第一話 出会いと殺しの魔法
砂を握る理由なんて、本当はどこにもなかった。
さらさらと指の隙間からこぼれ落ちるそれを見つめながら、エリックは自分でも理解できない行動に眉をひそめる。
——一粒だけ。
落ちたはずの砂が、指の上に残った。
(……?)
瞬きをする。
次の瞬間には、何事もなかったかのように砂は消えていた。
(なぜこんなことをしている?)
この村は、魔法が現実になったせいで、すべてが味気なくなった場所だ。
かつて船橋と呼ばれていたここは、今ではシップブリッジ村と呼ばれている。
この手に砂の感触など必要なかった。かつてのあの日、目の前で母を奪った術式。
その残光を脳裏に焼き付け、同じ“殺しの魔法”を極めることだけが、エリックを突き動かす唯一の燃料だったからだ。
復讐。
その最短距離を走るために、エリックはあらゆる“無駄”を削ぎ落とした。
感情を殺し、魔力を効率化し、ただ対象を破壊するためだけの術式を磨き上げた。
砂の一粒を心臓の隙間に送り込み、一瞬で命を止める。
かつて母を殺した者と同じ、冷徹な死神の技術。
しかし、極めれば極めるほど、世界は色を失っていった。
(……この手で、僕はまだ何を殺せば気が済むんだろう)
復讐のために磨き上げた“殺しの魔法”が、自分の心さえも削り取っていく感覚にエリックは吐き気を覚えた。
---
その吐き気は、砂の上を走る音によってかき消された。
「逃がすな!そのエルフをとらえろ!魔法回路の媒体として、闇市場なら金貨400枚だぞ。必ず逃がすな!」
エリックが声のする方を振り返ると、数人の男たちが一人の少女を追い詰めていた。
——エルフ。
一目でわかった。
長い耳、透き通るような肌。そして——人間離れした魔力の気配。
この世界において、エルフは“被害者”だ。
数千年前、魔法の出現と同時に始まった争いの中で、人間が浴びた過剰な魔力。その結果、生まれた存在。
純粋に魔力へ適応した者たち——それがエルフ。
そして今。
純血のエルフは、歩く高純度魔力源として狙われる。
……目の前の光景が、その証明だった。
追い詰められていた少女——リサは、腰を抜かしながらも周りの砂を固めて男たちにぶつけていた。
見ればわかる。もうすぐ魔力切れだ。
エリックは一瞬だけ迷う。
無駄な争いは避けるべきだ。
そう判断して、その場を無視しようとした。
しかし次の瞬間、体が勝手に動いていた。
「……やめろ」
エリックの声は波に溶けるように小さかった。
「あ?邪魔すんな。」
男は槍型の杖をエリックの喉元に突きつける。
「……関係ないでしょ……早くあなたは逃げて」
リサは声を振り絞る。
その言葉が、余計にエリックの中の何かを刺激した。
そして男たちはリサのとがった耳を乱暴につかんだ。
血が滲む。
その瞬間——
(……結局、僕はこれしかできないのか)
エリックは溢れる魔力を必死に抑える。
抑えていないと、全員死ぬ。
不必要な殺しはしたくない。
(でも抑えられない。吐き気を催すほどの殺意が……!)
「最後に警告する。彼女を解放しろ。応じ——」
「応じるわけな——」
「そうか」
——一般公用魔法
エリックは男たちの答えを最後まで聞かなかった。
心臓を貫く。
一瞬。
四方から血が噴き出し、空気が赤に染まった。
(あぁ、やってしまった)
(魔法は……殺すためのものなのか?)
エリックはとぼとぼとリサの方へ歩く。
リサは怯えた目でそれを見ていた。
(あぁ結局僕は、魔法を汚した。)
純粋に探究の結晶であるはずの魔法を、どろどろとした“殺しの道具”にしてしまった。
(それに比べてあのエルフは……魔法を純粋に使っている)
エリックは、単純に羨ましかった。
(あの子とは関わってはいけない)
そう思い、そのまま通り過ぎようとした。
——グゥー
「ねぇあなた、お腹すいてるの?」
背後から声。
エリックは初めて、自分が空腹だったことに気づく。
「……ああ。朝あまり食べられなくてな。」
不器用に答える。
リサは金色の髪を揺らして、笑った。
「一緒に食べましょう。」
エリックは、その言葉に一瞬だけ動きを止めた。
「ねぇエリック」
「今なら三分で世界観を壊せるが、やるか?」
「やらなくていい!」
「次回は平和に食事回だ。人は死なない」
「急にハードル下げないで」
「魔法も使わない」
「それファンタジーなの?」
「安心しろ。お湯は魔法で沸かす」
「そこはこだわるんだ」
「そして語られる、俺の重い過去」
「カップラーメン伸びるから短くね」
「三分で終わる」
「待ち時間じゃん!」
「次回——」
「「殺しの魔法とカップラーメン」」
「夜に読むと絶対お腹すくから注意!」
「責任は作者が取る」
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