美しい少年は竜の眼の所有者である
『皆の者、聞こえているだろうか? 私はシュバリオン王国代35代国王アレクス・オーグ・シュバリオンである。突然の呼びかけに驚いたものもいるだろうが落ち着いて話を聞いてほしい。私は今神話級アイテム「木霊する咆哮」により全世界に呼び掛けている。今の私はシュバリオン王国の王ではなく、この世界を守護する一人の騎士としてこの言葉を伝えている。勿論各国王の許可は得ているので詳しくは話を聞いた後に国の兵士に問い合わせて欲しい。……では前置きが長くなってしまったが、何故今回こうして神話級アイテムを使い呼び掛けているかという話しに移る。先日、我が王都シュバリオンの近郊にて新たなるダンジョンが目覚める兆しを確認した。が、調査隊を派遣した直後、そのダンジョンより未確認の飛行モンスターが現れ我が国内へと放たれてしまった。魔力追跡の結果、どうやらモンスターは消滅したようだがその姿を確認できたわけではない。よってそれぞれが独自にモンスターに対して注意警戒し、また今後もダンジョンよりモンスターが湧いて出ないとも限らない事を理解して欲しいというのが今回のこの呼びかけの理由である。万が一異常事態を確認した場合はすぐに最寄りの駐屯兵並びにギルドへと連絡を頼みたい。そして各国総力を挙げてモンスターに対して警戒を怠らぬよう努めることを誓うと共に、今後もダンジョンの攻略に注力することをここに宣言する』
「うわなんだなんだ!? 頭の中に声が聞こえる? ……違うか、ここら一帯に声が響いてるのかな?」
王都シュバリオンを目前にして私は急に聞こえてきた声に怯えていた。
こういうのなんだっけ、町内会放送っていうんだっけ?
「ん……? 未確認の、飛行モンスター?」
脳裏に赤いドラゴンがちらつく。
どうやらあのドラゴンはそのダンジョンから逃げ出してきた新種のモンスターだったらしい事はわかったけれど、こんな放送が流れるほどの危険なモンスターだったんだね。
でも確かに、私のパッシブスキル『鋼の身体』をあっけなく貫通して髪の毛を燃やしてきたし、長期戦になってたら間違いなく丸焦げにされてゲームオーバーになってたと思う。
「やってて良かった『モンスターハンティーズ』ってところかな」
大地突き穿つ赤き棘ことアッシュドラゴンと戦ってなかったら恐らく負けていただろう。
あのモンスターもブレス攻撃が異常に強くて修正されたんだよね確か。
「さて、そろそろルドルフさんに外へ出てもらおうかなぁ」
私は異空を開くと一覧からルドルフ・マーシュマンを選択し外へと引っ張り出す。
するとすぐ目の前にシルクハットを携えた老紳士が音もなく現れた。
「おや? もう着きましたかな?」
「はい。ただすみません、トラブル尽くしで予定よりも3時間くらい遅れました」
「いえいえ、結構ですよ。それでも今日中に到着したのですから……というか、私の感覚では先程『異空の指輪』の中へと入った様に記憶しておりますが……やはり時間の流れは違うのですね」
「みたいですね、中に入れればお弁当も腐らないし……ほら! これなんて……アレ? いつのだろう?」
「しかし良い匂い……どころかほんのり温かい。作り立てのようですな」
「うん、おいしい。あ、そうだ。一週間くらい前に露店で買ったんだった」
「ところでここは……おお、門前、丁度良かった。要人用の門を使いましょう。面倒な審査もパスできますし」
「ですね。じゃあ早速……」
私とルドルフは要人門を潜ると王都シュバリオンへと足を踏み入れた。
門から続く大きな大通りには所狭しと建物が並び人通りもアンパルとは比べ物にならない程多く、冒険者だけじゃなくて色々な職業の人が入り混じっている。
けど何よりも目に付くのは兵士の数の多さだ。
