二十四話 代償と違っただけ
空腹には、いくつか種類がある。
ただ腹が減っただけの空腹。
戦ったあとに訪れる、体が正直なだけの空腹。
そしてもう一つ。
胸の奥にぽっかり穴が空いたような空腹。
埋めようとしても埋まらない。
奪っても、強くなっても、決して満たされない空腹。
ある魔物は、その空腹を埋めるために力を奪い続けた。
自分が“違っただけ”だと証明するために。
そしてある少女は——
戦いが終わるなり、こう言った。
「お腹空いた。」
満たされない空腹と、満たされる空腹。
それが同じ戦場にあった日の話である。
——ただ違っただけ。
その言葉がハイオークの胸に常に刺さる。
彼が産まれたのは約数十年前、オークの中で異質な存在だった。
みんなよりも何倍も大きい体、そして誰よりも飢えていた。
彼を怖がり他のオークは近寄らず、常に一人だった。
——よーし!あの化け物を倒すぞ!
ある日、オークの子供が小さい剣を持って“戦いごっこ”と称して剣で切りつける。石をぶつける。
(ナァ、オレハ……ナニヲ……マチガエタ?)
ハイオークはひたすらに耐えた、
——耐えて耐えて。
そんなある日、飢えに飢えた、ハイオークは石と剣を食べた。
その時だった、肌が石のように硬くなり、手の甲から剣が伸びる。
その恐ろしい姿に子供達は逃げ出した。
——その後まもなく群れを追い出された……。
父と母も気味悪がり、ハイオークには居場所がなかった……。
「チガッタ……ダケジャナイカ。」
ハイオークは地面に手の甲から伸びる剣を突き刺さす。
そしてボロボロ涙をこぼす。
(ナラ……ウバウマデダ。ダレニモ……バカニ……サレナイ!チカラズクデ!)
こうして自身の固有魔法とひたすら向き合い、冒険者を殺して特徴でいいものだけを奪い
自分の思う強い形へ変えていった。
——本当の自分がなんだったのかわからなくなるまで。
⬛︎⬛︎⬛︎
ハイオークの体はほぼ崩れ落ち、あと顔だけになっていた。
「ナァ……チガッタダケ……ダッタンダ。」
「貴方の過去がどうだったかはわからない。」
リサの毛先が青から金へ戻る。目の炎も消える。
「ただ、奪うことを選んだだけ。それは違うと私は思う。」
「……ドウスレバ……ヨカッタノダ?」
その問いをハイオークは聞く前に散ってしまった。
「おっ倒したのか……?」
茂みの中で止血をしていたエリックがひょこっと現れる。
——ザッザッザ
エリックは雑草をなんとか掻き分けリサの元へ行く。
リサはボーっとハイオークの散るのを見ていた。
「悲しいのか?」
最後の“どうすれば良かった?”と言う言葉は強くエリックにも刺さった。
(でも、僕は違ってなんぼだと思うけどな)
「……空いた。」
リサはぼそっと言った。
「何?どうしたその目。」
リサの目はトロンとしてどこか遠くを見ていた。
「お腹空いた……。」
「おい、魔力覚醒を経験して、あんなバシッと決めたのに僕に対しての第一声それかよ。」
エリックは腹を抱えて笑う。
しかし肩の傷が開いてしまって肩から血が出る。
「うわぁ痛った!」
エリックは肩を痛そうにさする。
よく見るとリサも肩から大きく出血していて見るに痛々しい姿である。
「ほら、ギルドに帰ろ。腹も減ったし、今日は豪華絢爛な飯が食えるぞ……。」
エリックは頭にステーキやハンバーグ……などの子供が好きそうなメニューを想像して余計ここを離れたくなる。
「……おんぶ……。」
「はっ?」
リサの発した一言にエリックは深く息を吐く。
(僕だって肩痛くてたまんないんだぞ。)
しかしエリックはよいしょっとリサを担ぐ。
「おい、新宿駅でもおんなじことしたぞ。」
「だって、全身に力入らないんだもん。あとお腹空いたから速くね。」
「ったく注文の多い客だこと。」
エリックは氷属性魔法を足に付与して滑りながら移動する。
見た目はあまり良くないがこれが速いのだ。
(恥ずかしいから人前でやりたくないんだよ……。)
エリック達はあっという間に森を抜けキョウトの街並みに入った。
「おい、あいつらハイオーク討伐を受けた冒険者だぞ!」
「まじか、倒して、生還したのか……。肩に傷を負ってる。医者に運べ!」
街の人々は口々に驚き歓喜するが同時に
「あの移動方法ダサくね?」
「シュール……。」
とてもSS級の魔物を討伐したとは思えない有様である。
とりあえず近くの食堂に転がり込み、席に座る。
その時にも血の筋がつくものだから“何事だ?”
と周りの人も心配する。
「ステーキセット二つで……。」
「私は、オムライスとハンバーグとシチューと……」
「待て、何人前だ?」
エリックは唖然とする。
「デザートはプリン!」
リサが全て注文し終えると店員さんはフラフラと厨房に伝えると脳がショートして倒れた。
それからはもうすごかった。
エリックのステーキセット二つを皮切りに段々と料理が運ばれる。
まずはオムライス、そしてハンバーグ、シチュー、唐揚げ、ナポリタン……。
とても一人の少女が食べられる量ではない。
「嬢ちゃん、よく食べるね。」
「はい!エルフは長寿ですから!」
「それ関係ないでしょ。」
「ほら兄ちゃんももっと食べなさい!少ないわよ。」
——少なくはない。
むしろ普通の人よりも食べているのだ。
しかし、エルフ掃除機が食べまくるせいで
エリックが相対的に少食に見えるのだ。
(ハイオークより飢えてどうすんだよ……。)
エリックは爆食するリサを見て苦笑いをし自分の腹を満たすことに集中することにした。
「この話ってグルメ小説だっけ?」
「エリック殿、違うぞ……ん?この小説はどこにむかっているんだ?」
「ステーキ美味しい!」
「リサ、まだ食ってる……。」
「この小説がどこに向かってるのかはわかんないけど、美味しいからいいや!」
「「よくはねぇよ!」」
「ども、最近は戦ってばっかりなんで久しぶりですねこんなゆるい感じの回は」
「内容は緩くはないよ……。」
「と言うことで次回」
「「「集結と次の目的」」」
『俺っちにターンをわたせ!』
「次の話からね。」




