表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/103

突然の依頼は吉と出るか凶と出るか

「あーやっぱりだ。知らない間にアイテムが増えてる……踏み潰しながら移動してたんだなぁ私……」


 いったん外へと出た私はマリアと別れると、今度は近くにある中級ダンジョン『オーク集落』へと脚を向けた。

 ガネッサから馬車で10分程の近距離にあるダンジョンで、その名の通り『オーク』というモンスターが徘徊している。

 階層は全部で30階層で踏破済み、モンスターの数も多くなく中級者が腕を上げるのにはもってこいの場所になっている。

 オークは見た目はまるで豚だが、身体はゴリラの様に鍛えられその大きさは2メートルあるかないかといった感じのモンスターで、ゲームやマンガに出てくるようなでっぷりお腹の人間然とした姿はしていない。

 オーク自体は雑食で肉は筋張っていて、味も不味くドロップ品も美味しくはないけど宝箱からは多くの装備品やアイテムが手に入る事で有名なんだって。

 私は今、その入り口付近で『さくら商店』を開きながらアイテム整理をしている。

 当面の問題はさっき買いとしたこの素材たちだ。

 この街には大陸中から多くの商人が集まっているけれど勿論全員が『商人祭』の為に来ている訳じゃないのはわかると思う。

 中には仕事の為に仕入れに来ている人もいるし、素材を確保する為のルート開拓に来ている人もいる。

 けれどその誰もに当てはまるのが「良い品と巡り合いたい」という事じゃないかな?

 さて、問題は何処に売りに行くか……普通に店頭に並べてもいいけれど、売り込みに行くのもいいと思う。

 ただこの街は商人の街だから錬金術師や鍛冶師は少ないし、それならむしろ都市外から来ているお客さんを狙って店頭売りしたほうがずっと名前を売るのに向いている気がする。

 ありがたい事に人のあまり入らないダンジョンだし、品物自体の売れ行きは悪くないらしい。


「お、鋼の剣あるじゃん。丁度買い替えようかなと思ってたんだよな」

「あーみて! エクスポーションよ! どうしよっかなぁ……ガネッサで見た時よりも安いのよねぇ」

「精霊シリーズだ。民話級だけど汎用性高いんだよなぁ」

「すいませーん、ポーションの在庫あるー?」


 ダンジョンの入り口はどんな冒険者でも必ず通る場所だからか意外と売り上げがいい。

 さらに最近では武器、防具を扱いだしたからなのか売れ行きもなかなか悪くはないのが嬉しい所ね。

 中には私の『装備』が欲しいという人もいるけどこれは非売品だと断りを入れることも多くなってきている。

 つまりは私自身も広告塔になっているという事だろう。

 まぁでも、話が通じない人も中には居るわけで……。


「なぁ、その短剣売ってくれよ。業物なんだろ? 俺が有効活用してやるって」

「非売品ですぅ」

「だからさぁ、高く買ってやるって。金貨100枚でどうよ」

「非売品でぇす」

「オイ! アニキがこれだけ頼んでんだ! いい加減に渡せやクソガキィ!」

「うっさいわ駄犬」

「え……なんか俺には辛辣じゃね……?」


 こんな調子でさっきから商売の邪魔をされている。

 相手は5人組の見るからにチンピラと言った風貌の男達で、この絡んでくる男が通称「アニキ」と呼ばれているこの連中のボス的存在らしい。

 彼にはこの腰の短剣がただ業物に見えているようだけどこれは伝説級の破魔の短剣(デモンキャンセラー)、金貨100枚レベルの品物じゃないんだけどどうやらそれも織り込み済みでこうやって張り付いているらしい。

