表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/199

第50話 わたしはどうしても。

本日もよろしくお願いいたします。








午後はペンギンなど見る事が出来るというエリアへ行こうと宗君との相談の結果決まった。

テラス席から見えるペンギン達がとても可愛らしく、今から楽しみだ。

イルカのことが大好きではあるが、ペンギンもペタペタ歩く様子がとても可愛くて好きだ。

午後にはペンギン達が外に出て散歩もするようで、時間帯的には見えそうなのでそれも楽しみである。

列をなして散歩する姿はとても可愛いくて見応えがあるらしい。


宗君が買ってくれたアイスミルクティーに口をつけ、喉を潤す。

ミルクティーはわたしの大好きな飲み物だ。

夏はアイスで冬はホット。

年中飲めて幸せ。


でも、宗君はなんでわたしの好きな飲み物がわかったんでしょう?

迷いなく宗君がわたしに手渡した飲み物に口をつけた時は正直びっくりしました。

「美味しい?」とわたしに問いかける宗君に驚きながらもなんとか頷き返すと「よかった」と宗君が笑うのです。

その仕草、笑顔が凄くカッコ好くて思わずキュンとしてしまいました。

宗君凄いです。



予定通り午後はカイジュウ類エリアなる場所へ向かった。

ペンギン、アザラシ、アシカ、ジュゴン、イルカ!等の水槽が連なるエリア。


宗君曰くペンギンはカイジュウじゃないけどな、とのことですが、確かに可愛いので怪獣じゃありませんよね。

そもそもみんな怪獣じゃないと思うんですが、どうなんでしょう?


わたしの疑問はさておき、二人で色々な動物を見ていきます。

イルカのいる大きな水槽で思わずテンションが上がってしまったのは仕方ないと思います。

バンドウイルカとイロワケイルカとカマイルカがこの水族館にはいるんだって。

はしゃいで宗君にはまた笑われてしまったけれど、イルカが可愛いのが悪いんです。悪くないですけど!


海獣エリアも1時間も見れば歩き終えてしまう。

海獣と怪獣の違いは教えて貰いました……。


エリア終点に着くと、その広場には海獣類の少しデフォルメされた可愛いオブジェが遠目に置かれているのが見えた。

水族館の名前なんかも書かれていて、記念写真を撮るのにもちょうど良い様に見えた。

遠目に見ていると思った通り撮影をしているカップルなんかがチラホラ。


いいなぁ……。

わたしも宗君と写真撮りたいよ。


無意識にわたしの視線はそのオブジェに引き寄せられるのだった。


広場を進み二人はオブジェの前を通りかかる。

宗君の歩幅は小さくなり、ついには止まっていた。

わたしもオブジェに釘付けだったので、自然と歩みは遅くなっていった。

図らずも二人はオブジェの前で止まる格好となったのだ。


チラリと宗君へ視線を向けると、宗君もオブジェに目を向けているようだった。

その横顔はなんだか考え込んでいる様にも見える。


何を考えているんだろ。


わたしと写真を撮る事とか考えてくれていたら、どんなに幸せだろう。



この水族館で見る所はもうほとんど無いといっても良い。

宗君とのデートで歩いていないエリアはこの場所を残すのみ。

つまり、ここを見終えれば後は帰るだけなのだ。


これが最後のチャンス……。



宗君は普段バイトがとても忙しい。

この夏休みだって、今日を除けば会える日があるのかどうか分からない。

最悪、始業式まで会えないなんて事もあるかもしれない。

ましてや、デートなんて……。



絶対に撮りたい。

宗君との思い出を形で残したい。


頑張れ愛奈。勇気を出してっ。




「さ、沢良木君」「斉藤さん」


「「あっ、どうぞ」」



な、なんでなのーっ!?

なんでここで被るの!?

