第122話 予想外の出来事
毎度お待たせしております。
更新再開です。
本日は連投予定です。予約投稿なので1時間くらいのスパンでいきます。よろしくお願いいたします。
1話目
「んーと……斉藤さん?」
スマホのディスプレイを見れば"斉藤愛奈"の文字。着信のようだった。
珍しいな、と思いつつも俺は通話ボタンをタップする。
「もしもし?」
「さ、沢良木君かっ!? 良かった! 出てくれた!」
スマホの向こう側から聞こえたのは、斉藤さんではない誰かの声。
「誰だ?」
訝しく思いつつも、俺の名前を知っている事や酷く焦った声音に、警戒ランクを下げる。別の意味で警戒せざるを得ないが。
「唯だ! 高畠唯!」
「高畠さん? ……どうした?」
何故斉藤さんのスマホから? 何故そんなに焦った様子なのか?
疑問が何点か頭に浮かんだが、何よりも先んじて話を聞くべきだ。そう考え、高畠さんを促した。
「た、大変なんだ! ま、愛奈ちゃんが……菅野ちゃんがっ! わ、私、どうしたらっ……」
斉藤さんと真澄?
「落ち着け、高畠さん。大丈夫。ゆっくり、教えてくれ」
俺は高畠さんをなだめる様に、ゆっくりと落ち着いた声音で、促す。
案外、相手が落ち着いていれば、自ずと冷静になれるもんだ。度を越してしまっていたらその限りでは無いが。
「あ、ああ……。すまない、取り乱してしまって」
「大丈夫」
よし。落ち着いたな。
高畠さん普段はポンコツだが、バカでは無い。しっかり分別の付く人間だ。
「トラブルが起きたんだ。結論から言うと、愛奈ちゃんと菅野ちゃんが連れ去られたかもしれない」
は?
な、ななななんですと……!?
はっ? え? ちょっ!?
俺は内心、大いに焦る。
天使とアイドルが拐われた?
マジかよ。
どこのどいつだ?
あ?
……殺すぞ。
「……状況を教えろ」
「は、はひっ!」
あ、やべ。高畠さんビビらせてどうするんだよ。
電話越しでもナニやら俺の空気が伝わった模様。
すまん高畠さん。
「じ、実は……」
そこから俺は、高畠さんから事の顛末を教えて貰った。
以前、今学校を休んでいる松井に外で出くわした、その時因縁を吹っ掛けられて、今日呼び出しを食らった。呼び出された場所へ向かうと、男達に囲まれしまった。少しして現場に向かった所誰も居なくなっていた、と。
高畠さんが説明してくれた内容を要約すると、こんな感じか。
因みにスマホに関しては、高畠さんがスマホを持っていないため、斉藤さんが連絡用に貸したそうだ。二人との連絡には真澄のスマホを使うとの事。
「しかし、また松井か……」
何かと問題を引き起こしてくれるもんだ。
以前から天使を虐めてきたらしく、一学期には俺の天使を泣かせたことは記憶に新しい。
中庭で胸中を語り、そして涙を流した斉藤さんを俺は鮮明に覚えている。
自分の弱さと向き合って、それを乗り越えようとしている少女を。
泣き虫で、恥ずかしがり屋で、だけど健気で、頑張り屋。そんな彼女を少しでも支えられたらと思った。
あまつさえ俺のもう一人の友達、真澄にまでその被害を拡げてきた。
俺が言うのは、お門違いかもしれないが。
「怒っていいよな?」
「え?」
「いや……何でもない。早速だけど、二人を探そう」
「あ、ああっ! ありがとう、沢良木君!」
「当たり前だ。それよりまず方針を決めよう。高畠さんは学校その周辺を。俺は今駅だから、学校に向かいながら探すよ。お互い何か進展があれば一度連絡する。オーケー?」
「あ、ああ、分かった!」
「よし。それじゃ、お姫様達を助けるとしようか」
俺は早速二人の捜索に乗り出した。
電話を切ると同時に走り出す。
向かうは学校方面。
走り出すと同時に、スマホを操作、電話をかける。
まずは理沙。万屋に帰れなくなった旨を連絡した。
「私もツテを当たってみるわ。何か情報があれば直ぐに連絡する。取引があって会社から抜けられ無いのだけれど……」
「十分過ぎるさ。ありがとう。ガキの喧嘩だ。ガキで片付けるよ」
「ガキ? あんたが子供? 混ざるの?」
「クラスメイトなもんでな!」
「あー、はいはい。童心を忘れないおにーさんだもんね。つか、普段から混ざってるわね」
「うるせー」
「ま、とっとと助けてあげなさい」
「言われんでも」
電話を切ると走るスピードを上げる。もちろん周囲に視線を走らせる事は忘れない。
高畠さんの話では男だけで十人は居たらしいからな。それだけで大所帯だ。ひときわ人目を引くだろう。
逆に言えばそれだけの人数が違和感無く、若しくは不振がられる事無く居られる場所が必要な訳だ。
「……すると、商店街や駅って事は無いだろ」
近くには交番もあるし、人目につき過ぎる。
少女二人を囲んだチンピラ十数人。
犯罪臭しかしないじゃんね。