 最終的には『殺してでも奪い取る』という方法を取るんだろうけど、場所が場所だけに手を出せないでいるんだろうなぁ。

 おかげでお客さんもよってこないし困ったものだよ。


「お客さん、商売の邪魔ですよ。もう1時間だよ? 良く飽きないね?」

「なぁに言ってんだよ、ダンジョンの中で商売してる方が邪魔だろ?」

「どこで商売しようと私の勝手じゃない?」

「じゃあそれに絡むのもオレの勝手だわなぁ。なぁお前ら」

「ヘヘヘ」

「なるほどね」


 私は『異界商店』を解除すると場所を変えるために歩き出す。

 しかしその後ろを彼らは列をなしてついてくる。

 まるで某ゲームのPTメンバーかといわんばかりの隊列、まさに私は彼らからすれば世界を救う勇者と言えるだろう。


「あのですねぇ、どうしたら絡まないでもらえますか?」

「その短剣を――」

「無理」

「じゃあこっちも無理だな」

「ならこうしましょう?」

「あ?」

「私があなた達をぶっ飛ばしたら二度と付きまとわない」

「ほぅ? 俺らを暁烏の一団と知っての――」

「ほいっ」


 喋り終わる前にアニキと呼ばれる男の顔を剛腕の篭手(パワー・ハンド)で張り倒す。

 戦闘能力はなくても早駆けの革靴(メテオシューズ)剛腕の篭手(パワー・ハンド)があれば並みの冒険者程度なら制圧できるだけの能力がある事はわかっている。

 他称アニキはダンジョンの壁に派手に激突するとピクピクと手足を痙攣させ意識を失っている。

 少しやりすぎたかもしれない、と思ってその様子を見ていると後ろから背中を剣で斬られたような衝撃があった。


「何だコイツ! 斬っても刃が通らねぇ!!」

「あらよっと」

「げっ」


 極めつけは私のこの防御力。

 そうやすやすとはダメージは喰らってやらないぜ!


「やっぱり身を守るにはこれが一番早い……野蛮だけど。あ、今からあなた達は兵士に突き出しますのであしからず」

「え、ちょま――」


 私は何かを言おうとする男達を次々に異空の中へとしまっていく。

 この『異空の指輪』の便利な所は生き物を収納できるところ、この手の収納系アイテムは他にもあるけれどどれも生き物を中に入れることはできない。

 パスティが誤って中に入ったことから判明した能力だけど、まぁ普通は試そうとすら思わないよね。

 勿論人を入れても問題なく取り出せるし、中の人も痛みや苦しさ、空腹感を感じることもない、まるで時が止まったような感覚らしい。


「ちょっと早いけど、街の兵士さんの所に行ってこの人達を預けてこようかなぁ」

「もし、すみません。さくら商店さん……? でよろしいですかな?」

「あ、はいはい! 毎度どう……も……?」


 私の前には一人の燕尾服をびしっと着こなした老紳士が右手で帽子を取り頭を下げている。

 このダンジョンに似つかわしくないその老紳士は左手のステッキで一度地面をつき鳴らすと呆れたように溜息をついた。


「最近はああした他人の努力をせしめようとする輩が多くて困りものですな。止めに入ろうかと考えておりましたが、貴方の見事な手並みに見惚れてしまい……申し訳ありません」

