第49話 ついに発症してしまったか
ギリギリ本日もよろしくお願いいたします。
俺は自室のせんべい布団に寝転がり物思いに耽っていた。
何を隠そう昼間の水族館デートについてである。
まさか斉藤さんから
誘って貰えるとは思っていなかったのでとても嬉しかった。
何より素晴らしく天使な斉藤さんをこの目に焼き付けられたのが至極幸せの極みであった。
中でも私服天使がとてもキュートでありました。
途中ハプニングなんかもあったが全体で見ればとても充実したデートであった。
手に持ったスマホを掲げ眺める。
気がつけばニヤニヤとしている沢良木君が一人。
「やべ、キモいな俺……」
俺は今一度、今日のデートを思い返した。
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プンプンと怒る天使と共に見送るのは哀愁漂うデカイ背中。
その背中からは普段の自信に満ちた様相は微塵も感じられ無い。
少しだけ、ほんの少しだけ同情を抱くが、今回は俊夫さんが悪いのでノーコメント。
斉藤さんが放った会心の一撃を受け撃沈した上に強制帰宅の命を下された俊夫さんはすごすごと帰っていった。
潜り混んでいたこの水族館の売店などに関しては、やはりコネやらで無理やり割り込んだようで、本職の方が居たので問題無かった。
しかし、無理に潜り混んだりする必要があったかは甚だ疑問である。
影に徹して監視していれば何も問題なかったし、俺らも俊夫さんに気付く事もなかっただろう。
実にはた迷惑な筋肉だった。
「さて、邪魔者も帰ったしお昼食べようよ沢良木君」
「お、おう……」
未だにご立腹な天使様の物言いに思わず尻込みしてしまう。
初めて見るちょっぴりダークな斉藤さんに正直衝撃を受けている。
新たな一面を見ることが出来喜ばしい反面、その矛先がこれからの友人ライフで俺に向く時が来たらと思うとぞっとする。
俺多分立ち直れない。
Mっ気は無いのでもろハートにダメージ来るわ。
ダークエンジェル斉藤さんを出現させてはならないと、俺は心に誓った。
「ここが人気みたいだよ!」
「へえ、確かに並んでるね」
気を取り直して昼食を調達しようと行動を再開した俺達。結局筋肉ダルマの騒動でドリンク休憩どころではなくなったので、そのまま昼食と相成った。
しかしこれは……。
さっきとは打って変わって笑顔を振りまく天使。
この変わり様。
女子って怖いっ。
でも可愛いっ。
その笑顔でへらへらしてしまう俺は実に単純なのだろう。
男子っておバカっ。
斉藤さんが調べた情報で、人気があると言う事で並んだ列は海鮮料理の売店であった。
近海の海鮮物を使った海鮮丼なんかが人気だとか。
水族館のフードコートにしては値段も良心的で、それも人気の要因であるようだ。
でも、水族館で魚を観賞した後にそれを食べるとかなんだかちょっぴり複雑。
気にするのは俺だけだろうか。
無事昼食をゲットしたので席を探す。
結局二人共、人気の海鮮丼を注文した。
一緒だね、と微笑む天使に少しお腹が満たされてしまった。
斉藤さんとお揃い嬉しいぜ。
「なんかテラス席とかあるみたいだね。どうする?」
「行ってみよっか?」
案内が見えたので向かってみると、ウッドデッキ様式のテラス席が拵えてあった。
立体的に水槽の上部の方に位置するようで、少し遠いがペンギンなんかの海獣類の水槽が下の方に望める。
ちょうど空いた席が出来たので、斉藤さんと向かい合わせで座った。
海鮮丼がとても美味しく、斉藤さんとの話も弾んだので充実したランチタイムを過ごさせてもらった。
旨かったがやはり複雑な俺だった。
「ペンギンも可愛いねー!」
昼食を取り終え、食後のコーヒーを飲みながら斉藤さんと談笑していると、ペンギンの水槽を見ながら斉藤さんがはしゃいでいた。
ちなみに斉藤さんの飲み物はミルクティー。
早速筋肉データを活用させて頂いた次第だ。
「あれ? そう言えばペンギンの水槽って通らなかったよな」
「んーそう言えばそうだね?」
二人で首を傾げた通り、ペンギンの水槽は未だに見ていなかった。
早速パンフレットで調べてみると、別の海獣エリアなるものがあるようで例の順路とは別のようだ。
「それじゃ、午後イチでそっち行こうか」
「うんっ」
俺は閃いてしまった。
何の事かって?