うぅ……。

神様に見放されてるのかな……。

神様のばか……。


「斉藤さんどうかした?」


「あ、いえ、沢良木君こそ……」


でも、宗君はなんて言おうとしたんだろう。

気になるなぁ……。


「あ、えっと……」


「……」


宗君はなにか言いかけたが、そのまま口をつぐんでしまった。

わたしもわたしで、一度出鼻を挫かれた事で、何も言葉を紡ぐことが出来なかった。


やっぱり無理だったのかな……。

宗君との写真……。






「あれ、どうかしましたー?」


お互いに言葉を掛けられないまま、固まっているとそんな声がわたし達に掛けられました。

なんだか少し聞き覚えのある声です。


「ん? あ、イルカショーの時のお姉さん?」


振り向くと宗君の言う通り、イルカショーの時にタオルを渡してくれたお姉さんがこちらを伺っていた。


「お、そう言うあなた達はずぶ濡れカップル!」


お姉さんの方もわたし達に見覚えがあったのか、そんな言葉を掛けられました。


「あー、カップルでは無いのですが……」


「なーに言ってんですか! どっから見てもお似合いじゃないですかー!」


か、か、かか、カップル!?

お似合いっ!?

わたし達そんな風に見えてたんですか!?

本当に!?

嬉しいっ!!!

えへへっ!


宗君の言葉も耳に入らず、内心悶えてしまいます。

ぎゅぅってなります。


「か、カップル……、お似合い……」


思わず口に出してしまいました。


「イケメンと美少女のカップルとかほんと羨ましいですねー。絵になりますねー」


お姉さんにカップルカップル言われて、恥ずかしいのと嬉しいので、顔が熱くなります。

宗君にはこんな顔見せられないので俯くしかありませんよ。

えへへ。



「あ、もしかして写真ですか? お撮りしますよー?」


俯き続けるわたしの耳にそんな言葉が届きました。


写真……。

お撮りしますよ……。


えっ!?


わたしは無自覚に顔を跳ね上げた。


なんてタイミングが良いんでしょうか!

神様は見放してなんていませんでした!

ありがとうございます神様!!!



わたしは今一度宗君へ視線を飛ばす。


勝手にごめんなさい。

宗君は嫌かもしれないけれど、わたしはどうしても。

大好きな宗君と写真が撮りたいんです。


もう、悩みません!



「お、おお、お願いしますっ!!」


力いっぱい手を握りしめて、自分を奮い立たせるように。

赤い顔を宗君に見られてるかもしれません。

でも、これだけは譲れないんです。


「はい、りょーかいです! スマホですか?」


「あ、はい。こ、これでお願いします……」


わたしは自分のスマホを係員のお姉さんに渡すと、宗君の元へ戻った。

わたしのワガママです。

宗君にはちゃんと謝らないと。


「あの、沢良木君。勝手にごめんなさい……。でも、その、せっかくだから……」


宗君と写真を撮りたいんです。

結局、嫌われるのが怖くて言い訳っぽくなってしまいました。

ごめんなさい。


「いや、俺も斉藤さんと撮りたかったんだ」


首を振ると、そんな事を宗君は言ってくれます。


「ぁ……うんっ!」


宗君は優しいから。

それをわかっていながらも、わたしは心ときめいてしまうんです。


本当に大好きです。




係員のお姉さんに誘導されるようにオブジェの前に並びます。

それとなくイルカが中心の来る位置に宗君が立ってくれました。

この人は何度わたしをキュンとさせたら気が済むのでしょう。


「ほらっ! もっと寄ってくださいよー! カップルでしょ!!」


またカップルって……。

顔が赤くなってしまうので、やめて欲しいです。

いや、嬉しいんですけどね。


「ほら斉藤さん」


「ひゃぁっ!?」


突如感じた肩の感触に思わず声が出てしまう。

朝に感じたものと同じ、優しく肩を抱かれる感覚。

戸惑いながらも宗君を見上げる。


「これは仕方ないんだよ、うん」


宗君はそんな事を言いながらイタズラっぽく笑った。

その笑みにわたしも釣られる。

そして、笑いながらも宗君の真似っこをするのだ。


「……そっか。これは仕方ないんだね、うんうん」


わたしは宗君を真似て頷くと、優しくわたしの肩を抱くその手に自身の手を重ね合わせる。


これは仕方ないのです。

許してね?