「あ、いえいえ。ダンジョンでアイテム屋を開くならああいう事も考えなきゃっていういい経験になりましたから……ところで、ええと、どちら様ですか?」

「重ね重ね失礼しました。私、とある王族にお仕えするルドルフと申します。本日はさくら商店さんにお願いしたいことがあり尋ねてまいりました」

「はぁ……あ、じゃあ場所を変えましょうか。さっきからオークが何故か怯えてるみたいですし……」

「ではガネッサにありますカフェでいかがですかな? 『朝露』という落ち着いたカフェでして、中々にメニューも豊富でおススメでございますれば」

「わかりました。じゃあそちらで。あ、馬車は……」

「こちらでご用意しております。よろしければどうぞお使いください」


 私は老紳士ルドルフに案内されるがまま馬車でガネッサへと戻る。

 道中は些細な雑談と何故ダンジョン内でアイテム屋を開いているかという話で盛り上がり、ルドルフが以前は冒険者だったという話を聞いて色々と教えてもらった。

 ガネッサの中へ入ると、馬車を停留所へと停め徒歩でカフェ『朝露』を目指していく。

 意外と近い場所にあり5分ほどで到着した。


「ご足労ありがとうございます。改めまして、とある王族にお仕えしておりますルドルフ・ミッツァーでございます」

「ご丁寧にどうも! 私はさくら商店店主のさくらです。それで、お話というのは?」


 ルドルフは紅茶の様なものを一口啜りながら少し声を抑えて話し始めた。


「本来でしたら冒険者ギルドへ話を通すのが筋となりますが、今回は妨害工作の可能性がありますのでこうして信用できる個人を頼ったのです。それだけ難しい案件なのですが……契約していただけるにしろそうでないにしろ口外は控えて頂けますかな?」

「はい、それは当たり前ですよね。商売人として顧客から得た情報は大事な商品です。販売許可がないなら非売品ですからね」

「中々に面白い考え方をされる、そうですか、情報も商品……なるほど、確かにシルヴィア殿が気に入るわけです」

「え? シルヴィアさん?」

「はい。我が国の騎士団長であるシルヴィア殿よりあなたのご紹介を受けております。きっと親身になってくださるはずだと、熱心に薦められまして」

「なるほどぉ。それで内容は?」

「はい。実はとある『神話級アイテム』をこのガネッサへ運んでいただきたいのです」

「神話級、アイテム……」

「はい。名を『竜の眼(アイオブザドラゴン)』と申しまして、遥か古の時代に一度その姿を現して以来長らく消息不明になっていた物です。その能力は絶大で、全ての魔法による効果を打ち消し更に一度打ち消した魔法を暫くの間使用不可能にするという絶対魔法防御能力を有します」

「すっご……」

「そして今回はこのアイテムをガネッサにて競売にかけようと考えております」

「えー、そんな凄い物をどうして? 保管していてもいいし自分で使うとか……」

「ええ、勿論それも協議されました。が、私の主の目的の為にはこれから莫大な資金が必要となります。王族とはいっても金銭が湧いて出る訳ではありません。ですから今回はどうしてもこのアイテムを『商品』として出品する必要があるのです」

「なるほどぉ、そういう事情なら仕方がないのかな?」

「ご理解いただき助かります」

「でもどうして私に? いくらシルヴィアさんから紹介されたからって、私まだ駆け出しの冒険者ですよ?」

「はい、しかし調べていくうちに他に適任はいないと考えました。『異空の指輪』と『早駆けの革靴』そして類稀なる『強靭さ』を兼ね備えるさくら様しか不可能だろうと」

「なるほど、そこももう調べてあるんですねぇ」

「ええ、というよりは王都でも噂になっております。『恐ろしく高速で移動する商人がいる』と」

「あ、ははは……なるほど」

「道中シルヴィア殿にもお会いしたとか。そのおかげでこうしてすぐにお会いすることができました」

「……わかりました。じゃあ、折角だしお受けします」

「ありがとうございます。では報酬の方ですが、お幾らほど用意すればよろしいですか?」

「んー……それがこういうことは初めてで。まぁ危険手当も考えるとそこそこは欲しいですね」

「では落札額の一割、ではいかがでしょうか? もとよりこの額までは出してもいいという主よりの命ですので」

「わかりました。それでお受けします。じゃあ今から王都へ向かった方がいいですよね? 何せ商人祭まであと3日しかないですから」

「ではこちらをお持ちください。私共ではさくら様の速度には追い付くことができませんので」

「あ、ならルドルフさんも一緒に行きますか? 『異空の指輪』の中に入れば一緒に行けますし」

「……よろしいのですか!?」

「ん? はい、問題ないですよ」

「ではよろしくお願いします。御者に事情を説明してまいりますのでお待ちください。出発は一時間後、という事でよろしいですか?」

「わかりました、一時間後にこのカフェの前で」


 何故か眼を輝かせるルドルフはそのまま軽やかな足取りでカフェを出ていく。

 そんなに依頼を受けたのが嬉しかったのかな?

 そんな事を考えながら、私はカフェから兵士の詰め所へと向かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