何ってお前斉藤さんの写真についてだよ。
まだ諦めて無かったのかって?
あたぼーよ。
せっかく一日一緒に居られるのだから、またとないチャンスじゃありませんか。
長い夏休みだ、今後いつチャンスがあるか。
ちなみに撮影者:筋肉の写真はその場で天使の手によって即刻葬られてしまった。
実に惜しかった。
なんとか筋肉に頼み込んでおけば良かったと後悔先に立たずである。
んで話を戻して閃いた内容なのだが、今目の前にあるイルカやらペンギン等の海獣類をモチーフにした大きなオブジェを利用出来ないか、と言うもの。
記念撮影なんかにも良さそうで、そのような人を度々見かけた。
そこまでは良い、問題はここからだ。
いかに斉藤さんを誘導する?
なんとか撮影を試みたいところだが、不自然ではいけない。
沢良木:斉藤さんの写真が欲しいから撮らせてよ!
斉藤:え、なにそれキモい。
沢良木:斉藤さん、ちょっとそこに立ってみて
斉藤:え、なに、怪しいんですけどキモい。
……死ねるな。
一体どうすればいい……。
何故だか失敗する未来しか思い浮かばないのだ。
なんでイマジナリー斉藤さんそんなに口悪いんだよ……。そんな所見たことないのに。
ポジティブシンキング沢良木君が今日に限ってお留守のようで姿を現さない。
ふと視線をお隣の天使へ向けると、天使もイルカオブジェを見つめていた。
斉藤さんも写真を撮りたいとか考えてたりしたら良いのにな。
……ここは一度玉砕覚悟で聞いて見たらどうだろうか?
なに、軽い感じで、写真撮ってみる? みたいな。
そうだ。それで行こう。
それならダメージを少なく済ませられるかもしれない。
いざっ。
「斉藤さん」「さ、沢良木君」
「「あっ、どうぞ」」
おおう。
被ってしまった。
なんてベタな展開なのだろう。
今、斉藤さんはなんて言おうとしたんだろうか。
「斉藤さんどうかした?」
「あ、いえ、沢良木君こそ……」
「あ、えっと……」
「……」
くそっ、ワンクッション置いたせいで変に恥ずかしくなってしまった! 言いづらいっ。
斉藤さんもなんだか顔を赤くして俯いてしまい何も言葉を発さない。
この空気どうしようか……。
「あれ、どうかしましたー?」
だんまりお見合いを始めてしまった俺達へ掛けられたのは、どこか聞き覚えのある呑気な声。
その声に顔を上げた。
「ん? あ、イルカショーの時のお姉さん?」
「お、そう言うあなた達はずぶ濡れカップル!」
ずいぶんな言い種だなおい。
一応客だよ?
それに事の一端にはあなたがいらっしゃるのですが。
「あー、カップルでは無いのですが……」
そこは訂正しなければ。
勘違いされては斉藤さんが困るだろう。
「なーに言ってんですか! どっから見てもお似合いじゃないですかー!」
「か、カップル……、お似合い……」
「イケメンと美少女のカップルとかほんと羨ましいですねー。絵になりますねー」
そんな呑気な声に斉藤さんは更に小さくなってしまった。耳まで赤い。大丈夫か?
