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その84「深月姉とランニングをした」

 太陽の光が眩しい朝10時。清々しいまでに晴れた平日の町内を、深月姉と俺はランニングウェアを着こみ走っていた。


 「ほら、深月姉がんばって!」


 「はぁ…ぁ…はぁ……も、もう無理だって夕一ぃー」


 「なに言ってるんだよ深月姉、まだ200mも走っちゃいないよ!」


 極度の出不精、というよりも引きこもりといった方が正しいような生活を送る深月姉にとって、運動というものはかなり縁遠いものである。


 はるか昔に一念発起して買ったピンクのランニングシューズは、今もなお新品同様の輝きを失わず深月姉の足にはまっている。


 「うぅー、くるしーよぅー」


 走っているといってもそのスピードは早歩きくらいのものだったが、深月姉はフルマラソンの終盤を走っているかのような形相だった。


 「ほら、せめて駅前まではがんばろう!」


 「無理だよぅー。そんなことしたら足が溶けるよぅー」


 「どんな原理でだよ。今月は痩せるんだろう?」


 ダイエットをすると言っておきながら一向に。本人が気にしているほど見た目に変化は感じられないし、こちらとしてはしようがしまいがどちらでもよかったが、サプリメントだのダイエット食品だの、なにかと楽な方へ行こうとする深月姉を一喝するために、無理やり部屋から引っ張り出す形で今日のランニングを敢行したのだった。


 「はぁ……はぁ……。あぁー、脇腹痛いよぉー」


 「それを乗り越えたら楽になるからがんばって!」


 「足が縦から割けるよぅー」


 「むしろ見てみたいよ」


 「肺が膨らむよぉー」


 「それは正常な状態だから」


 数十m進むごとに身体の異常を訴える深月姉。よくもここまで口を休めることなく弱音を吐けるものだと、むしろ関心してしまう。


 ついには、深月姉はへたりと路上に座り込んでしまった。


 「どうしたんだ深月姉。まだ駅まで1kmはあるよ」


 「もう無理だよぅー。もうくたくただし、これ以上日光に照らされたら身体が砂になるよう」


 「バンパイアかなにかかよ。深月姉の足はなんのために付いてるんだ?」


 「冷蔵庫のコーラとしるこサンドを取りに行くためだよぅ」


 基本的に自分に甘く、向上心も持続力も打たれ強さもない深月姉にランニングというのはそもそも不向きなのだ。そして本人もそれを自覚しているから、こちらがせかしたところでますますやる気を失っていくだけなのだった。


 「もう無理ー。一歩も歩けない。タクシー拾って帰ろうよぅ」


 「帰りにタクシー拾うランニングがどこにあるんだよ。弱音ばっか吐いてないで、さっさと走っちゃおう」


 「無理無理無理ー!もう、だいたいねぇ、ちょっと考えればこうなることぐらい簡単にわかったでしょ!?夕一は私の何を見てきたの!?」


 「一体俺はなにで怒られてるんだよ!」


 ついにはよくわからない理屈でふてくされて、深月姉はそっぽを向いてしまう。こうなると、なかなか機嫌が治らないことは過去の経験でわかっていた。


 「ほら、こんな天気の中ずっと座ってたら干からびちゃうよ?」


 「いいもん。ここで干からびて文字通り干物系女子になるもん」


 てこでも動かないといった様子でどしりと座り込む深月姉。こんなに力強く道路に座り込む23歳を、俺は見たことがない。


 「……わかった。残り1kmがんばって走ったら、駅前でアイス買ってあげるから」


 「え、アイス……?」


 わかりやすく釣られる深月姉。もはやダイエットの意味を失っているが、深月姉をこのまま路上に放置して、町内会の晒し物にするわけにもいかない。苦渋の決断だった。


 「深月姉だっていつまでもここに居たくないだろう?ほら、ちゃちゃっと走っちゃおうよ」


 「……なら、ちょっとだけがんばる」


 深月姉はのっそりと立ち上がり、お尻の埃をパンパンと払う。


 「でも、もし無理だったら、別の日に回してもいい?」


 「いや、ランニングに分割払いはないから」


 俺が走ると、深月姉はその後ろをまた走り出した。今度は目的ができたため、さっきのような弱音はもうなかった。


 そして距離が距離ということもあって、ものの数分で俺たちは駅前にたどり着いた。


 「やったー!夕一、約束だよ!アイスアイス!」


 子どものようにはしゃぐ深月姉。疲れ向かったのは駅前のスーパー、ではなく、隣のアイスクリーム屋さんだった。


 「えっ、31(サーティワン)じゃないよ!スーパーのアイスだから!」


 「あっ、ラムレーズンと大納言あずきとバナナアンドストロベリーをお願いします」


 「いや頼むなって!しかもトリプルかよ!」


 頼んでしまったものは仕方がなく、俺は黙って店員さんに料金を支払う。高く積み上げられたアイスを受け取った深月姉は、満面の笑みを浮かべた。


 「ねぇ、外だと溶けちゃうから、スーパーのフードコートで食べて行こうよ」


 「ああ……なんでこんなことに……」


 こんなことならダイエットサプリメントを買った方がまだ良かった。そう思いながら、俺は深月姉に腕を引っ張られ、フードコートに向かうのだった。

 

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