五十話 暇つぶしと諸行無常
風だけが空気を読まずに吹いた。
――まるで何も起きていないと言わんばかりに。
だが、その場にいた全員だけは理解していた。
今の一瞬で、“戦況”じゃなくて“世界のルール”が一つ壊れた。
そしてカオリは、ゆっくりとペンダントを握りなおす。
「じゃあ次は――私の番ですね」
——沿岸部
”さてぇ~? あのうるさい鳥さんは向こう行っちゃったしぃ……今度は私と遊んでくれる?”
海月は、間延びした声で笑う。
「遊ぶ?」
リサが冷たく睨む。
「何を言ってるの、あなた。」
”そんなにトゲトゲしないでよ~。楽しくないじゃん。”
触手が、ゆらゆら揺れる。
”もしかしてぇ? 辛いことでもあった? 私、相談乗るの得意かもよ~?”
誰も答えない。
その時。
――ピチャ、ピチャ。
水たまりを踏む音。
現れたのは、カオリだった。
「ありがとうね。使い魔さん。」
優しい声。
けれど、その奥だけが壊れていた。
「昨日ね。好きだった人が死んだの。」
拳を握る。
爪が掌に食い込むほど強く。
「失ってから気づいたんだ。好きだったって。愛してたって。」
リサたちは言葉を失う。
冷たい風が吹いた。
「あの写真の中の彼に、もう一度会いたい。でも……もう会えない。」
”へぇ~。悲しいねぇ。”
海月は楽しそうに目を細める。
”人間って、そういうの好きだよねぇ。恋愛小説みた~い。”
「小説じゃない。」
カオリは真っ直ぐデルキアを見る。
「これは、現実。」
胸ポケットからペンダントを取り出し、強く握った。
「私みたいな思いは、もう誰にもさせない。」
”全然共感できないけどぉ……まぁいいや。せっかくだし、暇つぶし付き合ってよ。”
デルキアの周囲に海水が浮かび上がる。
空気が、歪む。
先に動いたのはデルキアだった。
圧縮された水弾が一斉に放たれる。
「陣形につけ! 前衛は前へ!」
ゾムが叫ぶ。
”わぁ~。おもちゃの兵隊さんみたい~”
水弾が空中で分裂する。
リサが即座に防御魔法を展開した。
透明な壁に水が激突する。
(狙える……!)
少し離れた場所。
ピピがスコープを覗く。
照準。
呼吸。
魔力。
すべてを重ねる。
(――今!)
――ドン!!
銀弾がデルキアの胴体を撃ち抜いた。
だが。
穴は一瞬で塞がる。
”ごめんねぇ~? 私、水ある限り治っちゃうんだ~”
悪びれる様子すらない。
(再生が速すぎる……!)
ソーマが水刃を捌きながら距離を詰める。
(ピラリスと同じだ。一撃で消し飛ばすしかない。)
”あ~退屈。もっと楽しませてよ~”
デルキアが両手を広げた。
――蜘蛛の巣
圧縮された海水が網目状に広がり、空を覆う。
(そろそろお片付けかな~?)
デルキアの瞳には、人間への悪意すらなかった。
ただ、興味だけ。
(人間って変なんだよね。)
今まで壊してきた人間たちを思い出す。
泣く者。
怒る者。
愛する者。
守ろうとする者。
(なんでそこまで必死になれるんだろ。)
その答えが知りたい。
ただ、それだけだった。
「逃げろ!!」
ピピが叫ぶ。
リサたちは後退する。
木々を盾にして直撃を避ける。
だが。
一人だけ、動かない。
カオリだった。
「……祇園精舎の鐘の声。」
静かな声。
ソーマが顔色を変える。
「っ……!」
カオリへ走る。
「……娑羅双樹の花の色。」
デルキアの触手が、カオリへ伸びる。
その瞬間。
――パシャ。
「おごれる者も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。」
デルキアの触手が、音もなく崩れた。
”……え?”
デルキアの瞳が初めて揺れる。
「猛き者もついには滅びぬ。ひとへに風の前の塵に同じ。」
カオリの手には、ペンダント。
その瞳に、光はない。
――想う者
遺留品に宿る“最後の想い”を写し取る魔法。
カオリが模倣したのは、金髪の固有魔法。
――諸行無常
詠唱と共に、魔法そのものを塵へ還す力。
カオリの中で。
金髪は、まだ生きていた。
「ねぇ、後輩君。」
カオリは小さく笑う。
「まだ、仕事終わってないよ。」
涙は出ない。
もう、とっくに壊れていた。
”すごぉ~い。”
デルキアが、無邪気に笑う。
”一瞬で私の魔力消えちゃった~”
その声だけが、場違いなほど明るい。
だが瞳だけは、深海みたいに冷たいままだった。
「みなさんは下がってください。」
カオリが前へ出る。
「これは私怨です。あなた達は関係ない。」
笑っている。
口元だけ。
風だけが、何事もなかったように吹き抜けた
「祝・五十話突破!!」
「イェェェェェイ!!!!」
「うるさいわ!作者もエリックも!」
「リサさん五十話ですよfifteenですよ!」
「fifteenは15ね!?作者。英語頑張ってよ。」
「やべ。作者のアホさがこんなところで出てしまった。(汗)」
「元々でしょ?」
「――次回」
「「追い求めてた強者と強者の怠惰」」
「元々じゃない!」
「評価してもらって爆発する作者がどこにいるんですか?」