少し驚いた様子の宗君でしたが、すぐに微笑んでくれました。


「いちゃこらもう良いですかー!? 撮りますよ!? ったく、こっちは独り身なんだぞー! 少しは自重してよ!」


い、いちゃこらって……。

むしろ、わたしはもっとしたいですっ!!!


「それじゃ、撮りまーす! はい笑ってーって既に笑ってるなぁこんちくしょうっチーズっ!!!」


ヘンテコなお姉さんの掛け声と共にシャッターが切られました。

何度かシャッターが切られる間、もっと長く続けば良いのに、なんて考えながら宗君に体を預けるのでした。


その後、係員のお姉さんとと思っていた人が、実は館長のお姉さんだったらしく、宗君と二人で凄く驚いてしまいました。

とても気さくな館長で、是非また来てと言ってくれました。

次も宗君とがいいな。



初めての宗君との水族館デートはこうやって幕を降ろすのでした。


スマートフォンの中に今日一番の宝物を仕舞って。









「さ……ん、お…て。斉藤さん」


体を揺らされる感覚に、深く沈んでいた意識が徐々に覚醒していく。

耳元では大好きな声が聞こえていた。

声に導かれるように意識が浮き上がる。


「……ぅぅ、んゅ」


「起きた?」


「……うん」


目を擦りながら、わたしは頷く。

身体を預けながら寝ぼけ眼でその顔を見上げる。


「おはよう、斉藤さん」


見上げたその目と鼻の先には宗君の顔がある。

息も掛かるような至近距離だ。


切れ長で澄んだ黒目に男の子にしては長い睫毛。

そして髪を切り、露になった文句のつけようの無い精悍な顔立ち。

優しく微笑むその姿にわたしはしばし見とれていた。


宗君かっこいいです……。







……ん? んんー?


「どうかした?」


宗君は首を傾げる。

彼がすればそんな姿も様になる。


「……あ、……えっ、と?」


寝起きの頭が徐々に回転を始めた。

とりとめの無い思考が頭の中に羅列していく。


バスの中。

外の景色は見覚えのある駅周辺。

隣には宗君。

そしてわたしが身体を預けている。

わたしは今起きた。

起こされた。

顔が凄く近い。

嬉しい。

寝顔を見られた。

恥ずかしい。

おはよう。

ふわふわする。

わたしの腕が宗君の腕に絡んでいる。

すごく密着してる。

宗君の優しい笑み。

ドキドキする。

ぼーっとする。


目の前に宗君。


……え。


わたしは再度、自分の状態を確認する。


バスの二人掛けの座席に宗君とわたしが並んで座っていて。

わたしが宗君に身体を預けるように寄りかかっていて。

それで、そのままわたしが宗君に腕を組んでいて。

そんな状態でわたしが見上げるから、顔を凄く近い。


「っ!?」


うわっ、うわぁっ!?

たいへん、たいへんだ!!

なにがどうなってっ!?

ふぇっ、顔が熱い、どうしよう!


瞬く間に顔が赤くなることを自覚する。


「ん?」


未だに見つめたままの宗君が不思議そうにわたしを見下ろす。


真っ赤であろう顔を急いで俯き隠し、わたしは必死に頭の中を整理した。


えっと、確か……。


帰りのシャトルバスに乗るとわたしは眠気に逆らえず負けてしまった。

宗君と沢山お喋りする予定がそうそうに破綻してしまったのだ。

張り切って早起きしたり、水族館でもはしゃぎ過ぎたんだと思う。

微睡むわたしはおそらく宗君に寄りかかっていたと思う。

睡魔であやふやではあったけれど、肩や頭に感じる宗君の感触がとても幸せだった。


……記憶にあるのはこんなところでしょうか?


