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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第48話

 言葉を探していると、腰に回された手にグイと引き寄せられた。


「共に努力するのはもちろんだが、俺は仕事上だけじゃなく、婚約者としても仲を深めていきたい」

「だから何で急にそんな素直に! ちょっと待っ……そういうのは全部落ち着いて一段落してからです!」


 にぎゃーっと猫のように突っぱねると、意外にも彼はあっさり離してくれた。助かったと思いながらそちらを向くと、両手を上げたアルは平然とした様子でこう続けた。


「安心しろ、無理強いはしない。プリシラのペースに合わせる」

「そ、それはどうも……?」


 身構えながら謎のお礼を言ってしまう。すると彼は余裕たっぷりに笑った。


「あぁ、そちらから来るのを待てばいいだけだ」

「……」


 それはそれは……ずいぶんな自信家ですこと。ムッとしてジト目で睨み返す。そう言われてホイホイ行くように見えます? だとしたらずいぶんと見くびられたものだ。


(ふふん。私がそんなにチョロい女だと思ったら大間違いですよ)

「――とでも、言いたげなドヤ顔をありがとう」

「なっ……、思考を読むなー!」


 ついツッコミを入れると、ムズムズと口の端を引きつらせていたアルはもう堪えられないとばかりにアハハハッとお腹を抱えて笑い出した。腹立ちまぎれにその背中をドスと叩くと、爆笑を止めない彼は攻撃から逃れるように身をよじる。なのにふいに滲む涙を拭いながらこちらを見下ろした。


「かわいい」


 心底、愛おしくてたまらないといった眼差しを向けられて、私はうぐぅぅ~と歯噛みをする。負けない! ぜったいに落ちないんだから!

 そうだ、こっちばっかり振り回されるなんて不公平だ。そう考えた私は腰に手をあてて宣言する。


「いいでしょう、その勝負受けて立ちますよ! 先にそっちに音を上げさせて『おねがいですからイチャイチャさせて下さい』って、降参させるんですからっ」

「……それは楽しみだな」


 えっと……要はアルが余裕を失うほど私にドキドキさせればいいんでしょう? つまりは彼が私に言うようなことを真似してやり返せばいいのだ。


「えーとえーと……アルカッコいい! イケメン! 頼りになる!」

「あーかわいい、ほんと……かわいすぎないか、お前……」


 顔を覆って俯いてしまう彼に確かな手ごたえを感じる。よし、この分なら私が手玉に取るのも時間の問題だろう。なんちゃって悪女とお呼び。調子に乗った私は『イイ女』を気取りながらそっけなくその場を後にしようとした。


「オホホホ、だけどごめん遊ばせ。生憎わたくし魔術の研究で忙しいんですの」

「研究と言えば……そうだプリシラ」

「ん?」


 だけど、ふと思い出したかのように真面目な顔で引き留められる。所長モードに戻った彼の目は、純粋に好奇心を宿していた。


「氷晶のゆりかごを破壊した時、魔力が足りなくて俺のを分け与えただろ?」

「っ、」

「理論上はできそうなのを思い出して試してみたんだが、あの時、妙に増幅したよな? 何か未知の反応が起きたというか」


 その時のことを思い出して、心臓がドキッと高鳴る。


 すらりとした長い指が私の手を握り込み、私の内側に潜り込んでくるような粟立つ感覚が背すじをゾクゾクと走り抜ける。それはなんというか、はっきり言って、その、気持ち良……。


「あれは興味深い現象だった、この後時間があるならもう一度試して――」


 ――プリシラ、俺を受け入れろ


 張りつめた声が耳もとでフラッシュバックして、今日一番の熱がブワァとこみ上げる。だってそれはっ……えっ!? そのっ、


「う、うわぁぁぁぁあ!!!」

「?!」


 恥ずかしくて思わず叫ぶと、ぎょっとしたようにアルが一歩退く。その隙を逃さず、私はバネ仕掛けのように跳びあがりながら逃げ出した。


「あ、あーっ、ちょっと散歩いってきます! タマ、タマおいでー! どこー!?」


 返事を待たずに階下へ慌ただしく降りていく。いつの間にか足元にスルリと並走していたモフモフを伴って塔の外へ出ると、膝に手をつきながら肩で息をした。


「う、うぅぅ……」

『プリシラ 顔まっか』

「言わないでよぉ……」


 こんな状態でまさか戻るわけにもいかず、一息ついた私は本当にしばらく散歩することにした。私たちが作ったお掃除スライムが通りを清掃しているのを横目に見ながらゆったりと歩く。


「街、だいぶ元通りになってきたね」


 凍結騒動からだいぶ経ち、フロストヴェインの首都もだいぶ賑やかさを取り戻してきたみたいだ。短い脚をせわしなく動かしているマヌルネコを横目に、私は問いかけた。


「それからどう? ご主人さまたちから何か接触はあった?」


 それに対して、かみたまはクルルル……と、小さく喉を鳴らす。


『なんにも でももしかしたら このエピローグが終わったら なにかしらアクションはあるかも?』

「エピローグって……まぁ、言われてみればこういう会話っていかにも『後日談』っぽいかも……」


 うーん、相変わらずメタい。でも、この世界が終わっていないっていうことは少しは希望を持ってもいいんじゃないだろうか。


 ――ご主人とやらが俺たちの世界に干渉してくることはない、そして干渉する事ができるタマはこちら側に抱き込んだ。ならばもう、この世界は解放されたのと同義だろう。


 アルとそう話したことを思い出す。もし仮に新たなかみたまが送り込まれてきたのなら――それはその時だ。


(だって私はもう、自分の好きなように生きていけばいいって知っている。それが、私の物語になる)


『にゃふっ!?』


 目の前を横切った蝶を、タマが追いかけていく。一人残された私は、春を含んだ風に髪をさらわれながら目を閉じて胸に手を当てる。


(ね、ご主人様――画面の前にいるあなた(・・・)。この物語を少しでも楽しんでもらえた?)


 だとしたら嬉しいな。私は、この世界は大丈夫。ここまで見守ってくれて、ありがとう。



(私が選び取ってきた未来を、見届けてくれて、ありがとう)



 この気持ちは届くだろうか?

 不思議と、誰かに伝わったような気がした。


 私は、パッと目を開けて澄み切った青空を見上げる。

 そして、大きく両手を点に突き上げるて晴れやかに叫ぶのだった。



「よーし、今日もがんばるぞーっ!」



 おわり

最後までお読みいただきありがとうございました。

少しでも楽しんで頂けましたら、ブクマ・評価をぽちっとして頂けるとプリシラに伝わるんじゃないでしょうか。なにとぞ、ご主人様。

読後感が肌に合ったなと思いましたら、作者ページよりもう一本いかがでしょうか。サクッと読める短編から読み応え十分な長編まで取り揃えております。今後ともよろしくお願いします。

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