イベントのエンカウント率が高すぎる
空良し、風良し、天気よし。
軽く準備体操をしながら地図を確認しておく。
この地図によるとガネッサから西へ5日程の距離に王都シュバリオンがあるらしい。
周りを湖に囲まれ、その後ろは山という立地は難攻不落のイメージがあるけど、この世界に敵国ってあるのだろうか?
なんというかダンジョン、街、村くらいしか見たことないしお祭りにシルヴィアさんみたいな騎士団長が警備に駆り出されている事を考えると平和な世界なのかもしれない。
「じゃあいきますね~……って言っても聞こえないか」
私はひとり『異空の指輪』を見て呟くと背伸びをして軽く走り出す。
速度を維持すれば王都シュバリオンまではおよそ2時間から3時間で到着するだろう。
私は基本疲れないから、恐らく今日中に王都につくだろうし、その足でこっちに戻れば早ければ夕方にはガネッサに到着する計算になる。
そう考えると早駆けの革靴の効果は恐ろしいと痛感する。
この世界の交通網をすべて破壊してしまう可能性すらある特大級の装備……そしてこれがまだ『伝説級』だというのが何とも恐ろしい。
私以外にこんな速度で走る人間を見ない事を考えると、産出量は恐ろしく低いのではないかと思うけどね。
あっという間に景色が後方へと流れ去り、山間に向けて伸びる道は一瞬で森の中へと姿を変える。
その間に幾度か馬車とすれ違うけど、相手は私を認識する間もなく風圧だけが通り過ぎ馬車を引く馬が驚いたように嘶く。
さすがに申し訳ないな、と感じるけれど道を走る以上は致し方がないと割り切っている。
「せめて名前の通りに空が走れたらね。メテオシューズなんだからそんな効果があってもいいのに……けどそうなるともう神話級かな」
そんな事をひとり呟きながら森を抜け、山を走り、そして平原を駆け抜けまた森へと入っていく。
時間にして1時間ほど走っただろうか、前方に何やら馬車が団子状態になって止まっているのが見えるた。
「なんだろ?」
私は足を止めると目の前に止まる馬車の御者に話しかける。
「どうかしたんですか?」
「うわっ!? 驚いた、あんたどこから来なさった!?」
「いや普通にこっちから……じゃなくて、何かあったんですか?」
「あ、ああ、それがね。どうやらこの先で大型の荷馬車が転倒しててね。私達も通れず困ってるんだよ」
「成程、あ、確かにここ左右を木に囲まれてるから馬車じゃ通れないか」
「そうなんだよ、もう2時間になるかね? 何人かで起こそうとしてるんだけど、どうにもビクともしないみたいでね」
「うーん、困りますね。じゃあ何とかしてみようかな?」
「お嬢ちゃんが? ははは屈強な男が何人がかりでも起こせないんだから無理だよ。あんたなら横から迂回できるだろうから先に行った方がいいさ」
「まぁそういわず。試すだけならタダ。上手くいけば時間が買える、そう考えるとお得な買い物じゃない?」
「なんだいそれは?」
「さて……じゃあちょっとしつれーい」
私は馬車の車列を縫って歩くと、道をふさぐ倒れた大型馬車の前へと進んでいく。
何か大型の積み荷を括り付けていたのだろう、大きく地面に沈みまるで沼に投げ込まれた石のようだ。
「なんだ? どうしたよ嬢ちゃん」
「いえ、お手伝いに……」
「バカいっちゃいけねぇよ! 見ろ! ここに居る男全員で起こせなかったんだぞ!? そこにお嬢ちゃんひとり加わったところで――」
「まぁまぁ。どれどれ……よぃ……っしょおっ!!」
地面に重く跡を残した馬車はまるで何事もなかったようにその鉄の身体を起こす。
起き上がった衝撃で何度も何度もその身を軋ませながら揺れる馬車は、確かにさっきまでそこに倒れていたのだと物語っているようだった。
私の背中に大勢の視線を感じるけど今はそれどころじゃない、先を急がないと問題になってしまう。
「じゃあそういう事で!」
「あ、お、おう」
私はその場をあっという間に離脱すると王都を目指して走り続ける。
しかしこの日は何かがおかしかったんだ。
「……おかしいなぁ……」
先程の森から更に3時間。
今度は平原の真ん中で豪華な馬車が盗賊の様な男達10人に襲われている。
まだ襲われたばかりなのか、護衛の兵士5人が何とか奮戦しているが数の多さもあってか盗賊に押されている。
「最初は倒れた馬車、次が巨大な熊みたいなモンスター、更に薬草を探す少女に目の見えない杖の折れたお婆さん……そして目の前の強盗に襲われる馬車。なんだこれ?」
そう、ここに来るまでに既に4回の異常事態に遭遇している。
本来ならもう王都についているが、このトラブルのせいで数時間を無駄にしている。
さすがに最初はこんなことになるなんて思わなかったし、解決した後もまた巻き込まれるなんて誰も考えない。
何か作為的なものを感じるけどどうにも説明しようがない。
「とりあえず助けないと――っね!」
兵士と鍔迫り合いをしていた盗賊らしき男を助走をつけて蹴り飛ばすと、御者に斬りかかる男を殴りつけ、馬車の扉を開けようとしていた男の腰帯を掴んで振り回す。
何事かと呆気に取られている兵士の足元に振り回した男を放り出すと他の盗賊たちにも次々に一撃を加えていく。
更に異空の扉からポーションを取り出すと兵士と御者にぶっかけるようにしてその場を走り去る。
「流石にこれ以上はまずい! 予定よりも数時間遅れてるよ! なんだってこんな時にこんな――――嘘、でしょ?」
全速力で走る私の前に大きな塊が落ちてくる。
見たこともない大型のモンスター……いや、むしろゲームの中では嫌という程見た事があるそのモンスターは、地面へと降りると大きく口を開け咆哮する。
「ド、ドラゴン……?」
ドラゴンは赤い身体のあちこちから火の粉を散らし、金の瞳を忌々しげに細めて私の行く手を遮っている。
「いやいやいや。今までモンスターが街道で出るなんてことなかったよね? 何このイベントとのエンカウント率、おかしいでしょ!」
ドラゴンは大きく一声啼くと鋭く尖った歯の並ぶ口からまるで火炎放射の様な炎の塊を吐き出してくる。
慌てて横っ飛びに回避するも髪が少しだけ焦げてしまった。
「ばっかやろう! そういうのはモンスターをハントするゲームでやれ! 危ないでしょうっ――っが!!」
『グオヴォッ――』
次の炎を吐き出そうと大きく開ける口を目掛けて剛腕の篭手で拳大の石を投げつける。
石は簡単にドラゴンの口腔を突き破り頭を弾き飛ばす。
「……ちょっと、グロい……」
ドラゴンの死体を『異界の指輪』に放り込むとまた走り始める。
なんだって今日はこんなに多くのクエスト……もといトラブルに遭遇するんだろうか?
お願いだから、もうこれ以上トラブルとエンカウントしませんように……。