恥ずかしっ!

思い出しただけで恥ずかしいよっ!


10分やそこらの短い微睡みだったが、それを思い起こすと恥ずかしさで身動ぎすら出来なかった。


「………………おはよ」


わたしにはこう返すのが精一杯だった。





わたしが返事を返す頃にバスはちょうど駅にたどり着いていた。

恥ずかしく思いながらも、降りるために離れていく宗君のぬくもりと香りに寂しさを感じてしまった。


二人でバスのロータリーへ降り立ち、わたしは宗君へ向き直る。


「さ、沢良木君、今日は―――」


「斉藤さん、家まで送るよ」


宗君へ別れを告げようと口に出すが、わたしの言葉は宗君の言葉に掻き消されてしまった。

名残惜しい気持ちが集り、わたしの声はとても小さかった。宗君に届かなかったのも無理はないと思う。


そして、宗君は相変わらず優しかった。


「……ありがとう」


わたしは宗君へ笑顔で返事をするのだ。


「と、当然だよ。ほら、行こう」


「うんっ」


わたし達の初デートはまだ終わってなかったようです。これは嬉しい延長戦ですねっ。


今日の思い出を語りながら歩く帰り道はとても満ち足りた物だった。








お風呂を上がったわたしは自室で濡れた髪をタオルで拭いていく。

濡れた髪を見ていて、イルカショーでずぶ濡れになってしまったことを思い出す。

それと同時に笑みも溢れるのだ。


宗君に見られてしまったのは恥ずかしかったけれど、イルカショー凄く楽しかったな……。


始めて見るイルカショーは興奮の連続だった。

イルカの可愛さとショーの迫力と一緒の彼と。

他にも…………。


こんな具合にふとした拍子に、次から次へと水族館デートの楽しかった思い出が追想されるのだ。

家に着いてからと言うもの、ずっとこの状態。


突然ニヤニヤしたりは平常運転です。

堪えきれず笑い出してしまうこともしばしば。

自分が気持ち悪いです……。

でも仕方ないと思うんです。


ご飯を食べていても。

歯を磨いていても。

お風呂に入っていても。

考えるのは、思うのは今日のこと。




ベッドに潜り込むと早速スマホを取り出します。

電源ボタンを押してそこに写し出されるのは可愛らしいイルカのオブジェの前で笑顔で肩を抱き合う男女。


「えへへ」


つまり宗君とわたし。

早速待ち受けに登録してしまいました。

家に着いてから手を洗うよりも先に、最初にしたのはこの待ち受け設定。

帰り際には、宗君のスマートフォンにも送っています。宗君も使ってくれたり、なんてね。


見ているだけで幸せです。

この一言に限ります。


夢にまでみた宗君とのツーショットですよ!

ツーショット!


まさか、本当に手に入れる事が出来るとは!

未だに信じられません。

でも、ここに確かにあるのです。


「えへへっ」


最早エンドレス。

寝るまで続ける自信ありますもん。


実際、時計の針が真上を向くまで飽きずに続けてしまいました。

てへ。



いい加減寝ようかと思い始めたわたしが胸に抱き締めるスマホから通知音が響きました。


宗君?


わたしのスマホが鳴るのは両親か宗君だけ。

家に居る状態で送ることなんて無いだろう。

さすれば宗君以外居ない訳で。


――今日は楽しかったね。おやすみ――


スマホを開けばそんな文面が画面に踊るのです。


おやすみ、宗君。


返信を送るわたしは、心が満たされながら眠りにつくのだった。













お読み頂きありがとうございました。

斉藤さん回いかがでしたでしょうか?


沢良木君サイドで語られなかったバスの出来事等、少しでも楽しめたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