第零話 ガラクタと家計簿
初めまして、ご覧いただきありがとうございます。
魔法が当たり前になった20XX年の世界で、ちょっとダメな青年としっかり者の弟子が旅をする物語です。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。
なお、この物語は作者の好みで非常に重い展開とバカ丸出しの展開がやってきます。本当に頑張ってついてきてください。
20XX年
かつて世界は、科学で回っていた。
電気が灯り、機械が動き、人は理屈で未来を切り開いた。
——だが今は違う。
この世界は、魔法で回っている。
「……エリック。今すぐ、正直に白状してください。私の財布から消えた銀貨30枚はどこへ行ったんですか?」
すっかり日が落ちた千葉のある荒野の中に、冷ややかな声が響く。
隣で家計簿を握りしめているのは、エルフの少女リサだ。
その尖った耳は怒りで微かに震えている。
「あ、いや、リサ。これには深い……それはもう、海よりも深い理由があるんだ」
青年エリックは、泳ぐ視線を無理やり前方に固定した。
かつてシップブリッジ村の海岸で、命を刈り取っていた冷徹な魔法使いの面影は、今やどこにもない。
「理由、聞きましょうか」
「……昨日寄った村の廃品回収業者にね、いたんだよ。魔法回路が初期型の、幻の『真空管ラジオ』が。放っておけばスクラップにされる運命だったんだ! 僕が救わなければ、あの芸術品は永遠に失われていた!」
「それで私たちの今月の食費を全額突っ込んだんですね!? このダメエリック——!!」
リサの怒声に、サボテンがびくんと揺れた。
エリックは慌てて、カバンから取り出した「黒い鉄の塊」を愛おしそうに撫でる。
「見てくれリサ、この無骨な配線。魔法で一瞬で音を飛ばす現代のデバイスにはない、この『温かみ』が……」
「温かみでお腹は膨れません! そもそも、エリックは魔法の使い方も雑なんです。さっきも“お湯を沸かす魔法”に失敗して、私のお気に入りの鍋を真っ黒に焦がしたじゃないですか!」
「それは、理論的には成功していたんだ。ただ、魔力配分が少しだけ……」
エリックは、母の仇を討つための「殺しの魔法」に関しては超一流だ。だが、生活を彩るはずの日常魔法に関しては、驚くほど不器用だった。
そんな彼が今日まで健康に旅を続けられているのは、
ひとえに仲間のリサが、母親か年上の妻のように甲斐甲斐しく世話を焼いているからだった。
「いい、エリック。今日から楽園に着くまで、晩ご飯は野草スープだけですからね。文句は一言も受け付けません」
「そんな殺生な……。リサ、せめて魔力回復用の干し肉くらいは……」
「却下です!」
魔法が現実になり、夢が日常になったこの世界。
伝説の地「楽園」を目指す二人の旅路は、ロマンと、魔法と、そして切実な空腹に満ちていた。
「はぁ……早く楽園に着かないかな。そこに行けば、エリックの浪費癖も治るのかな?」
リサが溜息をつきながら窓の外を見る。その横顔を見ながら、エリックは心の中で呟く。
(……楽園に行けば、仇も、僕の呪われた過去も、すべて清算できるはずだ)
壊れたラジオが、エリックの魔力に反応して「ザザッ……」と小さなノイズを鳴らす。
金欠共は、夕日に向かって不器用に歩き続けた。
「次回予告の時間だ」
「え、でも次回って、私まだ出てないよね?」
「安心しろ。君はまだ不幸の真っただ中だ」
「安心できる要素どこ!?」
「エルフが追われる。悪党が出る。僕が出る」
「急に雑な説明!」
「そして全員、だいたい死ぬ」
「やめて!? 私の初登場回それでいいの!?」
「放心状態の君を前に、僕は深刻そうな顔で人生を語る」
「今と真逆じゃない!」
「なお、この頃の僕はまだ」
「まだ?」
「こんなにふざけていない」
「それ一番のネタバレだよ!」
「次回——」
「「殺しの魔法と出会い」」
「温度差で風邪ひかないようにね!」
「情緒は各自で管理しろ」




