんじゃないか? 位の発想だったんだけど、この人達はそれを実用段階で進めようとしている。

 利益なんかも絡んでくれば競合相手が出てくる事は容易に想像できるし、それならまずは誰も思いつかないうちに手を打ってシェアの最大獲得を目指そうという事らしい。

 あれ? でもここって騎士系の家系なんじゃ……。


「ところで人員に関してだが、やはりある程度は自衛手段を持った者の方がいいと思うがどうかね?」

「それなんですが……ちょっとだけ考えていることがありまして」

「ふむ?」

「ヴィクターさんに伺いたいんですが、この国では罪人はどういう扱いになってますか?」

「刑、という意味かね?」

「はい」

「そうだな、まず殺人に関しては相当の理由がない限りは死罪、窃盗に関しても場合によっては死罪だが、多いのは禁固刑又は鞭打ちなどの実刑だ。その他軽犯罪に関しては回数や事情を考慮して実刑から拘束、注意などと分かれている」

「実刑や禁固刑に処された人たちの再犯率はどうですか? そういう人たちは普通の仕事につけますか?」

「……痛いところをつくな。君の考えがわかったよ。……しかしそれは王も常々気にされていた事ではあるのだ。我が国は質実剛健を重んじる軍国家。どうしても自国民に潔白性を求める気質にあるからな。一度刑を受けたものはまともな職に就けず再犯率が上がってしまい、そして最終的には処刑だ。もう決まりきった道筋のようになっている」

「そういう人達を言い方は悪いですが魔法契約で縛って国が斡旋することで人員を確保する……彼らは荒事にも慣れていますし、中には《詐称スキル》の使い手もいますから決してマイナス面だけではないと思います。それに本当にどうしようもない人っていうのは既に死んでいるか捕まってないでしょうし」

「確かに、そういう考え方もあるな。ふむ……だが問題はロストホース商会のアンデルスがその条件をのむかどうかだ」

「お知り合いですか?」

「あぁ。軍学校の同期なのだ。悪い奴ではないし話も通じるが、プライドもある。犯罪者を使う事に関してどう考えるか」

「では私が交渉に伺いましょう」


 私達が考え込んでいると食堂の扉が開かれ鎧姿の騎士が乱入してくる。


「アンデルス殿には貸しがあります。ここで返していただきましょう」

「……ヴェルクよ、帰ってくるときは鎧くらい脱いで来い。その内に賊と間違えられてバーストンに斬られるぞ」

「流石に一太刀では負けませんよ! いや、失敬、急ぐあまり忘れておりました。サクラ殿、またお会いできたな」


 ヴェルクは素早く鎧を脱ぐと後ろのメイドさんに渡す。濡れたタオルで顔を拭くとそこにはヴィクターによく似た青年が現れた。

 っていうかあのメイドさん、軽々と鎧を持って出ていったけどどんな腕力なんだ?


「先ほどの話ですが、今日アンデルス殿の牧場に賊が入りました。被害はありませんでしたが、特別に騎士団から数名を警護に当たらせています。父上の同輩という事で特別ですと念を押しておりますから多少は手助けになるかと思いますよ」

「またお前は……どうせあんずの商売にでも役に立つかと思っての事だろう。騎士団を私利私欲に使いおってからに……」

「いえ、困っている王国民がいるのであれば手を貸すのは騎士団として当然です。な、あんず?」

「もう、お兄様ったら!」


 ヴェルクは鳥の丸焼きを素手でちぎるとパンに挟みサンドイッチのようにして食べる。

 見た目は凄く貴族然とした姿なのにこの行動には一瞬面食らってしまう。

 あんずの言っていた「比較的融通が利く」というのはこういう事なのだろうか。


「では王には私の方から要請を出そう。食事が終わったらすぐにでも城へ向かうとしよう」

「私も参りますわ。王妃にもお話を通しておかないと……おふたりが喧嘩になってもいけませんし」

「そうだな。頼むぞマリーナ」

「私も食事が終わり次第ロストホース商会の牧場へ戻ります。売れるだけ恩は売っておかなければ」


 何ここ? 騎士の家だよね? 商人の家系じゃないよね!?

 チラリとあんずに視線を向けると、そこにはパンを持ったまま頭を抱えるあんずの姿があった。

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