「あ、そうそうルドルフさん、さっきなんかワールドボイス? っていう神話級アイテムでの放送があったんですけど……」
「ふむ、もしかすると近郊の未確認ダンジョンですかな?」
「そうです」
「やはり、ですか」
「やはり?」
「いえ……では参りましょう。こちらの貴族街でございます」
「はぁ」
なるほど貴族街、というだけの事はあって建物の質が今まで通ってきた場所とは全然違う。
全ての建物から感じる感覚がお金かかってるなぁっていうイメージを押し付けてくる感じは確かに貴族街っていうのがすぐわかる。
「うわぁ、あそこの壁なんて金だよ……目が痛い」
「ははは、少し悪趣味ですかな。まぁそれぞれの感性がありますから。……ふむ、見えてきましたな。あそこが私の仕えるお方の屋敷です」
「うわぁでっかい!」
目の前には周りの豪華な屋敷も霞むレベルの巨大で美しい荘厳な屋敷が広がっている。
最初は遠くの風景に見えたそれは、なんとたった一つの屋敷の外観でしかなかった。
「ではどうぞ、正面玄関より入りましょう」
促されるまま中へと入ると、まるで打ち合わせをしていたかのように玄関が開き、中からメイドさんが飛び出してくる。
通路の左右へと並ぶと王様を出迎えるように頭を下げ私達を出迎えてくれた。
「うわっ、凄い。まるで王様になった気分ですね」
「喜んでいただけて幸い、この屋敷のメイドたちはみな最高の技能の持ち主ですからな。彼女たちからすれば主を訪ねてくる客人は全て主と同じように出迎えるべきという判断でしょう」
「ルドルフ、待っていたよ」
突然子供の声が聞こえたかと思うと、その場の全員が頭を下げ片膝をつく。
私が呆気に取られて見渡していると、玄関から声の主と思われる子供が階段を下りてこちらへと進んでくる。
その姿はまるで作られたお人形の様な、人間としての生気よりも美しさの方を強く感じてしまう。
金の髪は頭の後ろで束ねられ、歩くたびに揺れ金の粉を振りまいているように見える。
しかし年齢は恐らく10歳にも満たない幼い少年だ。
「貴方が商人のさくらさん、ですね? 初めまして。私がこの屋敷の主でアスタルス・オーグ・シュバリオンです。ようこそおいでくださいました」
「オーグ……シュバリオン?」
「ふふ、そういえば先程父が大きな声で自己紹介をしていましたね。そう、現国王アレクス・オーグ・シュバリオンは私の父です」
「え、あ、じゃあ王子様ですか?」
「そう、ですね。一応は。ただ私は第四王子ですので王位継承権からは遠い位置にあります。まぁ今回の依頼はそこに関係する話で……とにかく中へどうぞ」
「あ、はい」
私はチラリとルドルフを見ると彼が頷く。
今度はアスタルスに促されるまま屋敷の中へと足を踏み入れる。
瞬間、違和感を感じる。
「ん? なんだろ……なんか……」
「ああ、偽装のスキルですね。屋敷全体に偽装スキルを掛けています。理由がありまして……こちらへ」
「……?」
私はアスタルスの後ろについて進むととある部屋へと通される。
その部屋に入った時ふと異空の指輪がぶるりと震えたような気がした。
どんどんと強くなる違和感に少し不安を覚えながら部屋の中央へと進むと、そこには蒼白いガラスの様なもので囲まれた金色の宝玉が鎮座していた。
「……あ、これ……」
「お気づきですか? そう、これが『竜の眼』、ドラゴンの眼です」
「ドラゴンの……眼、もしかしてあの」
「はい。未確認ダンジョンへと潜ったとある人物が持ち帰ったものです。恐らく今朝方ダンジョンから現れた飛行型モンスター、所謂ドラゴンはこの眼を取り戻すために出てきたのでしょう」
「あれ? けれどあのドラゴンには両方とも眼がありましたよ?」
「ドラゴンを見たんですか?」
「ええ、まぁ……」
