十一話 安全地帯とサムライ
強さとは、何か。
敵を倒す力か。
戦場を制する技か。
英雄と呼ばれることか。
それとも——
誰かの隣に立ち続ける覚悟か。
地下二階は、壊れている。
柱も、床も、そして過去も。
背負うものがある者だけが、
三階へ進める。
今回は少しだけ静かな話です。
剣を抜く理由と、
魔法を使う理由の話。
避暑地はありません。
それでは——
安全地帯へ。
——リッちゃん、
——怖がるな。隣にいるだろ。
リサの頭の中に戦争で亡くなった兄の声がこだまする。
——強いってのはな、隣に立つ覚悟のことだ。
⬛︎⬛︎⬛︎
エリックは今遅刻魔の雷電をもろにくらい、気絶してしまったリサを担ぎ地下三階の階段を目指す。
(緊急脱出も考えた。でも——きっとリサは怒る。
“私のせいにしないで”って。あいつはそういうやつだ。)
気絶した人はなんて重たいのだろう……。エリックはいつもの歩幅の半分の大きさで進む。
二階は、柱が所々折れ、地面も穴が空いていたり砕けていたりとボロボロだった。
一階はそんなことはなかったのでここへ辿り着いたものは少ないのだろう。
(魔力探知を常にやってるけどS級の魔力が何体もある……、生きて帰って来れる確率なんでほぼ1%だぞ……。)
エリックはとんでもないものに参加してしまった。と後悔する。
——ドン
「すいません。」
振り返った男の義眼が、淡く光を走らせる。
金属の頬。その奥の光は、機械のものではなかった。
「前見て歩け。ここは安全地帯じゃない。」
低い声。だがどこか柔らかい。
視線がリサへ落ちる。
「…… 雷電か。運が悪いな。」
通路の奥から押し寄せるS級の魔力。
義手の関節が静かに駆動音を立てる。
「昔な。」
不意に、男が呟く。
「“強いってのは、隣に立つ覚悟のことだ”って言った馬鹿がいた。」
一瞬だけ、口元がわずかに上がる。
「拙者はその意味が分からなかった。」
剣を握り直す。
「だが、今なら分かる。」
エリックを横目で見る。
「友を背負ってる顔だ。」
迫る魔力に向き直る。
「悪いが、ここは拙者が立つ。」
剣を構える。
「お主は隣に立て。」
「いいのか?そんなにしてもらって……。」
エリックは見ず知らずの自分を助けてくれた男に命を預けてもらうことに感謝と疑問を持つ。
エリックの問いに、男は肩をすくめた。
「借りがあるんだ。」
ルンタの義眼が淡く明滅する。
「昔、拙者に“人間”を教えたやつがいてな。」
ほんの一瞬、目が遠くを見る。
「そいつへの恩返しさ、また機械に戻っちまう。」
ルンタは剣を軽く振る。
「拙者はルンタ。見ての通りサイボーグさ。」
口元が笑う。
「だがな。」
義眼が淡く光る。
「中身まで機械にするつもりはない。」
「面白いサイボーグがいたものだな。」
エリックの顔に笑顔が少し戻る。そして二人は安全地帯へ歩みを進めた。
⬛︎⬛︎⬛︎
——なぁリッちゃん。面白いサイボーグを見つけたんだ。
——何それ!?強いの!?かっこいいの!?
幼いリサは兄の腕にぶら下がる。
——戦争の中でな、死んだやつまで戦わせるようになった。
「えぇーっ!?それズルじゃん!」
リサは頬をぷくっと膨らませる。
——死者の命を冒涜するな、って思うよな?
「うん!ダメ!絶対ダメ!」
兄はくすりと笑う。
——だから、お前は、出会いを大事にしろ。
「うん!じゃあ私はお兄ちゃんを一番大事にする!」
兄はリサの額をつんと突く。
——隣に立てる強さを持てよ、リッちゃん。
⬛︎⬛︎⬛︎
「……ひとり……いや……。」
リサがエリックの服をぎゅっと掴む。
エリックの動きが止まる。
「よかったな。一応生きているようだぞ。」
ルンタが淡々と言う。
エリックは咳払いする。
「……くっ、普段は“自分で歩けますけど?”みたいな顔してるくせに……」
エリックは小さく呟く。
「今だけは甘え放題とか反則だろ……」
ルンタが無言で見る。
「安心しろ。拙者は報告しない。」
「いや待て!?言い方が悪い!」
エリックは少し速く歩く。
「ルンタお前、死後兵だろ?戦争時代の。」
エリックは一瞬言葉を探し——話題を変えた。
「知っているのか?」
ルンタは静かに聞いた、エリックは小さく頷く。
ルンタは静かに問いかける。
「拙者のことを少しお主に話そう……。その前に、お主の名は?」
「エリックだ。」
「“エリック”か。いい名だ。では話そう。」
ルンタは声のトーンを落とす。
「拙者は戦国の世に生まれた。」
風が抜ける。
「拙者は、今で言う“承認欲求モンスター”だった。」
わずかに自嘲が混じるが、その目には哀れみがあった。
「殿に認められたい——ただそれだけだった。」
「そのために、無関係の者まで斬った。」
刀に視線を落とす。
「この刀でな。」
「剣士として……恥だ。」
——静寂
エリックが乾いた笑いをこぼす。
「はは。どうやら僕も同じようだ。」
エリックの視線はどこか遠くを見ていた。
「僕は魔法戦争を終わらせた。禁断魔法を使ってな。」
一瞬、空気が冷える。
「あの時は、凄かったさ。」
「一瞬で命が奪われ、跡形もなく、全てが塵になった。」
エリックはよいしょと、リサを肩に乗せ直す。
「英雄と呼ばれた。」
エリックは自嘲気味に息を吐く。
「でも、僕にとってはどうでもいい。」
エリックの目が曇る。
「それよりも——」
「目の前で死なせた友達——一人も救えなかった自分が“英雄”?」
エリックは薄く笑う。
「バカバカしい話だろ?」
「あぁ。本当にバカバカしい。」
静寂の中、ルンタが低く呟く。
義眼が淡く明滅する。
「だがな。」
エリックをまっすぐ見る。
「そいつと“今のお主”は別人だ。」
ルンタは一呼吸おく。
「拙者は、そう見える。」
通路の奥で魔力がうねる。
エリックは目を伏せたまま、小さく息を吐く。
ルンタは拳を握り金属の指が軋む。
「拙者は永遠の時を生きる。」
ルンタの視線が、どこか過去を見つめる。
「ならば、その時間すべてで償う。」
剣を静かに構える。
「もう二度と、傷つける矛ではなく——」
ルンタはそっと目を閉じる。
脳裏に、血に濡れた戦場がよぎる。
殿の声。
名を呼ばれた日の高揚。
そして——
守れなかった者たちの背がありありと浮かぶ。
「誰かを守る“盾”になる。」
ルンタは迷いなく言い切った。
エリックはリサを背負い直し、前を向く。
「……隣に立つ覚悟、か。」
ルンタが並びほんの一瞬、互いを横目で見る。
「「……今は、ある。」」
二人は歩き出す。
——安全地帯へ
「はぁ今日はだいぶ重めになってしまった……。」
「拙者の初登場回……重いな……。」
「それにしても、僕が英雄なんて、これほど空虚な人生だな。」
「……そんなことないよ……」
「「……!」」
「……私にとっては最高の英雄です……。」
「録音していいかな?」
「エリック殿、おすすめはしないぞ。」
「次回、」
「「再来とその果てに」」
「録音しちゃった。」
「消せ。」
「バックアップもある。」
「消せ。」