「となれば……」
俺は脳裏に何点か浮かぶ候補地の一つを目指し、ひた走った。
ーーーーーー
わたしと菅野さんは男の人達と松井さんのお友達に脅されながら、歩くこと10分程。
ぞろぞろとわたし達を囲んだ男の人達は、御崎高校の建つ丘を下った麓の辺り、程近い位置する廃工場地区へと来ていた。
途中、パトロール中の警官にでも遭遇しないかと期待したが、そんな都合の良い事は起きなかった。
閑静な地区を通って来た事もあり、人通りも皆無に近かった。
そんな、こちらに不都合な、この人達にとっての幸運が続き、中々楽観出来る様な状態ではなくなっていた。
歩いている最中も、わたし達は身を寄せあっていた。
二人共、震えは収まったものの、表情には大きな不安が陰っているだろう。
ガヤガヤと騒がしい男の人達に、押し込まれる様に大きな建物の入り口をくぐった。
「……」
わたしは建物の内部を見回した。だだっ広い元工場らしき建物。内部は機械等既に撤去されているのか、あまり物は置かれて居なかった。置き去りにされた机や棚、椅子等が数点あるのみだった。
ここはしばらく放置された物件なのか、痛みは大分激しく、人の手を離れて久しいようだった。
こんな所に助けなんて……。
そんな考えが脳裏を過り、再び恐怖から手が震え始めた。
「……ぁ」
わたしの手を包む温かい感触。隣にいる菅野さんがまた握ってくれたのだった。
気丈に振る舞い頷く菅野さんだったが、その手も微かに震えていた。
当然だよね……、とわたしは申し訳無く思った。
ごめんわたしのせいで、そんな呟きは菅野さんに強く握られた手に遮られる。そちらを見れば、首を振り意志の強い瞳があった。
その瞳にわたしも頷き返した。
この状況をなんとか打開しよう、と心を強く持った。
「お待たせしやした、竜司さん」
「おう」
廃工場の奥まった場所まで来ると、そこにはタバコをふかす一人の男性が居た。
短めの黒髪に、派手な白いスウェット姿。目付きは悪く、わたし達を値踏みするように視線で舐め回される。
何とも言えない不快感から、鳥肌が立つ。
「一人だと聞いていたが?」
「へい、ノコノコと着いてきた女が居たんで、一緒に連れて来たんでさぁ」
「ふぅん? それにしても二人揃ってずいぶんと上玉だなぁ、おい?」
「へへへっ、本当にな! ついてるぜ!」
男達の猥雑な視線と口々に言うコチラを謗る言葉。沸き上がる絶望と言う言葉を、繋いだ手を強く握り蓋をする。菅野さんも同じなのか、握る力は強い。
「……な、なあ! 今気付いたんだけどよ。あの女って、この前引退した"ますみん"じゃね?」
「はあっ!? おいおい冗談を……って、おぉ? た、確かに、言われて見ると?」
「マジもんかよ!?」
「くうっ! アイドルをヤれるなんて生きてて良かった!」
菅野さんの正体に気付いた男達は騒然となった。
そんな男達の様子に、わたし達は表情を歪める他ない。菅野さんの手の震え止まらず、その眦には涙が浮かんでいた。
多数の男達に囲まれているこの状況。
何も打開策が浮かばないまま、わたし達は追い詰められる。
「へっへっへっ、さあて。覚悟は出来たかぁ? お嬢ちゃん達?」
「まずは年功序列ってなぁ? 竜司さんが良いって言うもんでよぉ。幹部のケンジと俺から頂こうじゃねぇの」
とりわけ偉そうな二人が前に出て来た。ケンジと呼ばれる男はがたいが良く威圧的だ。もう一人は小柄で痩せぎすだが、目付きが悪く見るものをすくませる様だ。一歩二歩とわたし達は後退る。
わたし達の退路を塞ぐ様に、他の男達は周囲を固めて来た。
「竜司さん」
「ああ。……やれ」
竜司と呼ばれるリーダー格の許しを得て、二人の男はわたし達に手を伸ばす。
「い、いやっ……」
「……っ」
触れられる瞬間。
「のわっ!?」
「うおっ!?」
そんな驚きの声と共に男達の手が離れた。
「「え?」」
声の重なったわたし達の目が捉えたのは。
「逃げてっ!!!」
な、なんで?
わたしの頭は大いに混乱する。
逃げろと叫ぶその人は……。
松井さんだったのだ。
松井さんが横から二人の男に体当たりをかまし、二人を突き飛ばしたのだ。バランスを崩ししりもちをつく痩せぎすの男。ケンジと呼ばれる男はその体格からか、転ぶ程では無い。
突然の事に、どよめく周囲。
「逃げて、早く!」
突き飛ばした態勢のままの松井さんがわたし達に対し、再び逃げろと叫ぶ。
ごめんなさい、とも。
「ち、ちょっと美里!? あんた何やってんのっ!?」
「おいこら、なんのつもりだよ!?」
「おいおい!?」
周り男達や松井さんの友人の女性が喚きたてる。
「お願い早くっ」
騒ぎ立てる周りには目もくれず、そう叫ぶ松井に理解が追い付かないものの、わたしと菅野さんは走り出した。