しかし、俺と斉藤さんがカップルに見えるのか。
なにそれ嬉しい。
斉藤さんの美少女天使度は疑いない水準であるわけだし。
間違いであっても男としては嬉しい限りだろう?
「あ、もしかして写真ですか? お撮りしますよー?」
お姉さんの勢いが凄くて何も言えない俺達にそんな言葉が掛けられた。
なんだと?
あなたはタイミングの神か。
これは願ってもないチャンスだ。是非ともお願いしたいところ。
しかし、ここでがっついてもどうなんだろうか?
斉藤さんを差し置いて俺がでしゃばったら、なんだか気恥ずかしいし、カッコ悪い……。
なんて言えば不自然じゃないんだ?
くそ、変な男の見栄が邪魔をする。
そうだ。
これこそさっき考えた、軽い感じでっていう方向で行けば。
うん。
あ、せっかくだし、撮ってみる?的な。
良いんじゃないか?
よし、それで行こ―――
「お、おお、お願いしますっ!!」
「へ?」
俺が胸中うだうだやっていると、隣の天使が大きな声でお姉さんへ申し出ていた。
両手を胸の前で握り、ずいぶん気合いが入っていらっしゃる。
頬を染めながらも、どこか一生懸命なその姿に俺は心揺さぶられた。
「……」
……俺、カッコ悪いわ。
「はい、りょーかいです! スマホですか?」
「あ、はい。こ、これでお願いします……」
俺が茫然自失としている間に斉藤さんは自分のスマホを係員のお姉さんに渡していた。
そして俺の元へ戻って来る。
「あの、沢良木君。勝手にごめんなさい……。でも、その、せっかくだから……」
申し訳無さそうな様子で俺を見つめる斉藤さん。
しかし、斉藤さんが謝る必要なんてどこを探したって有りやしない。
当然俺は首を振った。
「いや、俺も斉藤さんと撮りたかったんだ」
素直の何が悪い。
素直、純粋、良い子で天使!
そんな見本が目の前にいるんだぜ?
「ぁ……うんっ!」
俺達はお姉さんに誘導されるようにオブジェの前に並ぶ。
もちろんイルカが中心の来る位置だ。
「ほらっ! もっと寄ってくださいよー! カップルでしょ!!」
だから違うって。
だけど……。
「ほら斉藤さん」
これくらいは許してね。
「ひゃぁっ!?」
俺は斉藤さんの肩を軽く抱き寄せる。
驚く斉藤さんだったが、俺は構わず続ける。
「これは仕方ないんだよ、うん」
出来るだけイタズラっぽい笑みを意識する。
ぽかんと俺を見つめる斉藤さんだったが、俺の言葉を聞くと笑みを咲かせた。
「……そっか。これは仕方ないんだね、うんうん」
斉藤さんも俺の真似をするように頷くと、肩を抱く俺の手に自身の手を重ね合わせた。
その行動に今度は俺が驚かされたが、はにかみながらも笑顔を振りまく斉藤さんに俺も微笑んだ。
「いちゃこらもう良いですかー!? 撮りますよ!? ったく、こっちは独り身なんだぞー! 少しは自重してよ!」
知らんがな。
それに別にいちゃこらしてるつもりはない。
仕方ないんだ、うん。
「それじゃ、撮りまーす! はい笑ってーって既に笑ってるなぁこんちくしょうっチーズっ!!!」
無茶苦茶なお姉さんの掛け声と共にシャッターが切られた。
お姉さんの言葉では無いがこんなに近くに天使がいらっしゃるんだぞ。
そりゃ笑顔になるってもんだろ。
今日一の笑顔は今ここで。
文句無しだな。
「ありがとうございました!」
スマホを返してもらいながらお姉さんにお礼を言う。
お姉さんはにこやかに続けた。
「いえいえー! あ、この水族館はどうでした? 楽しめました?」
「はいっ、とっても!」
斉藤さんと共に俺も頷く。
10数年ぶりの水族館だったが、非常に楽しめた。
まあ、誰と来るかってのも重要だと思うけれどね。
