五十二話 人としての何かと観察者
人は、何かを失ったときに壊れるんじゃない。
“自分が何だったのか”を見失ったときに、初めて崩れる。
埋めるのか。捨てるのか。
それとも——誰かに委ねるのか。
選ばなかった者から、戦場は連れていく。
――残り40分。
もう、引き返せない。
――沿岸部
「かかってきなさい、クラゲ野郎」
カオリの声は冷たく揺れていた。
”いいよ~おもちゃの言うことは聞いてあげる~”
海月は水の刃を無数に放つ。
だが、それはカオリに届く前にすべて塵となって消えた。
(……消えた?相殺に近いのかな~)
海月は観察するように目を細める。
触手が伸びる。
しかしそれもまた、カオリに届く前に消失する。
(効いてない……?)
海月の思考に小さなノイズが走る。
”まぁいいや~今は実験タイムだし~”
――流れ星
水と触手が無数の弾丸のように降り注ぐ。
(効け……)
カオリの思考は乱れていた。
(私は……何をしてる?)
攻撃はすべて消える。
まるで“存在そのものが拒絶されている”ように。
(名前は……私の名前は?)
「ねぇ教えてよ。私は何のために生きてるの?」
海月は初めて“理解不能”に近い存在を見る。
(何これ……データにない)
攻撃の手が一瞬止まる。
その瞬間――
カオリの足元に魔法陣が広がる。
『こっちへ来い』
声が響く。
(呼ばれてる……)
『空っぽだからだ』
「……そう」
カオリは静かに答える。
「じゃあ、それでいい」
――カオリは魔法陣に沈んだ。
静寂。
そこに“いたはずの存在”だけが消える。
――次の瞬間
空気が裂けた。
⸻
――少し前、林間
「まずいな……合流を急がねば」
ルンタは駆けていた。
『旦那、ここで決められるか?』
「当然だ」
――抜刀・永
踏み込みと同時に空間が裂ける。
一閃。
海月の頭部が切り裂かれる。
(……っ、今のは危なかったねぇ)
だが再生する。
「やっぱりか」
ルンタは着地しながら言う。
「生半可じゃ落ちない」
『なら燃やせばいいだろ』
クサナギが笑う。
――真紅の魔力が走る。
溶岩が奔流となり、海月の体を焼く。
”熱いね~でも面白い~”
「……軍人が一人攫われた」
「……そうか」
ルンタは一瞬だけ目を伏せる。
「間に合わなかったな」
そして顔を上げる。
「なら次だ」
ソーマが双剣を構える。
「ピピとリサは援護。前は俺とルンタとゾムで潰す」
ゾムが短く頷く。
「了解だ、中将」
リサは配置を見て小さく笑う。
(無駄がない……完成された戦場)
「どうしたの?」
ピピが覗き込む。
「なんでもないよ」
リサは走り出す。
それぞれが持ち場へ。
戦場が“完成する”。
――残り40分
「カオリさん大丈夫かな?」
「拙者が後少し早ければ……。」
「いいんだ。我ら魔法軍は必ず帰ってくる。なっピピ……」
「ムシャ。ほうだよね!」
「何食べてんの!?」
「プリン!」
「今じゃない……」
「次回……」
「「「虎と竜」」」




