休憩
「お嬢さん、悪いんだけど食料を余分に持ってないかねぇ?」
メリオンを後にした私は考え事をしながら歩いていた。
その時不意に道端に座り込むお婆さんから話しかけられる。
「ありますよ! 水とそれからお弁当でいかがですか?」
「あぁ、すまないねぇ。お代はこれで足りる?」
「大丈夫ですよ、はいどうぞ」
お婆さんはお弁当を受け取るといそいそと蓋を開けると出来立ての温かさと匂いに少し驚いているようだった。
そういえば私もメリオンでご飯を食べる予定だったけれど色々あって食べ損ねちゃったんだ。
「お婆さん、私もここでご飯食べてもいいですか?」
「どうぞどうぞ、ひとりで食べるよりは楽しいからねぇ」
そう言うとニコリと笑う。
私も笑って返すと異空の指輪からお弁当を取り出すとお婆さんの隣に腰かけて手を合わせる。
「いただきます」
「おや、珍しいね」
「ん?」
「その、いただきますと言うやつだよ。うちの爺さん……旦那もよくやってたねぇ」
「へぇ。そういえば他の人はこういうのしませんね?」
「そうだねぇ。私も旦那に出会うまではそんな事する人見た事なかったよ。懐かしい、すっかりと忘れていたよ」
「旦那さんはお元気ですか?」
「5年前にね、病で逝ってしまったよ。不思議な人でねぇ、昔私が冒険者をしていた時にダンジョンで出会ったんだけど、最初は真っ裸で盗賊にでも襲われたのかと思ったら変な事を言うんだよ」
「変な事?」
「そうそう。なんでも『俺は異世界から来たんだ! ここは何処なんだ!?』ってね。多分錯乱してたんだろうけど……」
「……え?」
何でもない事のようにお婆さんは語るけど、よく考えたら大事件では?
それってこの世界の外側から来たのが私以外にも居たという事だよね? しかも今の話だと日本人の可能性はかなり高いんじゃないだろうか。
「まぁそのまま私が面倒を見てあげてたらいつの間にか子供ができていてね。それが50年くらい前かねぇ。それからは――」
「あ、そ、そうなんですかぁ……」
やばい、全然話が入ってこない。
もしかしたら私以外の転生者に出会う事もあるんじゃないだろうか、とそんな考えが頭の中をぐるぐると回る。そのせいかお弁当の味も全然わからない。
気が付くとふたりともお弁当を食べ終わってしまっていた。
「ふぅ、ご馳走様。久々にお肉なんて食べたけど、意外と入るもんだねぇ」
「あ、そっか。ごめんなさい、配慮が足らなくて……」
「いや、お陰でいつも以上に元気が出たからね、ありがとう」
「けどお婆さんはどうしてこんなところに? メリオンまでそんなに離れてもいないし」
「ああ。私はねちょっとした持病持ちでね。お腹が減りすぎると体調が悪くなって動けなくなるんだよ。だのに弁当を家に忘れてきてねぇ。折角爺さんの墓参りだったんだけどねぇ。お嬢さんが通りかからなかったら死んでたかもしれないねぇ」
ふむ、なんだろう糖尿みたいなものかな?あまりに低血糖状態が続くと昏睡状態になったりすることもあるらしいし。
そういえば隣の病室の笹山のおばあちゃんも糖尿病で、遠出する時は飴を持ち歩いているって言ってたなぁ……元気かな、笹山のおばあちゃん。まともに喋れたことって一度もないけど。
「ん、飴? そうだ、お婆さんいいものがあるよ」
「ん?」
「ほらこれ! 食べてみて」
「これは……おや、甘みがあって美味しいねぇ。これは何だい?」
「それは飴って言うの。作り方は簡単で、市場でメリバチの蜜売ってるでしょ? それとシャプラムの実の汁を混ぜるとこうやって固まるの。あとは木型とかに流し込んで2日くらい置いておけば完成だよ」
「へぇ、あの味のないシャプラムの実の汁にそんな使い方があったのかい?」
「私も知らなかったんだけど、私のお店の従業員に教えてもらったんだ」
「そんなに簡単なら私も作ってみようかね。いざと言う時にも役に立つし、うちに泊まってくれたお客さんに持たせてあげてもいいねぇ」
「うんうん。いいんじゃないかな! 宿屋さんをやってるの?」
「あぁ。爺さんが作った宿屋でね、メリオンにある『たいやき亭』ってお店だよ。是非今度来たら寄っておくれ」
「うん。また寄らせてもらいます。ひとりで帰れる?」
「何、慣れた道さ。あんたこそ気を付けて行くんだよ。ここを通るという事はセイバーンだね? 盗賊の話も聞くし十分注意していくんだよ」
「ありがとう! お婆さんも気を付けてね!」
私達はお互いに手を振って別れるとそれぞれの行く先へと向かう。
色々有意義な話を聞けちゃったなぁ。
異世界から来た男性がいるという事は、他にも同じ境遇の人がいるかもしれない。
今から会いに行く『あんず』も名前だけ聞けば日本人だし……異世界転生系の小説やマンガだとお約束な展開だしね。
「たいやき亭、か。……お爺さん、たいやきが好きだったのかな?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここは王城の一室、以前は王が使用していた部屋に今はひとりの少年が佇んでいる。
月の光が最も眩しい夜、その部屋はまるで照らし出されたかのような独特の明るさに満ちていた。
「アスタルス様、さくら商店から返事がございました」
「来てくださる、と?」
「はい。それから――」
「わかっています。ふふふ、この姿でお会いしたらあの方はどんな顔をされるのか……楽しみですね」
「では準備の方急がせます」
「頼みます」
月の光が照らすその少年の横顔は驚くほどの色気を漂わせ、まるで美しい年頃の娘のようにも見える。
彼こそが現シュバリオン国王アスタルス=オーグ=シュバリオン。いや、正確にはアスタルス=アーク=シュバリオン。
第34代シュバリオン国王オウギュスト=アーク=シュバリオンの実子にして正統な血筋を引くただ一人の正統後継者である。
その生い立ちははっきりとはせず、本当に正当な血統なのかを疑う声も多いがそのカリスマ性はまごう事なきオウギュスト前王の血筋だとも言われている。
ただ一部の人々からはどういった感情を込めてかこう呼ばれている。
『キリンダニアの魔女』と。




