五十四話 台風の目と神へ
勝ったと思った瞬間、人は一番弱くなる。
終わりは来ない。
その先に、さらに強い“現実”がある。
だから試される。
――お前は、まだ立てるか。
――マチルダの蹴りが鳳凰の脳天を陥没させる。
「ハァハァ……どうだ……」
マチルダは限界だった。
そのまま顔から地面に落ちる。
――だが意識だけは切れない。
(まだ……終わってない)
一瞬揺らいだ鳳凰に、エリックの魔法が刺さる。
――ドン
鳳凰は地面に触れる直前で目を開き、無理やり空へ逃れる。
”ケケェ゛……よく効いたぜぇ”
翼で血を拭う。
(まだ立つか)
マチルダは汗を乱暴に拭った。
「マチルダ。まだやれるな?」
エリックの声は短い。揺らぎがない。
「……なめるなよ」
――俺は浅草を守る魔法使いだ
(ここで折れるわけにはいかない)
――鳳凰嵐!
叫びと同時に、風が変質する。
空気が“刃”になる。
皮膚が裂け、血が舞う。
「……ッ!」
風はさらに上昇する。
身体が引き上げられる。
(浮いてる……いや違う)
次の瞬間、風が逆流する。
――視界が反転
地面が近いのではない。
自分が落ちている。
”ケケェ!戦場はオレサマのものだ!”
勝ち誇る声。
「……ッはァ!」
地面に叩きつけられる。
エリックは息を吐く。白い。
冷気が傷口に張り付き、血を止める。
(応急処置……やるしかない)
氷で止血しながら立ち上がる。
「鳥。ここで終わらせる」
――一般攻撃魔法
隙間を縫う一撃。
白光が走る。
鳳凰の視界が一瞬潰れる。
「目が……!」
だが致命ではない。
鳳凰は風を横に展開する。
――その瞬間
刃のリズムが一拍だけズレる。
(……?)
違和感。
だが切り捨てる。
今は倒す。
縦の風。
同時にエリックの周囲に上昇気流。
”見えねぇ……?”
鳳凰は初めて気づく。
「合わせられねぇ……!」
急所だけが通らない。
殺せない。
「マチルダ!今だ!」
視線が上がる。
そこには落下する“脚”。
「お前にしてはやるじゃねぇか、エリック!」
――龍凱轍虎蹴
一撃目。骨が沈む。
二撃目。内部が砕ける。
逃げ場はない。
火花が散る。
鳳凰は血と魔力を吐き出す。
――ゴファッ
(……俺が負ける?)
その瞬間、空気が変わる。
死の淵。
そこに“何か”が差し込む。
空気が刃として見える。
(今なら……超えられる)
――暴風
しかし質が違う。
防御が崩れ始める。
羽が金へ変わる。
――姿が変質する
”……もう止められない”
静かな声。
圧だけが残る。
(覚醒……したか)
風が止む。
戦場の温度が一段落ちる。
――残り15分
「なんか寂しいなあのバカっぽい鳳凰がいなくなって。」
”いや覚醒後の方がかっこいいだろ!なぁエリック”
「僕もやっぱり覚醒前がピンと来るかな。お前がかっこよくなったところでいいとこあんまない気がする。」
”オレサマ傷ついた……”
「「乙女か!」」
「次回——」
”兆しと勝利へ”
「「めっちゃ元気じゃねぇか!」」




