六十二話 自由な部下と繋がる部下
——種子島
『グヌヌ。何故命令に従わぬ……。』
災害の悪魔は頭を悩ませる。
人間と悪魔との力の差は歴然、赤子のようにひねりつぶせるはず……
――だった
(想定以上の粘りをしている。どうしてここまで?)
一度怒り狂った竜は二度と獲物を逃さない。
――災害の悪魔は本来眠っていたはずの大勢の竜を起こしていた。
――戦地フクオカ
「ねぇお兄ちゃん……ほんとに行くの?」
ピピはエリックの服の裾を掴んだまま離さない。
「な~に心配してんだよ。」
エリックは軽く笑って、ピピの額を指で小突く。
だが、その指はほんの一瞬だけ止まった。
「だって……どこかへ消えていっちゃいそうで……。」
ピピの声は小さく震えていた。
“消える”の意味を、ただの比喩で言っていない目だった。
「絶対帰ってきて。これは約束。」
「わかった。」
エリックは一瞬だけ間を置いて、それでも短く答えた。
そして、迷いなく地を蹴った。
エリックは空へ飛び立った。
下には、人間たちが足掻いた後が広がっている。
――最初に見えたのは、暴風の吹き荒れる内陸部だった。
(あいつは……一人で立てているか。)
いや、立つ。
(そういう男だ。)
次に視線が滑るように山間部へ移る。
(ソーマ、ルンタが食らいついている……。)
森は静かに沈み、風さえ息を潜めていた。
音は消えたのではない。選ばれている。
そこは戦場ではなく、“評価される空間”だった。
そして、沿岸部。
(リ……サ。)
エリックは一瞬だけ動きを止める。
血を吐き、崩れた姿が視界に入った。
(……ごめん。)
(今は止まれない。)
視線を切るように、エリックは前へ進む。
空へ戻る速度だけが、やけに速かった。
そして最後に思い出す、ピピの心配そうな声。
(あぁ、本当なら心安らぐ場所にずっといたかった。)
エリックの握る拳は無意識に強くなる。
同じ景色を切り貼りしたような、無機質な海はどんどんと通り過ぎる。
(僕は、ただ幸せになりたかっただけなんだ。)
エリックの目から雫が落ちる。
(……本当に、これでいいのか)
涙は海に溶けて消えた。
それでも止めない。
(僕は、みんなのために光になるんだ。)
エリックは先を急ぐ。
戦場に光を灯す聖火となるために。
――それが、正しいかどうかはわからないまま。
――沿岸部
(はぁ……。)
リサの真下に血の水たまりができる。
(全身が痺れて……呼吸もできない。)
リサの世界はどんどん狭くなる。
誰かがリサの前にいる、気がした。
(エリックごめん。私……まだ止まりたくない。)
思いと反して体は動かない。
心音も、水の底へ沈んでいく。
――りっちゃん
リサの頭に刺さる死んだ兄の声。
(なに……よ?もうすぐ逢えるからいいじゃない。)
――毒蛇にかまれて痛い?なら魔力を燃やせる僕の炎だね。
(今それ関係ないでしょ……!)
リサは最後の力を振り絞り|現象の反射を発動する。
同時に、赤い炎が溢れた。
――ボワァァ
赤い炎はやがて青くなり、リサの体を焼く。
――いや
正確にはリサの内側の魔力を燃やす。
「ゲホッ。」
リサは血を吐き出す。
そして丁寧に口を拭く。
”え?毒から逃れた~!まぁ、君には即効性の毒をメイス君と双剣君には遅効性にしてあるけど……。”
海月は触手を口元に添える。
(あの子、目つきが変わった、髪も……。それよりあの蒼い炎……危険。)
海月は本能で危機を感じる。
「リサ!よく戻ってきた!」
リサの復活する時間を稼いでいたゾムが立ち上がったリサを横目で見てほっとする。
「海月もう終わりにしよう。」
リサは冷たく地を這う声で言う。
”いいよ~もうそろそろ人間たちとの相手は飽きてきたし。”
海月は赤い水球を召喚する。
ゾムはメイスを落としかける。
慌てて強く握りなおす。
(筋力が落ちてる……力が入りづらい。)
ゾムは間合いを詰める。
合図もなく、赤い水が一斉に放たれる。
空が赤一色に染まり、メイスを赤く照らす。
(なんて数……この量捌ききれるか?)
――蒼炎
――ボオォォォオ
リサの蒼炎が、水を燃やし尽くす。
”水が燃えた~ありえない~”
海月は笑っていた。
だが、その目だけは怯えていた。
ゾムはそれを見逃さない。
(怯えで動きが止まった!攻めるなら)
――今
ゾムとリサは一斉に海月に間合いを詰める。
――兆しは他のところでも広がる




