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第一話 出会いと殺しの魔法

このお話は、少し時をさかのぼり——エリックとリサが出会い、旅に出る前のエピソードです。

それは、まだ僕たちが旅に出る前のこと。


魔法が現実になり、すべてが味気なくなった街での物語だ。


ここは、かつて船橋と呼ばれたところ——今はシップブリッジ村と言われている。


エリックは、スリーシーと呼ばれる海岸線を歩いていた。


波打ち際に打ち上げられた砂は、冬の柔らかな陽光を反射して銀色に縁どられていた。


エリックはその場にしゃがみこみ砂を握る。


手を開くとさらさらと砂がこぼれていく。


(なぜこんなことをしている?) 


この手に砂の感触など必要なかった。かつてのあの日、目の前で母を奪った術式。


その残光を脳裏に焼き付け、同じ“殺しの魔法”を極めることだけが、エリックを突き動かす唯一の燃料だったからだ。


復讐。


その最短距離を走るために、エリックはあらゆる「無駄」を削ぎ落とした。 


感情を殺し、魔力を効率化し、ただ対象を破壊するためだけの術式を磨き上げた。


砂の一粒を心臓の隙間に送り込み、一瞬で命を止める。


かつて母を殺した者と同じ、冷徹な死神の技術。


しかし、極めれば極めるほど、世界は色を失っていった。


指先一つで誰かの命を奪える万能感は、裏を返せば、この世界がどれほど脆く、味気ないものであるかの証明でしかなかった。


母を殺した魔法で、自分もまた「人間としての現実」を殺し続けていたのだ。


(……この手で、僕はまだ何を殺せば気が済むんだろう)


復讐のために磨き上げた“殺しの魔法”が、自分の心さえも削り取っていく感覚にエリックは吐き気を覚えた。


だがその吐き気は砂の上を走る音によってかき消された。


「逃がすな!そのエルフをとらえろ!魔法回路の媒体として、闇市場なら金貨400枚だぞ。必ず逃がすな!」


エリックが声のする方を振り返ると数人の男たちが一人の少女を追い詰めていた。


——エルフ。


一目でわかった。

長い耳、透き通るような肌。そして——人間離れした魔力の気配。


この世界において、エルフは“被害者”だ。

百年前、魔法の出現と同時に始まった争いの中で、人間が浴びた過剰な魔力。その結果、生まれた存在。


多くは命を落とし、ある者は魔物へと堕ちた。

その中で、魔力に適応した者たち——それがエルフ。


そして今。

純血のエルフは、歩く高純度魔力源(バッテリー)として狙われる。


……目の前の光景が、その証明だった。



追い詰められていた少女——リサは、腰を抜かしながらも周りの砂を固めて男たちにぶつけていた。


見ればわかるもうすぐ魔力切れだ。


もう死ぬ。エリックは無駄な争いは避けようとその場を無視して行こうとした。


しかし彼の思いとは反対に体は動き男たちの方へ向かっていた。


「……やめろ」


エリックの声は波に溶けるように小さかった。


「あ?邪魔すんな。」


男は槍型の杖をエリックの喉元に突きつける。


「……関係ないでしょ……早くあなたは逃げて」


リサは声を振り絞る。


その姿が余計にエリックの殺意を呼び起こした。


そして男たちはリサのとがった耳を乱暴につかんだ。


耳が切れて血が出たその瞬間


(……結局、僕はこれしかできないのか)


エリックはあふれる魔力を必死に抑える。


抑えていないと多分あいつは死んでしまう。


不必要な殺しはしたくない。


(でも抑えられないんだ。吐き気を催すほどの殺意が……!)


「最後に警告する。彼女を解放しろ応じ……。」


「応じるわけな……」


「そうか。「一般公用魔法(マサーシュ)」」


エリックは男たちの答えを聞く前に全員の心臓を魔法で貫いた。


エリックの四方八方から血のしぶきが起こりエリックの白い髪や服を真っ赤に染める。


(あぁやってしまったよ。魔法は殺す武器なのか?)


エリックはとぼとぼとリサの方へ歩く。


リサは怯えているような顔をしてエリックを見つめる。


(あぁ結局僕は、魔法を汚した。)


純粋に探究の結晶であるはずの魔法を、どろどろとした人を傷つけるための()()として貶めてしまった自分。


(それに比べてあのエルフは魔法を純粋に探究している……)


エリックは単純にうらやましかった。楽しいはずの魔法で他人を傷つける自分。


(あの子とはかかわってはいけない人間だ……。)


エリックはエルフをそのまま通り過ぎようとした。


——グゥー


「ねぇあなたお腹すいてるの?」


リサが背後まで行ってしまったエリックに聞く。


その時初めて自分が空腹であることに気が付いた。


「……ああ。朝あまり食べられなくてな。」


エリックは不器用に言う。


するとリサは金色の美しい髪を横に揺らしながらにっこりと笑った。


「一緒に食べましょう。」


エリックは思いがけないエルフの言葉に一瞬動きを止めた。

「ねぇエリック」


「今なら三分で世界観を壊せるが、やるか?」


「やらなくていい!」


「次回は平和に食事回だ。人は死なない」


「急にハードル下げないで」


「魔法も使わない」


「それファンタジーなの?」


「安心しろ。お湯は魔法で沸かす」


「そこはこだわるんだ」


「そして語られる、俺の重い過去」


「カップラーメン伸びるから短くね」


「三分で終わる」


「待ち時間じゃん!」


「次回——」


「「殺しの魔法とカップラーメン」」


「夜に読むと絶対お腹すくから注意!」


「責任は作者が取る」

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