「……そうですか、まぁあくまでアイテムですからね。そのドラゴンの眼を直接抉り出したものという訳ではないのでしょう」
「なるほど」
「そしてあなたにはこのアイテムを商人祭の目玉イベントである商神オークションへと無事持ち込んでほしいのです。落札後の現金輸送に関してはこちらで手配しますが、すみません、時間がなくアイテムの輸送には護衛がつけられないので……」
「わかりました。ルドルフさんはまた一緒に?」
「はい。ルドルフには護衛も兼ねまして……とは言っても残念ながら道中はお役に立てませんが、ガネッサでは一任していただいても問題ないかと」
「了解です、それじゃあ早速ですけど今から出発してもいいですかね?」
「お早いですね? 今日はこちらに泊られては?」
「いえ、実はここに来るまでにも色々とトラブルに巻き込まれてまして……なんだか作為的というか、違和感を感じるというか……」
「作為的、ですか? いくつものトラブルが重なって起きていると?」
「そうですね。馬車が倒れてたり少女が困ってたりお婆さんが倒れてたり……。まぁ最終的にドラゴンに会っちゃったんですけどね」
「なるほど、そのドラゴンはどうされたんですか?」
「ええと、まぁ、成り行きで……」
「まさか、倒してしまわれたんですか?」
「まぁ、はい」
「ええと、確か商人では……」
「私じゃなくて装備の力です。お気になさらず」
「そうですか、想像以上に逞しい方だ……ではすぐに準備します。アイテムはこの場でお持ちください。それと必要経費も今から用意しますのでしばしお待ちを」
私は頷くと『竜の眼』を異空の指輪へと収納する。
するとまた指輪がぶるりと震えたようなそんな気がした。
「……なんだろ?」
「どうされました?」
「いえ、気のせいだと思いますけど……」
そう言うと首を傾げながら部屋を後にする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あの商人の少女、不思議な縁があるようですね」
「はい。恐らくドラゴンは私の匂いを追ってやってきたのでしょう。でなければ彼女の前に現れることはないはず……」
「成程、『異空』に存在する者でも捕捉する程の『魔眼』、本来の竜の眼はやはりあちらの方でしたか……しかし、こちらも能力としては破格。ドラゴンが討伐された今となっては致し方ない事です。まずは地盤固めの為に奔走するとしましょう。ルドルフ、疲れているでしょうが彼女のサポートをお願いします。それと潤沢な資金を彼女に」
「はい。ただ彼女、少し数奇な運命を持つようです」
「ああ……トラブルによく出くわすというアレですか? 作為的だと話していましたが」
「はい。私にもわかりませんが、どうやら何かしらの恩恵……いえ、呪いを受けているようですね。それがどう出るかが心配ですが」
「しかし彼女以上にこの任務をこなせる人間はいません。国の為、他国の為にはなさねばならない事があります。全力で彼女をサポートしてください」
「はい。この命に代えましても」
「……そ、それで、『異空の指輪』の中はいかがでしたか?」
「ははは、それはもう! 美しい眺めでした! まるで空に浮かぶ星々の海にいるような感覚、暑さも寒さも飢えも感じずまるで自分の身体が世界と一体になっているかのような……そんな貴重な体験でした」
「羨ましい……ああ、もし機会があれば僕も彼女にお願いして……」
自身の身体を抱き頬を赤く染め親指の爪を噛む少年が醸し出すその妖艶さは、とても幼い子供が持ち合わせるソレではない。
幾多の国を滅ぼし、数多の国を作り上げた『傾国建国の魔女キリンダニア』、この世界に伝わる伝説の魔女と遜色ない色香はこれから多くの者達を惑わせ導くだろう。
その美貌が、これから起こるであろう革命の旗印になる事を彼自身強く理解していた。