「あはは、それは良かったです。実は私、この水族館の館長してるんで、何か改善点とかあれば教えてくださいね! あ、あとよかったら是非また来てください! それでは!」
「「……え?」」
嵐の様に走り去るお姉さんもとい、館長を見送る俺と斉藤さん。
今日一の驚きは間違いなくコレですわ。
館長のお姉さんが走り去った後、二人で呆然と立ち尽くしてしまった。
今俺達は帰りのバスに揺られていた。
記念撮影の後は問題なく水族館を見終え適当なお土産を見繕うと、俺達は帰路についた。
帰りも行き同様にシャトルバスで帰ることになる。
再び20分の道のりを経て御崎の駅へ辿り着く。
斉藤さんはバスが出発すると、間もなく寝息を立て始めてしまった。
朝からはしゃいでいたから疲れが溜まったのだろう。
そして今、俺の肩には確かな重みがある。
行きとは違う、全てを預けられているような感覚。
そんな重みに思わず頬が緩んでしまう。
それに加え初めて見る天使の寝顔だ。
バスの窓ガラスをぶち破りたくなる程の衝動を必死に抑えている状況である。
すぴー、すぴーと聞こえる規則正しい寝息も輪をかけて可愛い。
「か、可愛い過ぎるんだが……」
思わず独り言もでてしまう。
ヤバい、どうしよう。
抱き締めたい。
悶える俺は唐突に天啓を得た。
俺はスマホをおもむろに取り出すと、カメラ機能を立ち上げる。
先日カメラを弄っていたときに見つけた機能。
謎の内側を撮影する機能っ!!
その時は何故自分の方を撮影する必要があるのかとしばらく考えたものだが。
「この時の為じゃないか!」
でも、これは流石に斉藤さん怒るかな……。
でもっ、この寝顔を逃すわけには……。
……怒るよな。
こんなところで筋肉ダルマの気持ちを理解してしまうとは。悔しいぜ。
散々悩んだ挙げ句、結局俺は良心の呵責に堪えられず、カメラを機能を落としたのだった。
「……はぁ」
これで良いんだ。
斉藤さんに嫌われるような事を絶対にしたくない。
ここは考えようだろう。
ひたすら脳裏に焼き付けるとしましょうか。
俺はバスが駅に着くまでの間、可愛らしい天使の寝顔を堪能するのだった。
「……ふふっ」
うん、可愛い。
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昼間の楽しかったひとときを思い返し、一つため息を吐く。
俺、この写真で向こう10年は頑張れるわ。
待ち受けにして良いだろうか。
ツーショット。
キモいかな。
いや、ロック画面じゃなくホームとかならあるいは……。
やっぱりキモいでしょうか。
「いや、俺はやるときはやる男なのさ」
ええい、やってしまえ。
ポジティブシンキング沢良木君がやっとこお出ましだ。最早今日が終わっちまうぜ。
「……よし」
俺のホーム画面には天使がいるんだぜ。俺が余計ではあるが。
でも斉藤さんは超天使、めっちゃ天使、マジ天使。
うん、可愛い。
でへへ。
「……ごほん」
夏休みではあるが、また明日からバイトが始まる。
菅野真澄の件だってこれからが本番だろう。
忙しくなることは明白である。
斉藤さんと過ごせた今日一日が非常に名残惜しい。
そして、また仕事が始まると言う軽い憂鬱感、倦怠感。
「こ、これはまさか……」
これが世に言うブルーマンデー症候群。
俺の場合、サザ○さんシンドロームならぬ斉藤さんシンドロームだわ。
ついに発症してしまったと言うのか。
「……さあ寝よう」
あ、斉藤さんにおやすみRINE送っておこうかな。
俺は斉藤さんへRINEを送ると眠りについたのだった。
皆さんおやすみなさい。
ついに発症。
ありがとうございました。




